だから東大でさえ時代遅れ扱いされる…米ハーバード大学の入試で受験生が問われる"たった一つの合否の基準"
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名門・ハーバード大学ではどのような入試が行われるのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「入試方法や合否の基準は公表されていないが、実際に関係した人の話を複数聞き、その情報を貼り合わせていくと、見えてくるものがある」という――。 ※本稿は、茂木健一郎『意志の取扱説明書』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
IQだけでは捉えられない「多様な知能」
20世紀が始まった頃から、人間の知能に関する研究は進んでいて、まずイギリスの心理学者チャールズ・スピアマンが提唱したのが「gファクター(因子)」である。ひとつのテストがよくできた人は、別のテストの成績もよいという事実から、知能には、いろいろな能力をカバーする共通因子があることを見つけて、「gファクター」と名付けた。「知能指数」(IQ)というのは、そうした中からでてきたのである。
それに対し、「人間にはIQといった物差しだけでは捉えられない多重的な知能」があると提唱したのが、ハーバード大学教育学大学院教授のハワード・ガードナーだ。ガードナーの多重知能理論によれば、人には「マルチプル・インテリジェンス」が備わっているという。大きくわけて「八つの知能」があるとし、言語、論理・数学、空間、身体・運動、音楽、人間関係・形成、自己観察・管理、自然と分類している。
知能とは単一なのか、複数の能力によるものなのか――この大論争はまだ決着がついたわけではない。いまだに論争が続いている大きなテーマである。
僕は、受験もそうだし、企業が従業員の能力・パフォーマンスを測るときの物差しがモノカルチャーすぎると考えている。いまでも日本の入試はペーパーテスト絶対主義の傾向が強いから、点数が1点でも高い人を入れる。
欧米では学力試験さえない大学がある
「公平」のように思うのだが、それもある意味バイアスである。人間の判断を関与させていないのだが、試験日にたまたま頭がボーッとしていて、試験がよくできないということぐらいあるからだ。
だから受験でうまくいった人も、あまり自分の実力を過信せずに歩んでほしいし、受験で失敗したからといって自信をなくす必要はない。後半で述べる方法で十分逆襲できるからだ。
ここからは、制度としては明らかに優れている海外大学の入試の例を記したい。日本の受験生も諸条件が整うのであれば、こちらの大学を受験したほうがいいだろう。
まず、カナダである。
カナダのトロント大学では、学力試験をしない。この大学には、AI研究の第一人者で、“人工知能のゴッドファーザー”の異名をとるジェフリー・ヒントンが名誉教授を務めている。しかもヒントンの弟子にはイリヤ・サツキバーがいる。彼は、OpenAIで、ChatGPTを作った中心人物の一人で、いま非常に脚光を浴びている研究者の一人である。
そんなAI研究の先端を行く人材を生む大学が、学力試験を行わない判断を下したのだ。