子どもが秘密を持ちたいと思うのは当たり前。スマホに潜む危険をどう伝える?【出口保行×藤本美貴②】

子どもが秘密を持ちたいと思うのは当たり前。スマホに潜む危険をどう伝える?【出口保行×藤本美貴②】

今回は「子どものメンタル不調やSOSにどう気付く?」をテーマとして、1万人の非行少年・犯罪者の心理分析を行ってきた犯罪心理学者の出口保行さんに話を聞きました。聞き手は、3児の母であるタレントの藤本美貴さん。後編は、スマホにひそむ危機について。

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藤本美貴。1985年北海道滝川市生まれ。2002年に歌手デビュー。現在は3児の母として、ママタレントとしても活躍しており、テレビ朝日『夫が寝たあとに』、NHKの新歌番組「JOYNT POPS」でもMC務める。YouTube「ハロー!ミキティ」が大好評。2024年9月に著書『ミキティ語録 前しか見ない』(CCCメディアハウス)が発売。
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出口保行。犯罪心理学者。1985年に東京学芸大学大学院教育学研究科発達心理学講座を修了し、同年、国家公務員心理職として法務省に入省。以後全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人を越える。2007年に法務省法務総合研究所研究部室長研究官を最後に退官し、東京未来大学こども心理学部教授に着任。現在は副学長。代表的な著書に「犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉」(SB新書)。

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「テストで100点」いい報告しかできない子どもは要注意?親がすべき行動観察【出口保行×藤本美貴①】

スマホとの付き合い方に正解はない

出口先生:次は、「スマホにひそむ危険」がテーマです。子どもがスマホを持つことに関するリスクはさまざまありますよね。動画などのメディアが多いことで、言語能力が低下する。表面的な情報ばかりを受け取るなかで、現実世界との区別が曖昧になる。感情を理解する力が育ちにくい。もちろんインターネットを介した犯罪に巻き込まれることも増える。

このようにいろいろなリスクが挙げられさまざまな議論もありますが、藤本さんのご家庭ではスマホは持たせていますか?

藤本さん:一番上の子だけ、中学校に上がる少し前から持たせています。今のところはアクセスできる情報や、使用時間の制限をして使わせています。宿題など、やらないといけないことが終わらないと使えなかったりと、ある程度は親のほうで管理をしていますね。

でも、もっと自由に使わせたほうが、失敗も通じながら学びにつながることもあるのかなとも思っていて、旦那ともよく話し合っています。たとえば大人でもボーっとスマホを見ていて気付いたら一時間も経っていた、というようなことがあるじゃないですか。

だから、早いうちから自由に使わせることで、失敗もしつつ正しい使い方を習得していくのか。今は子どもとしてやらないといけないことを優先させるべきなのか、いつも迷っています。


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出口先生:どうするべきなのか結論は出ない問題だし、絶対にこれが正しいという正解はないですよね。

藤本さん:そうですよね……。そもそもスマホやインターネットとの付き合い方って、大人でも難しいですよね。ネットニュースのタイトルだけを見て分かった気になるけど、内容を読んでみたら全然違うこともあるじゃないですか。

私自身、ネットニュースに載ることもあるので、子どもが学校の友だちから「お前のお母さん、こう言ってたよ」と言われることもあるみたいなんです。でも、「私そんなこと言ってないよ」ということもやっぱり多くて。だから、ネットの表面上の情報をそのまま鵜呑みにするのではなくて、しっかり中身まで確かめたり、自分の頭で判断することが大事だと伝えています。


「秘密を持ちたい」は子どもの特徴

藤本さん:あとは、顔が見えないからこそのインターネットの怖さも伝えています。「SNSで同世代の友だちとつながったと思っていたら、会ってみたら実はおじさんだったりするんだよ」「SNSに顔を載せたら目に映っている景色で家がバレて、怖い人に連れていかれた事件もあるんだよ」など、脅したいわけではないですが、事実は伝えるようにしていますね。

スマホを持っている一番上の子にも、知らない人とSNSでつながることは、今はまだしないほうがいい、と言っています。

出口先生:子どもはSNSの危険性を認知していないことが多いので、結末にどのようなことが起きる可能性があるのか、それを伝えるのは親の役目ですよね。


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出口先生:子どもの特徴のひとつに、「秘密を持ちたい」ということがあります。大人だって、自分の子ども時代を思い出すと、秘密を持つことは楽しかったですよね。ただ、子どもがまずい秘密を持たないように、必ず注意して見ていないといけません。

藤本さん:まずい秘密なのかそうではないのか、子どもがちゃんと線引きできるのか、不安です。

出口先生:そうですね。ただ、センセーションシーキング(※)といって、青少年は刺激を求めて当たり前なんです。また、危険だからといって、すべてを制限できるかといったらそれもできない。だから、子どもがどんなことは秘密にしたいと思っているのか、そのなかで親がどこまでは許容できて、どこからは禁止とするのか、その線引きを家族で共有できることが大事なんだと思います。

藤本さん:なるほど。子どものスマホを覗くのはNGですか(笑)?

出口先生:ちゃんと断ってから見せてもらうのはいいですが、勝手に覗くのはだめですよ(笑)。

藤本さん:そうですよね。うちは、「勝手に見ないから、何かあったときのために暗証番号だけは教えて」と言っています。

※センセーションシーキング:刺激を求める行動傾向


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子どもの「自己肯定感」はちょっとした一言で上がる

藤本さん:最近はメンタルが弱い子が多かったり、そもそも日本人は自己肯定感が低いとよく聞きますが、何がそうさせているんですか?

出口先生:日本人の遠慮や謙遜が美徳とされる文化の影響が大きいと思います。子どもがいる前で「うちの子なんて~」と自分の子を卑下してしまうのも文化ですよね。だから、海外のように自分の子どもを人前でいきなり褒めようと思っても難しいと思うので、子どもと二人きりになったときにフォローすることが大切です。

「さっきはこう言ったけど、あなたが本当は頑張ってることは知ってるからね」と、一言伝えるだけでいいんです。それだけで子どもは、親は本当はわかってくれている、と感じることができるので。外では謙遜するけど、本気で思ってるわけではないと伝えてあげる努力が必要です。

藤本さん:意外と簡単ですね! ちょっとした一言で子どもの自己肯定感が上がったり、メンタルが強くなるのなら、こんなに簡単なことはないですよね。

出口先生:そうですね。親が自分のいいところを知ってくれてると思うだけで子どもは安心するし、家にいたくなるんです。非行少年は、それを親にしてもらっていないことが多いんです。親にけなされることばかりで、どこに救いを求めるかといったらSNSなんですね。本当の自分を知らない人にチヤホヤしてもらったり、褒めてもらったりする。

藤本さん:なるほど。でも、SNSで本当の自分を知らない人たちにチヤホヤされたとしても、結局現実の世界で頑張らないと成長はないし、自己肯定感が高まることもないと思うのですが……。

出口先生:虚構の自分と現実の自分のギャップがあって、そこに悩むことがあって当然です。自分にはどんな顔があって、そのなかでどれが本当の自分なのか、それを自分で分かっていることが重要です。でも、自己肯定感が低い子ほどそれが分からないのです。渋谷のトー横とか、大阪のグリ下と呼ばれる場所に集まってくる子たちは、特に自己肯定感が低い。


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※写真はイメージ(gettyimages/Blackzheep)

トー横やグリ下は非行少年が集まる場所といったように報道されることが多いですが、非行を求めてそこに行く人はいません。自分をどう肯定していいか分からないから、居心地のいい場所をなんとか求めているだけなんですよね。ただ、そういう場所に行くことで結果として非行にまきこまれてしまうことがとても多く、見ていても辛いですよね。

ただ、前回お話したように、親が自分のことをちゃんと見てくれている、ということが子どもに伝わっていれば、自己肯定感がそこまで下がることはありません。自分を大事に思ってくれる人がこの世界にいると感じられるので。そのためにも、親は「あなたのことをちゃんと見ているよ」というスタンスを伝え続けることが大切です。


反抗期は自分の価値観ができてきた証拠

藤本さん:思春期になると、反抗期がくるのは当然だと思っていましたが、最近は反抗期がこない子もいると聞きます。でも、反抗期はあったほうがいいという人もいて、実際はどうなんですか?

出口先生:心理学的にいうと人間が発達するうえで、第一反抗期と第二反抗期がきます。第一反抗期は自我が出始める頃にくる、いわゆるイヤイヤ期です。第二反抗期は思春期で、大体は中高生の頃。どちらも基本的にはあって当たり前で、ないとおかしいものです。発達をしていくなかでクリアしなければならない課題であり、それによって成長が担保されていきます。

ただ、反抗の仕方が人によってだいぶ違うんですよね。本当に目くじら立てて「うるせー!」と言う子もいるし、無視をする子もいる。もしくは、顔を笑ってるけれど心は拒否しているパターンもあって、本当に人によって違います。もし本当に反抗期がないのであれば、発達課題をクリアしてないことであり、よいことではありません。

藤本さん:子どもの反抗期がなかったという家庭では、顔で笑って心は拒否しているパターンだったり、分かりにくかったのかもしれませんね。そもそも反抗期はなぜあるのですか?


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出口先生:反抗期は、自分の価値観が出来上がってきている証拠なんです。自分はこうしたいということが明確になってきている。先生や親の言うことに従うだけではなく、「私はこう思う」と、主体的に判断できるようになってきた証拠。

これって社会に出ると必要な能力ですよね。人に指示されたことしかできない人は社会で活躍できないので。だから、反抗期はあって当たり前だし、必要な時期なんです。そして、反抗期は、特定の相手に対してのみ反抗するのがほとんどですよね。

藤本さん:たしかにそうですね! ほとんどは相手が母親のイメージです。

出口先生:そうですよね。物事すべてにイヤイヤ言って、学校でもどこでもイヤイヤしてたら、それは性格形成に問題がありますが、そうじゃないですよね。誰に対して反抗しているのかを、親は見てあげる必要があるし、親が被害を被るのは仕方ないんです。

だから、反抗期がくると最初は戸惑うけれど、だんだんと「またやってるな……」と悟りのような心境になる親が多いんだと思います。それくらいの気持ちで受け止めるほうがいいんですよね。

子どもたちの悩みが多様化している現代だけど、親はできるだけ子どもの気持ちを尊重してあげること。そして、子どもも反抗期を抜けてある程度大人になってくると、親に対して感謝や労わりの気持ちを持つようになる。そして次は自分が親になって子どもを育てていく順番になる。そのような循環であるべきだと思います。


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出演者情報

藤本美貴

書籍情報

「ミキティ語録 前しか見ない」
■著者:藤本美貴
■出版:CCCメディアハウス
■発刊:2024年9月


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YouTube

ハロー!ミキティ
https://www.youtube.com/channel/UC0BSwbn-6xUz_ZiRzwVj27w

出口保行

書籍情報

「犯罪心理学者は見た 危ない子育て」
■著者:出口保行
■出版:SBクリエイティブ
■発刊:2023年8月

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