子どもを狙う性犯罪者はスマホやタブレットから忍び寄る?オンライン・グルーミングの手口

子どもを狙う性犯罪者はスマホやタブレットから忍び寄る?オンライン・グルーミングの手口

小学生の約半数がスマホを持つ時代、テクノロジーの恩恵の裏に隠れるリスクをどこまで把握していますか? コミックエッセイストのハラユキさんといっしょに、いま保護者が知っておきたいネットリテラシーを専門家に伺う新企画。第一弾は、ITジャーナリストの高橋暁子さんに、デジタル性犯罪の手口と対策について伺いました。

 
 

小学生のスマホ所有率は2020年時点で53.1%にも及び、そのうち70%の子どもがLINEを、13%の子どもがTwitterを利用しているという調査結果があります。

参考:内閣府「青少年のインターネット利用環境実態調査

東京都「家庭における青少年のスマートフォン等の利用等に関する調査

2019年に文科省が発表したGIGAスクール構想では、全国の児童・生徒1人に1台のデジタルデバイスと高速ネットワークを整備することを決め、現在ではすでにほとんどの学校で環境が整っています。

子どもがスマホを利用すれば、連絡が取りやすくなるなど利便性が高まる一方で、さまざまなトラブルに巻き込まれるリスクも生じます。特に今回は、子どもの心身に大きな傷を負わせるデジタル性犯罪についてお話したいと思います。

デジタル性犯罪とは、スマホやタブレット、PCなどのデジタルデバイスを用いてなされる性犯罪のこと。裸や下着の写真を送らせてその写真をばらまくと脅し、本人を呼び出して性暴力に及ぶこと、または送らせた写真を勝手にサイトにアップロードすることなどを指します。

こういったデジタル性犯罪に子どもが巻き込まれるケースが後を絶ちませんが、保護者の方は「会ったこともない大人にだまされるなんて信じられない」と思われるかもしれません。なぜ子どもたちは知らない大人に自分の裸の写真を送ったり、言われるままに会いに行ってしまうのか。加害者たちの手口を知ることで、そのからくりが見えてきます。

子どもへの性暴力を知る上で、グルーミングというキーワードがあります。

これは、子どもに性的な欲求を抱く加害者が、巧みに子どもの心をつかんで関係を構築することを指します。加害者は子どもの従順さや思春期ならではの悩みにつけ込んで、子どもに親身な態度を取ります。そうして信頼を勝ち取って反抗できない状態を作り上げてから、子どもに性的な目的で接近します。

 
※写真はイメージ(iStock.com/Oleg Elkov)

これを対面ではなく、オンライン上で行うことをオンライン・グルーミングと呼びます。特に子どもが利用するTwitterやInstagram、TikTokなどのSNS、フォートナイト、荒野行動などのオンラインゲームを介して子どもに近づく例が近年目立ちます。

警察庁によると、2020年に被害に遭った子どもは発覚しているだけでも1,800人超にも及び、実際には被害を大人に伝えられずにいる、あるいは被害だと気がついていないなどの例がそれ以外にも多く存在すると考えられます。

参考:令和2年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況

加害者が素性を偽ることもまったく珍しいことではありません。

たとえば小学生の女の子を狙う場合、加害者も同年代の女の子の顔写真をアイコンに使用するなど子どものふりをしてターゲットにコンタクトを取ります。

 
※写真はイメージ(iStock.com/Sitthiphong)

そうすると子どもも警戒心を持ちにくく、気づけば悩みを相談する仲になっていることも。加害者は子どもが心を許したことを確認してから、裸や下着の写真を送るように仕向けていきます。

具体的には、「私、身体のこの部分が人と違ってて悩んでるんだ」などと自分の(ものに見立てた)プライベートゾーンの写真を送り、子どもが「全然おかしくないよ」などと答えると、「じゃあ〇〇ちゃんの写真も見せて」と写真を送るように要求します。

ネット上とは言え、仲良くなった友だちを裏切りたくない一心で自分の写真を送ると、そこで加害者が本性を明かし「この写真をネットにばらまかれたくなかったら言うことを聞け」と子どもを脅して呼び出そうとするのです。

相談できる相手がほしかった、何でも話せる友だちがほしかった。そんな思いで応えた行動が悪意のある者に利用されてしまう。このように心の痛むケースが実際に起きています。

 
 
 

オンライン・グルーミングの手口をさらに見ていきましょう。

加害者はどのようにターゲットを見つけ出していると思いますか? たとえばSNSのプロフィールに「小3女子」などと書いていなくても、加害者は子どもたちのアカウントを探り当てることができます。

加害者たちが手がかりにするのは、TikTokなどで使用されるハッシュタグ。「#2学期」「#卒業式」など児童や学生しか使わない言葉で検索すれば、容易に子どものアカウントを見つけ出すことができます。

またTikTokでは音楽に合わせた踊りを投稿する若者が多く、本人の顔がそのまま映っていることも少なくありません。加害者は近づきたい子どものアカウントの投稿に「かわいいね」「踊りがうまいね」などとコメントやDMを送ってコンタクトを試みます。

 
※写真はイメージ(iStock.com/5./15 WEST)

2021年に小5の女の子がTikTokで知り合った男に呼び出されて性被害に遭う事件がありましたが、このケースでも男は女の子の動画に「かわいいね」とDMを送ってコンタクトを取り始めました。

DMをくり返したのちに男は「会いたい」と迫り、女の子は断り切れずに何度か面会します。その後覚悟を決めて拒否したところ、男が「会ってくれないとお前の家の前で死ぬ」と脅すため自殺を恐れて会いに行くと、ホテルに連れ込まれてわいせつ行為を受けました。

オンラインゲームの場合は、フレンド申請から関係を築いていきます。ゲーム内でフレンドになった大人と子どもが一緒に遊び、大人がゲーム内で子どもの命を助けるなど頼りになる行動を取って信頼を勝ち取ります。そしてゲームにあるボイスチャット機能を使ってリアルタイムで会話をしながら、子どもの個人情報を聞き出していきます。ゲームに夢中で油断した子どもは、実にあっさりと自分の住所や学校などを口にしてしまうのです。

 
※写真はイメージ(iStock.com/staticnak1983)

最終的な目的が実際に呼び出すことであれば、近場の子どもを選んでコンタクトを取ると考えるかもしれませんが、実際にはそうとも限りません。

2019年に大阪に住む小6の女の子が誘拐された事件では、荒野行動というゲーム内で友だちになった栃木在住35歳の男が大阪まで女の子を迎えに来て、その後栃木の自宅に連れて帰っています。このように、加害者には県をまたいで子どもを迎えに行くことさえ厭わない人もいます。

また、SNSやゲーム内の課金を利用した手口もあります。SNSもゲームも基本的には無料で利用できますが、一部の子どもたちの間には「有料アイテムや有料スタンプを持っていないと恥ずかしい」という意識が共有されています。

そのような心理をついて、LINEスタンプをエサに加害者が子どもを誘惑した例があります。2017年に、小4~6の女の子に「裸やパンツの写真をくれたら、LINEの有料スタンプを10個あげる」などと持ちかけて写真を収集していた男が逮捕されました。

LINEスタンプをくれる男の噂が女の子の間で出回って、自分から写真を送る子もいたようです。大人からすると「たかだか1個100円程度のLINEスタンプのために裸の写真を?」と思うかもしれませんが、子どもにとっては事情が違います。

「有料スタンプじゃないと友だちに送るのが恥ずかしい。でも自分で自由に使えるお金がない」そう思う子は案外多く、彼女たちの心理を狙った悪質な犯行と言えるでしょう。

 
※写真はイメージ(iStock.com/show999)

ゲームの場合でも、キャラクターや武器の見た目を変更するためのアイテム「スキン」を購入して、自分の好きな見た目にカスタマイズすることが一種のステータスになっています。このような状況で、有料アイテムをエサにすればいとも簡単に子どもが言うことを聞いてしまうというわけです。

子どもの性的な写真を集める加害者には、自分の性的欲求を満たす目的の者と、写真の販売でお金を得る目的の者がいます。一度児童ポルノサイトに画像がアップロードされると、すべてを回収することは実のところ不可能です。ネットに上げられた写真については99%近く削除することができても、個々人が端末に保存したものには手の施しようがなく、それを再度アップロードされる可能性もないとは言えません。

子どもが自分のスマホを落として写真が流出する例もあります。子どもはスクリーンロックをかけていないことも多く、落としたスマホが悪意のある人に拾われれば中のデータを抜かれてしまいます。もしそこに裸や下着の写真があれば悪用しようとする人もいるため、まずは裸の写真を撮らないことを徹底させましょう。

 

▼▽▼後編はこちら▼▽▼

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高橋暁子

高橋暁子

成蹊大学客員教授・ITジャーナリスト。 SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。NHK『クローズアップ現代+』『あさイチ』などメディア出演多数。『ソーシャルメディア中毒』などSNS関連の著作は20冊以上。教育出版中学校国語の教科書にコラム掲載中。元小学校教員で中学生の母でもある。

Profile

ハラユキ

ハラユキ

コミックエッセイスト&イラストレーター。 おいしいごはんとお風呂屋さんと祭りが好き。近著に、国内外の多様な家族を取材し、その家事育児分担とコミュニケーションをまとめた『ほしいのはつかれない家族』(講談社)。

<漫画>ハラユキ

<取材>ハラユキ、KIDSNA編集部

<執筆>KIDSNA編集部

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