「〇〇しなさい」って言ったらダメ?子どもを追いつめる危険な言葉【出口保行×竹内由恵 後編】

「〇〇しなさい」って言ったらダメ?子どもを追いつめる危険な言葉【出口保行×竹内由恵 後編】

1万人の非行少年・犯罪者の心理分析を行ってきた犯罪心理学者の出口保行さんに、誰もが陥る可能性のある「子育ての落とし穴」についてお話を伺いました。聞き手は、2児の母でタレントの竹内由恵さん。後編は「危ない声がけ」について。

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親の「よかれと思って」は迷惑?子どもを非行に走らせる親の行動【出口保行×竹内由恵 前編】

どんな言葉が子どもを追いつめるのか

竹内:続いてのテーマは「危ない声がけ」です。親が「よかれと思って」子どもにかけている言葉が、実は子どもを追い詰めていることがあると。いったいどんな声がけでしょうか?

出口:代表的なものをいくつかお伝えします。

1つ目、みんなと仲良くしなさい。

2つ目、早くしなさい。

3つ目、頑張りなさい。

4つ目、何度言ったらわかるの? 

5つ目、勉強しなさい。

6つ目、気をつけてね。

竹内:勉強しなさいは年齢的にまだ必要がないので言ってませんが、それ以外は毎日のようにやってます。しかも1日何回も言っていた気が……。

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(左)竹内由恵:タレント。2008年に慶応大学法学部卒業後、アナウンサーとしてテレビ朝日に入社。「ミュージックステーション」「やべっちF.C.」「報道ステーション」などを担当し、19年に退社。二児の母。(右)出口保行:​東京未来大学副学長兼こども心理学部長。​犯罪心理学者。全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理学的に分析する資質鑑別に従事。著書に12万部を突破するベストセラーの『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』『犯罪心理学者は見た危ない子育て』(ともにSBクリエイティブ)など。

出口:言わない親はいないですよね。こうやって言うことがいけない、というわけではまったくなくて、言うのは当たり前ですよね、というところが入り口なんです。

ただ、親の「よかれと思って」という感情から、たとえば「みんなと仲良くしなさい」とだけ言い続けていると、非行につながってしまう例があります。だから「よかれと思って」を子どもがどう受け止めてしまうのか、それがすごく重要なポイントです。

竹内:3歳の子がよくおもちゃの取り合いになって、子ども同士で一緒に遊ぶことができないんです。そういうときには「仲良くしてよ」と言ってしまいますが、これはどうやって変えたらいいでしょう? 

出口:理由を伝えるかどうかが大事です。たとえば、「みんなの話を聞きなさい」ばかり言われている子が結局どうなるのかというと、「自分が出しゃばっちゃいけないんだ」と考えるようになる。自己主張をすると、それがトゲになってみんなと仲良くできなくなる。だから、何のためにそういうことを言っているのか、親がきちんと伝えられるかどうか。それは大きなポイントになってきます。

竹内:親が一方的に言うだけだと、子どもは納得できないから、そのままそれが悶々とした気持ちとして残ると。

出口:そうですね。さらに、親の言うことをとにかく絶対的に聞かなきゃいけないと思ってしまいます。

竹内:「〇〇しなさい」と言ったあとに理由を付けたほうがいいと、いろんな育児本でも読んだことがあるので、気をつけていました。だけど息子が3歳になって、さらに下の子も生まれると余裕がなくなって、理由をいちいち説明してる場合じゃないこともあって……。

たとえば、食事のときにいろいろこぼしてあちこち汚してるから「お風呂行って」と言っても、なかなか行ってくれない。そういうときにどうして理由を言わないかというと、親の都合であることが多いからなんです。

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※写真はイメージ(iStock.com/yamasan)

竹内:汚した手でソファをベタベタ触られると掃除が大変そうだから。それは親の都合なので、子どもに言っても、聞かなかったり、ピンとこなかったりして、全然言うことを聞いてくれない。それで、とにかく言うことを聞かせたくて「お風呂入らないとお化けが来るよ!」と言うと「こわい!」と言って入るという……。これはどうですか?

出口:いまのお子さんの年齢だったら何も問題ないと思います。中学生や高校生になってもそのままだったら、問題が起きますね。

いまの話の中の大事なポイントは、大人の都合であることを親自身が理解しているかどうかなんです。余裕がある時はそういう言い回しを逆に使わなくなるので、自分の中でカバーをしていくことができる。いま竹内さんがやっていらっしゃる方法論というのは別に何も間違っていないし、当たり前だろうと思いますね。

たとえば、「早くしなさい」なんて言わない家はないですよ。私も娘たちにさんざん「早くしなさい」と言ってきました。「早くしなさい」という言葉だけがひとり歩きしていて、それしか言っていない。今度は何のために早くしなければいけないのか。たとえば8時までに何をしなきゃいけないから、いまこれをしなきゃいけないよね、と逆算をしていく方法論をちゃんと子どもたちに教えているわけですよ。

竹内:「早くしなさい」と言ったときに、「あと30分しかないから」と具体的に付け足した方がいいということでしょうか?

出口:そうですね。夏休みの宿題を8月31日までにやらないといけないとします。そうしたら、今日から考えて、何をいまやればいいんだろうと逆算をして考えていく。そういうことを子どもに考えさせるようにして、それでやっていなかったら「早くしなさい」と言うのは全然問題ありません。その辺りを親がどういうようなスタンスで子どもに話すことができるのか、それがすごく大事なポイントですよね。

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※写真はイメージ(iStock.com/Suphansa Subruayying)

「気を付けて」が子どもの自主性を奪う?

竹内:「早くしなさい」という声がけが危ないのは、なぜですか?

出口:「早くしなさい」とだけ言われていると、何のために早くすべきなのかわからないので、先を読む力が弱まってしまう。そうすると社会に出てから「なぜ私はこれをいまやっているんだろう」と、紐づけるものがなくなってしまいます。これは社会の中で逸脱してしまう一つの原因になりえます。

竹内:「何のために」を言ってあげるといいということですね。では、「気をつけて」がよくないのはなぜでしょう? 

出口:「気をつけて」も親は絶対言うじゃないですか。基本、身体や生命に関わるようなことには、「気をつけて」と言わなきゃしょうがないですよね。崖から落ちそうになっている子どもには言うだろうし、「そんなところ行っちゃだめ」と言うに決まっているし、車道に出ようとしている子どもに「ダメだよ、危ないから」と、そういう状況では当たり前に言うべきですよね。

ただ「気をつけて」とだけ言っていると、子どもが成長して自分でいろいろな行動をしようとするとき、「これもやったら危ないのかな」「これをやったらまた怒られるのかな」と考えるようになります。積極的に何かに取り組んでいこうという気持ちが起きなくなってしまう。

こういう部分がきちんと育っていないことがどう問題かと言うと、心理学の中では共感性と言われる部分です。人がいまどんな気持ちでいて、どんな感情を持っているのかうまく推測することですね。

「気をつけて」とずっと言われ続けている子どもは、「やらなきゃいい」「死ななきゃいい」「動かなきゃいい」と思ってしまう。こういうことだけで、他の人との関係性を持とうとしなくなっていくわけです。

竹内:挑戦しようとしなくなるんですね。

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竹内由恵さん

出口:そうなると、相手がいま何を考えているかは関係ないですよね。自分にとって考える必要もないんですよ。中学や高校に入った後、友だち関係の中で「この子、私のことを何もわかっていないじゃん」と思われて、浮いてしまう。その浮いてしまうことが非行につながってしまう例もよくあります。

竹内:あと「何度言ったらわかるの?」というのも、思わず出てしまう言葉のひとつです。

出口:みんな口癖のように思わず出てしまう言葉でしょう。「何度言ったらわかるの?」と何回も指導をしているとして、これは全然問題がありません。では、どんな言い方だと非行につながるのかというと、実は自分の子どもに指導していない場合です。

たとえば、竹内さんのお友だちに鈴木さんという人がいるとします。鈴木さんのお子さんがいます。竹内さんが自分のお子さんに「鈴木さんのおうちの〇〇ちゃんはこういうのもできてすごいんだって」という言い回しをずっとしているとします。つまり、第三者を介して自分の子どもを指導しようとする。「まだ小学校3年生なのに、もう英検〇級に受かったんだって」といった話をして、それが自分の子どもにいい影響があると思って言うわけですよね。

だけど、子どもが「英語嫌い」「英語なんか見たくもない」というときに「何度言ったらわかるの?」と。第三者を例に出す「何度言ったらわかるの?」は一番タチが悪い。子どもは、親が言っていることを信じられなくなる。〇〇ちゃんの話をしながら、自分に対して何かを訴えかけようとしている。

だから、本当に自分が子どもを指導していて、何度言っても聞かないとき「何度言ったらわかるの?」と言うのなら、子どもだってわかりますよね。だけど非行に走った子どもを分析していると、親がよく他のうちの子の話をしていると思ったら、実はそれは自分に対してプレッシャーをかける目的だった、という事例がよく出てきます。

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※写真はイメージ(gettyimages/Jatuporn Tansirimas)

竹内:自分の子どもに対して、自分の発言をちゃんと整理せずに伝えていることがありそうです……。

出口:第三者を介さず、自分の子どもにちゃんと真摯に向き合っているかどうかがすごく大事です。

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子どものほしいものを全部与えるのはよくない?

竹内:これは公の場で言うと批判されてしまうかも、という自分の中での反省点があります。

下の子が生まれてから、兄ちゃんにとっては親がとられちゃったような感覚があるようで。下の子をかわいいと思う気持ちもあるみたいですが、憎いライバルみたいに思う気持ちもあるみたいなんです。私に余裕がなかったときにお兄ちゃんが下の子にきつくあたったので、思わず下の子を抱きかかえて「もう、一緒にいないからね!」みたいな感じで、違う階にその下の子とだけ行ったら、お兄ちゃんはもう号泣していたみたいで。

多分すごく心に傷を負った、トラウマになってしまったんじゃないかと思いました。親が自分じゃない誰かを選んでいなくなってしまう、それを一番やってはいけないことがわかって……。感情的になってやってしまったことでも、リカバーできるのでしょうか? 

出口:まず、感情に任せることなんて絶対にあります。ない人なんか絶対にいない。子育てを一生懸命やろうと思っている、子どもを大切に思ってる親だからこそ、感情的にならなかったらおかしいくらい。

でも子どもは、わかっているんです。お母さんが「ああ、まずいこと言ってしまったな」と思っているのは、伝わるんですよね。それはおもしろいものですよ。そういうことが記憶に残ります。非行をした子どもを分析するために面接すると、子どもたちはそういうことをよく覚えています。3、4歳ぐらいのときの記憶がある。

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出口保行さん

出口:だから親がどういうような対応をしたのか、何のためにそういう対応をしたのか、それがたとえば5年経って10年経って考えたときに、それが何のためだったのかと自分なりにどう理解できるのかが重要なポイントになっています。

竹内:子どもが二度と悪いことをしないためには、ちょっと痛い目に遭わせないといけないよね、と夫婦で話し合って、少し罰を与えることが効果的なんじゃないかと思って試したことがあるんです。

たとえば、子どもがおもちゃを投げてしまうとして、そうしたら「いま君がすごくハマっているパズルを捨てるよ」と言って、ゴミ箱に入れる。少ししてからちゃんと拾い上げてみて拭くのですが……。そういう罰みたいなものがいいのか悪いのか、ちょっと微妙だなと思ったのですが、いかがでしょうか?

出口:「ご飯をあげない」というような、基本的な欲求のところにかかわることではないわけで、そういうときに罰を与えることもそうだし、ごほうびを与えることというのも似たようなものです。

ごほうびなんかも本当にいい例ですね。自分が何かをして親が褒めてくれたら、子どもはうれしい。それに伴って何かを買ってもらったとします。もしそういうごほうび体制を確立してしまうと、子どもは褒めてもらうためにやるのではなくて、ごほうびをもらうためにやるようになって行きます。

竹内:そうなんですよね。「トイレに行けたらゼリーあげるよ」と言っているのですが、それだと家でしかトイレに行かない。「保育園ではなんでトイレに行かないの?」と聞いたら「ゼリーもらえないから」って……。失敗したなと思ってます。

出口:交換条件のようなごほうびがいけない、ということですよね。

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竹内由恵さんと出口保行さん

竹内:私のケースでいうと、いまも子どもがトイレに行くたびにゼリーをあげ続けています。

出口:一個くらいなら別に構わないけれども、そのうちゼリーが2つになり3つになり、さらにはゼリーじゃなくてゲームになり……となってしまうと、それが目的化してしまう。動機づけが低くなってしまいますよね。もののために、お金のためになってしまうわけなので。

竹内:子どもが何か欲しがるとき、親が過度に与えてしまうことも非行に走る原因にもなりますか?

出口:もちろんそうです。親の甘やかしが非常に強くて、どんどんものをもらえる環境にいると、自制力がとにかく弱まってしまう。自制力が高いと、いろいろなルールがあって当たり前、そのルールを守る意識を持てる。規範意識とも言われるものですが、それが下がってしまったときに一番走りやすいのは薬物なんですね。薬物によって幻想を覚えたり妄想を持ったりすることで、満足することができる。薬物に入ってしまうと、なかなか抜けるのは難しい。

竹内:欲しいものが手に入るのを想像して、それをもらえなかったら我慢できなくなってしまうんですね。

出口:そうなんですよ。いくら「薬物はよくないよ」「覚醒剤で死んじゃうよ」と言ったところで、「あなたは関係ないでしょう」「俺の人生なんだから別に構わないでしょう」と思ってしまう。「刑務所に入ることになるよ」と言っても、「入るのは自分なんだから、別に先生に迷惑かけていないでしょう」という理屈になるのです。これは本当に手間がかかりますよ。更生には時間がかかります。

非行の理由を掴めば1年間で更生できる

出口:非行に走る理由は必ずあるんです。なんとなく、なんてありません。「遊びの延長で非行に走りました」という言い方をされがちですが、そんなことあるわけがない。遊びは遊び、非行は非行。全然別物です。なぜその子が非行に走ったのか、それをどう捉えてあげることができるのかが一番大事なポイントになります。

少年少女の非行には、必ずその背景に心理があるということです。非行を通して言いたいこと、アピールしたいことがある。そこを周囲の人間がどう捉えてあげることができるのか、そこをどう埋め合わせてあげることができるのか。

だから逆に言うと、非行の核の部分さえつかめば、更生するのは案外簡単です。非行に走った子どもの中の少年院まで行くのは、わずか3~4%です。

さらに、少年院でたった1年教育を受けるだけで、もう二度と帰ってこなくなる子が87%。残りの13%が大人になっても犯罪を繰り返してしまって、累犯受刑者として刑務所に入るようになります。けれども「とんでもない悪い奴」と言われていたのが、たった1年教育を受けるだけで、87%がもう少年院には戻ってこなくなるのです。

竹内:軌道修正させるとしたら、やはり子どものうちがいいですよね。子どものうちなら、遅すぎることはないと捉えていいですか?

出口:もちろんです。自分たちの子育てがいまどっちを向いているのか、それから何のために子どもにこれを言っているのか。いま吐いた言葉は誰のためなのか。こういったことの検証をどういうふうにできるのか。これらが子育てのなかでは一番大事なポイントだろうと思うんですね。

竹内:子どもの本当の叫びを親や周りの大人がちゃんと拾ってあげて、それをかなえてあげる。これがすごく必要なんだなと感じました。今日はありがとうございました。

2024.07.17

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