「テストで100点」いい報告しかできない子どもは要注意?親がすべき行動観察【出口保行×藤本美貴①】

「テストで100点」いい報告しかできない子どもは要注意?親がすべき行動観察【出口保行×藤本美貴①】

夏休み明けは子どものメンタルが不安定になる時期。今回は「子どものメンタル不調やSOSにどう気付く?」をテーマとして、1万人の非行少年・犯罪者の心理分析を行ってきた犯罪心理学者の出口保行さんに話を聞きました。聞き手は、3児の母であるタレントの藤本美貴さん。前編は、夏休み明けに多い「子どものSOS」の気付き方。

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藤本美貴。1985年北海道滝川市生まれ。2002年に歌手デビュー。現在は3児の母として、ママタレントとしても活躍しており、テレビ朝日『夫が寝たあとに』、NHKの新歌番組「JOYNT POPS」でもMC務める。YouTube「ハロー!ミキティ」が大好評。2024年9月に著書『ミキティ語録 前しか見ない』(CCCメディアハウス)が発売。
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出口保行。犯罪心理学者。1985年に東京学芸大学大学院教育学研究科発達心理学講座を修了し、同年、国家公務員心理職として法務省に入省。以後全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人を越える。2007年に法務省法務総合研究所研究部室長研究官を最後に退官し、東京未来大学こども心理学部教授に着任。現在は副学長。代表的な著書に「犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉」(SB新書)。

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夏休み明けの子どものSOSに気が付けるか

出口先生:夏休み明けは、9月1日問題とも言われていて、学校に行きたくない子どもが増えたり、メンタルが不安定になったり、自殺者も増えてしまいやすい時期です。どうすれば子どもの些細な変化やSOSに気付くことができるのか、まずは現役のお母さんである藤本さんに聞いてみたいと思います。藤本さんはお子さんの夏休み明けの時期に、なにか気になることはありますか?

藤本さん:我が家は一番上の子が12歳の中学生ですが、今のところは夏休み明けに「学校行きたくない」と言ったことはないですね。でも、夏休み中は夜遅くまで起きていたり、生活リズムが変わったりもするので、夏休み明けは朝起きるのが辛かったり大変そうです。

出口先生:ゆっくり過ごしていた夏休みと、また学校が始まるという緊張感の落差が大きいですよね。大人も毎日会社に行くのは大変だけど、学校は社会の縮図ですからね。


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藤本さん:子どもって学校に行くといろいろなことを一日で詰め込まれるから、忙しくて大変なんだなと思います。ただ、うちは一番上の子が思春期に入ってきているとはいえ、会話がすごく多いので、なにか悩んでいるときも声のトーンや表情で気が付きやすく、そういう面では助かっています。

実は、上の子が小学校低学年くらいのとき、なんか様子がいつもと違うしおかしいな、と思う時期があったんです。特に何か話してくれるわけではないのですが、明らかに様子がおかしくて。そのときは、学校の帰り道の様子をこっそり覗きに行きました(笑)。

そこで、友だちとの様子を見て察することがあったんですが。ただ、子どもが学校でどんなふうに過ごしているのか親は見ることができないので、過保護になってしまいそうなときもありますよね……。

出口先生:ちゃんとお子さんの様子を見ていて素晴らしいです。一番大事なポイントは「行動観察」です。その子がいま、どういう状態におかれていて、どんな思いをしているのか。これは日々観察しているなかで微妙な変化があるはずですが、観察していないと変化に気が付くことはできません。

藤本さん:うちの場合は、「思春期なんだから、たまには自分の部屋に行ったら?」と思うくらいずっとリビングにいるんですよね(笑)。だからなんとなく様子に気付くことはできるけど、もっと年齢が上がっていくと部屋から出てこない子もいるじゃないですか。そういう場合は、どうしたら子どもの些細な変化に気付けるのでしょうか?


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出口先生:子どもが部屋から出てこないからといって、親がドアをこじ開けて入ったところでなんの意味もありません。ポイントは、接触できる時間でいかに有効なコミュニケーションが取れるかということ。部屋に閉じこもるといっても、一日中まるっきり閉じこもっている人はいないですよね。食事などでリビングにいる時間で、いかに変化に気付けるかどうか。

心理学では「共感性」といいますが、いま相手がどんな感情なのかをきちんと推測することが大切です。大人になってくると顔は笑ってるけれど心は冷えてるときがあるように、パッと見ただけではわからないような子どもの感情をしっかりとキャッチしないといけません。藤本さんは、お子さんと過ごすなかでしっかりキャッチしているので、共感性がとても強いんだと思います。


子どもに信頼してもらうことが何よりも大切

藤本さん:ありがとうございます。でも、異変に気付いたとしても、何をしてあげたらよいのか、あるいは何もしないで見守るのがよいのか、それがまた親として悩むポイントですよね。

出口先生:子どもは敏感で、「何か困ったときにこの人なら信頼して話してもいいのか」と、常に見ています。非行少年は親に話せないから、気持ちのやりどころがなく、それが非行につながる原因でもあるんですよね。だから親が「あなたのことを見ているし、何かあったら話してほしい」というスタンスを普段から出していることが必要なんです。


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藤本さん:声のかけ方として何かポイントはありますか?

出口先生:子どもに対するコミュニケーションは2パターンあります。ひとつは「ああしなさい、こうしなさい」を親が指示をするパターン。もうひとつは、指示はせずに話を聞いてあげるパターン。親子間で必要なコミュニケーションは後者で、とにかく話を聞いてあげるスタンスが大切です。

私の父親は小学校の校長だったんですが、父が言うには、子どもは切羽詰まらないと喋らない、ということです。だから、切羽詰まって助けを求めたときには、かなり状況が深刻になっているんです。そうならないように、「いつでも言っていいよ」というスタンスを出し続けることが大事だと父は言っていました。

藤本さん:なるほど。子どもが不登校や引きこもりになってしまったとき、親はどうするのがよいのでしょうか? 触れるのが怖くなるというか、自分が何か言ったことで余計に引きこもってしまったらどうしよう、と考えてしまいそうです。

出口先生:本当に難しいですが、学校に行きたくないことは事実なので、引っ張って連れて行ったところでもっとイヤになってしまいますよね。だから、子どもに対してなにか指示をすることで問題が解決することはもうないのだと、まずは親が自覚すること。そして、不登校になっている原因を時間をかけて引き出して、話を聞いてあげられるかどうかがポイントだと思います。

そのために、とにかく子どもに寄り添っていることをメッセージとして伝え続けること。昨今話題になる渋谷のトー横や大阪のグリ下に集まる子どもたちに共通しているのは、話したいことがあっても親に言えない、ということ。話を聞いて共感しあえる仲間がいる場所に逃げ出してきちゃうんですよね。


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※写真はイメージ(gettyimages/Lemon Pie)

藤本さん:もし子どもが学校に行かなくなってしまったら、話を聞いて、あとは待つしかないんですか?

先生:待つしかない場合もありますが、一律にこうやったらうまくいくという解決法はありません。子どもが出しているサインをどのように受け取ってあげることができるのか、それが大事です。

学校に行けない理由もさまざまあって、明確な理由があって本当に行きたくない場合もあるし、行きたい気持ちはあるけれど行けないという場合もありますよね。そういうときは転校して環境を変える方法もあるし、子どもが何を求めているのかによって、対応方法は違いますよ。

藤本さん:何がイヤなのかを時間をかけても探っていかないといけないんですね。

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出口先生:話を聞いていると、藤本さんも旦那さんもお忙しいのに、お子さんとの関係性ができていてすごいなと思います。お子さんは何かあったらSOSを発信してくれると思いますよ。SOSが言えない子は、「テストで100点だった」とか、いい報告しか親に伝えられないですから。

藤本さん:もしあまり話してくれないときでも、「今日どうだった?」とかは日常的に聞いたほうがいいですか?

出口先生:そうです。毎日聞いていることで、何かの瞬間に言えるタイミングがきますから。子どもは普段、お父さんお母さんに心配かけないようにしようと思って、何かあっても言わないのは当たり前のことです。ただ、本当にどうしようもないときに、「実はさ……」と言える関係性を日頃から作っておくことです。

藤本さん:私は、重いテンションで聞くと重く受け止められてしまうかなと思うので、「今日どうだった?イヤなヤツいた?」とか(笑)、明るいテンションで冗談風に聞いたりすることが多いです。そうするとけっこう話してくれたりするし、今のところはこの方法がうちには合ってそうです。


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出口先生:お子さんに合ったやり方がわかっていて素晴らしいですね! きっと藤本さんがお子さんをちゃんと普段から見ているから、状況に応じた声がけがわかっているんだと思います。

子どもって何かよくないことがあったとき、うまく隠すことはできなくて、ぎくしゃくした行動を取ったりします。普段だったらしないことをしたり、普段言わないようなことを急に言ったり。何にも聞いてないのに急に元気だとアピールしてきたり。普段と違う点がどんなふうに子どもから出てくるのかをつかむこと。やはり行動観察が必要ですね。

藤本さん:本当に難しいですね。なんか元気ないな、いつもと違うなというときには、「絶対に助けてあげるから、困ったら言いなさい」と言っていますが、届いていたらいいなと思います。

出口先生:きっと届いてますよ。大人は「言わずもがな」があるけれど、子どもには通用しないから、言ってあげることは必要です。何度も言ってると、「うざい」とか言われたりするけど、心のなかでは安心しているはずです。


どんな小さなことでも褒めることが重要

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出口先生:あとは、夫婦間が日頃からよく話し合っていることが大切で、子どもの行動に対する方針は決めておいたほうがいいです。お父さんとお母さんが全然違うことを言うのは一番よくないことで、子どもは何に従えばいいのかわからなくなってしまいます。非行少年の調査でも、お父さんとお母さんの言うことがバラバラだったということはよくあります。

藤本さん:我が家は、夫婦の話し合いは頻繁にしているほうかもしれません。子どもが小さいうちは、母親が怒っていたら父親は優しくする、とか役割分担をする家庭が多いと思いますが、大きくなってくると難しいなと感じます。

出口先生:やはりきちんと指導しないといけないことはあるので、夫婦間で方向性を揃えることが大事ですよ。

あと気をつけたほうがいいのは、もっと子どもを意識して褒めること。ルールを破ったときには叱るのに、ルールを守っているときに褒めることができる親は少ないです。少年院の先生は、褒めることがすごく上手で、「箸の持ち方いいね」とか些細なことで子どもを褒めます。非行少年の多くは褒められることに慣れてないので、それだけで天にも上る気持ちになります。

藤本さん:たしかに叱られるのに慣れちゃうと反省したふりをしたりするけど、実際はなんとも思ってなかったりしますよね。日本ではほとんどの家庭で褒めるより叱るほうが多いような気がしますが、褒めるのにも意識が必要ということですね。でも、箸の持ち方を褒めるのはなかなか難しいな(笑)。

出口先生:毎回箸の持ち方を褒めていたら子どもからうざがられるかもしれないけど(笑)。たまにでもいいから、今が褒め時だというのを親が考えて褒めてあげるのは、子育てのポイントになると思いますよ。


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