どうせ自分は下のほう…わが子がクラス内の立ち位置を察し浮上できない"深海魚"に沈まないための声かけ術
Profile
親がどのようにアプローチすれば、子供の学力は上がるのか。慶應義塾大学教授で教育経済学者の中室牧子さんが、科学的な根拠に基づいてアドバイスする――。(後編/全2回) ※本稿は、『プレジデントFamily2025冬号』の一部を再編集したものです。
Q 「女子」は算数苦手は本当? >>思い込みはNG
女の子は算数・数学が苦手というイメージは本当なのでしょうか。
経済学の研究では、女子は算数が苦手という思い込みや先入観が、実際に成績を下げている可能性を示しています。ステレオタイプにとらわれることで、テストで本来の実力が出し切れずに本当に成績が悪くなってしまう「ステレオタイプの脅威」と呼ばれる現象が知られているのです。
たとえば、女性だけの環境では、男性がいないためステレオタイプの脅威が発生しにくく、本来の力を発揮できたという研究があります。
オーストラリア国立大学のアリソン・ブース名誉教授らの研究では、高度な数学や統計学も使われる「入門経済学」を受講する学生を、「女性のみ」「男女混合」「男性のみ」の三つのクラスにランダムに割り当てました。結果、「男性のみ」と「男女混合」のクラスは、学期末テストの成績に違いが見られませんでしたが、「女性のみ」のクラスは「男女混合」よりも偏差値で2.5も高くなり、授業の単位が取れた確率も7.7%高くなりました。
さらに、「女性のみ」のクラスに割り当てられた学生は、大学を退学する率が57%も低くなり、一方で成績上位者として卒業する確率は61%高くなったのです。
それでは女子校のほうが理系に進む人の割合が増えるのでしょうか。この点についてはまだ結論がでていません。
女子大学が共学化したことを、自然実験とみなしたアメリカの研究では、共学になることで、女子だけだったときと比べて理系を専攻する女子学生は30%も減りました。
一方で、女性の割合が多いほうが、理系を専攻する女性が減ると主張する研究もあります。数で勝ると同調圧力が働き、かえって周囲の女性と同じような進路を選択してしまう可能性を示唆しています。実際、文系進路が大勢を占める女子校もあります。
現状言えるのは、女子に本来の算数・数学の力を発揮させたいのなら、ステレオタイプの脅威から逃れることが大切だということです。一方で、同調圧力になるような環境も避けるべきでしょう。ご家庭でも、娘の前で親が「女の子だから算数は苦手でも仕方ないよね」「女の子なのに理系なんて」などと、ステレオタイプを補強するような発言をすることは、算数の成績を伸ばしてやりたいのなら合理的とは言えないでしょう。