安い「中華EV」に乗っ取られる…「日本と日本車が大好きだった」シェア9割のインドネシアで起きている地殻変動
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※本稿は、じゃかるた新聞(2025年1月6日)の記事を再編集したものです。
中国製EVがタイで“大量の安売り”
「中国製の安価な電気自動車(EV)が流れてくれば、インドネシアの自動車市場に大激変が起きる」――。日系自動車大手メーカーの幹部がこう懸念するのは、東南アジア諸国連合(ASEAN)有数の自動車マーケットのタイでの昨年の動きを見てのことだ。
中国本土の不況で中国製EVがダンピングとも言える価格でタイ市場で大量に販売。あまりの値下げのペースに現地消費者団体が政府に抗議するに至っている。ロイターが報じた。
「今回の中国製EVの大幅値下げは先に購入した消費者に極めて不公平だ」――。タイでは現在、消費者団体からこうした抗議の声が上がっている。この「ダンピング」が最も注目を集めたのは24年7月。中国のEV大手BYDがタイの工場開設記念キャンペーンで主力多目的スポーツ車(SUV)「ATTO3」とセダン「SEAL」を大幅に値下げした。
値下げ幅は、車種によっては34万バーツ(日本円で約160万円)にもおよび、タイの消費者庁に当たる消費者保護委員会が購入者が不利益を被っていないか、調査に乗り出した。問題はなかったと結論づけられたが、「中国と対立してEV振興の流れを止めたくないタイ当局の忖度」(冒頭の幹部)との見方が強く、消費者の不満はくすぶったままだ。
タイで「中国バッテリーEV」が販売急増
タイ政府が2030年までに自動車生産の30%をEVとする方針を打ち出し、補助金制度を充実させた結果、23年以降、国内新車販売におけるバッテリーEV(BEV)の割合は急増している。タイ工業連盟(FTI)によると、BEVの割合は22年は1%台だったが、23年は10%付近まで伸びており、24年も10%台前半となる可能性が高いと見られている(JETRO「タイで飛躍的に拡大したBEV市場、中国ブランド同士で競争激化」)。全BEVのうち、中国メーカーは約8割を占めるため、ここ3年での躍進ぶりは目覚ましいものがある。
中国EVメーカーがタイ市場に大挙して押し寄せたのは中国本土のEV市場が成熟し、競争激化が深刻化しているためだ。中国ではEVの販売台数が2021年に前年の3倍近く伸び、22年には500万台を突破。しかし、23年から伸びが鈍化し、24年もかつてほどの勢いは見られない。
そのため、各メーカーは海外市場に活路を求めており、陸続きで輸出もしやすいタイは最有力ターゲットとなった。「ダンピングで市場をこじ開けてシェア獲得を図るのが中国式戦略。取扱量が増えると日本車だけ扱っていたディーラーも中国EVの取り扱いを始めるようになり、徐々に切り崩されていく」(タイ駐在経験のある自動車メーカー幹部)。