蜜月期の「結婚1年」で妻から受けた暴力暴言で得た慰謝料は"3ケタ万円"…一発でもやり返したら「加害者」転落
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どれだけ理不尽でも「過剰な正当防衛」とみなされやすい
ドメスティック・バイオレンス(DV)というと、一般的に夫が妻に対してする行為というイメージがあると思います。事実、DV被害の相談に来る被害者の約98%が女性というデータもありますが、男性が妻から暴行や暴言を受けることも実際によくあります。
しかし男性の場合、「妻からDVをされている」という被害申告を躊躇する方が多いように思います。一般的に、女性は「自分は被害に遭いやすい立場」という意識が強い一方、男性は「加害者になりかねない」ことを自覚している人が多い傾向にあります。その結果、男性が女性から加害行為を受けても「自分が被害者」という認識が生まれにくいのです。
実際、「妻のDV」で裁判までいくことは非常に少なく、また案件の性質上、手続きに関する情報が開示されないことも多いため、具体的な裁判例は見つけられませんでした。ただ、原告が女性だから、男性だからという理由で、その性差をもって損害賠償額に影響が出るものではありません。あくまで生じた損害に応じて、損害賠償額が認定されます。
妻から夫に対するDVは、身体への暴行よりも精神的な暴行(モラルハラスメント)の割合が多い傾向にありますが、モラハラと身体的暴行がどちらも認定された案件としては、次のような裁判例があります。
婚姻期間は1年2カ月の夫婦で、身体的な暴行として認定されたのは「ベッドから落とす」「顔を足で踏む」などの傷害は生じない程度のもので、大部分は暴言でした。婚姻期間が短かったことなどもあり、慰謝料として100万円ほどが認められました(東京地裁、平成18年1月17日)。
妻からDVを受けた場合、夫が絶対にやってはいけないのは「フィジカル面でやり返す」ことです。仮に「ずっと妻から殴られ続けている。身を守る意味でも一発くらいやり返さないと危ない」という気持ちでやったとして、もしそれで妻がケガでもしてしまったら、それだけで傷害罪になります。経緯によっては過剰な正当防衛となり、被害者から一気に「加害者」になってしまうのです。
先ほど「性差で損害賠償額は変わらない」とお伝えしましたが、犯罪の成否を判断する場面では、男性が女性にやり返した場合「過剰な正当防衛」とみなされやすいのが現実です。