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失敗できなかった子どもはどうなる?過保護型の親に必要な2つの視点
「子どもの決断力、集中力の育て方」をテーマに、1万人の非行少年・犯罪者の心理分析を行ってきた犯罪心理学者の出口保行さんと、お笑いコンビ「サバンナ」で2児の父でもある八木真澄さんが対談。MCは2児の母でありタレントの鉢嶺杏奈さん。
出演者
八木真澄/1974年8月4日生まれ、京都府出身。1994年、サバンナを結成。芸人として活躍する一方で、2024年にはファイナンシャルプランナー1級の資格も取得。2児の父。
出口保行。犯罪心理学者。1985年に東京学芸大学大学院教育学研究科発達心理学講座を修了し、同年、国家公務員心理職として法務省に入省。以後全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人を越える。2007年に法務省法務総合研究所研究部室長研究官を最後に退官し、東京未来大学こども心理学部教授に着任。現在は副学長。代表的な著書に「犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉」(SB新書)。
鉢嶺杏奈。1989年 東京都出身。映画やドラマ、CMで女優として活躍する一方、TBS系バラエティー「日立世界ふしぎ発見」のミステリーハンターを務めるなど、タレントとしても活躍。2児の母。
過保護型の親は”自覚”と”コントロール”が必要
鉢嶺:八木さんは、「おやかく」という言葉を聞いたことはありますか?
八木:どこかで聞いたことがあるかもしれません。「親への確認」ですよね?
鉢嶺:そのとおりです。進学や就職の選択、結婚の決断など人生を大きく左右する出来事を子どもが自分で判断せずに、親に確認するようなケースが増えているようです。
出口:自分で決断ができない若者が増えていることは、私も感じています。たとえば私の勤務する大学でも、何かあるたびに保護者が学校に来るケースが増えています。これまでは大学生になると、保護者が関わってくることはあまりなかったですよね。今は教育熱心で協力的な方が多く、以前とずいぶん変わったと感じます。
八木:わかります。うちの息子も「これ食べていい?」とか些細なことも聞いてきますよ。それが癖になっちゃってるのかな。
出口:子育てのタイプは大きく分けると、高圧的、過保護、無関心、甘やかしの4タイプに分類できます。このなかで子どもが優柔不断になるのは、親がどのタイプの場合だと思いますか?
八木:過保護タイプでしょうか?
出口:まさにそのとおりです。親が何でも先回りしてやってしまうと子どもが積極的に決める必要がなく、結果として決断力が身についていない、よくあるケースです。もちろん子どもはかわいいので、絶対に過保護になってはいけないということではありません。過保護になってしまう部分もあるけれど、それを親が自覚しどうやってコントロールできるのかが大事です。
鉢嶺:子どもが心配で、つい先回りしてしまいますよね……。でも、子どもが自分で決められないことはどのような弊害があるのでしょうか?
出口:子どものうちは自分で決められなくてもそこまで困らないかもしれません。でも、大人になったら自分で決めないといけないことだらけですよね。社会人になっても一生子どものそばについていられるわけではないですから。
何かを判断することは、経験値に基づきます。過保護タイプの親が先回りしてしまうと、子どもの経験値が上がりません。それは、子育てをする側が意識していないといけません。
失敗を経験しなかった子はどうなる?
八木:少し話は変わりますが、親が子どものコンプレックスを取り除いてあげようと考えることは、必ずしも正しいとは限らないと思うんですよね。
今の僕をつくった原動力とは何だったかと考えてみると、太っていた幼少期のコンプレックスなんです。家が貧乏だったことをバネする人がいるように、コンプレックスを未来に繋げることはできるのかなと。
出口:そうですね。コンプレックスはネガティブなイメージがあるけれど、困難に立ち向かう力を養うきっかけにもなると思います。幼少期から社会人まで挫折することなくエリートの道を歩んできた人が、どこかで転んだときに立ち上がる力がなくつぶれてしまうケース、心理学用語で欲求不満耐性といいますが、本当によく見かけます。この欲求不満耐性があるかどうかは、幼少期に耐える力を身につけられたかどうかなんですよね。
鉢嶺:子どもが傷ついていると、前向きな言葉をかけてあげたくなっちゃいます。でも、親がぐっと我慢して見守る姿勢を取らないと、失敗も経験できないということなんですね。
出口:そのとおりです。そして、見守るためには日頃からの観察がとても大事。親が子どもをよく観察して、たくさん考えて悩みながら子育てをしていたら、それは子どもにも伝わります。親子ともに葛藤しながら育っていくことが、子育てにおいては必要です。
鉢嶺:八木さんは幼少期から自分のことを自分で決断してましたか?
八木:いえ、まったくしていなかったです。僕は中学受験をして大学まで一貫校だったのですが、僕を含め、中学受験を自分の意思でした子はほぼいなかったと思います。ですが僕は中学受験をしたおかげで相方に出会えたし、人生のターニングポイントになったので、親が導いてくれたことにとても感謝しています。
鉢嶺:親は先回りしすぎず、子どもに選択をさせるのがよいとは言っても、大きな決断は親がサポートすべきなんでしょうか?
八木:親でないと導けないこともあると思います。たとえば、プロのスポーツ選手の多くは、小さい頃から親のサポートがあったケースが多いと思います。例えば柔軟性が必須であるバレエやフィギュアスケートなどは、幼少期から始めていないと後からプロを目指すことはほぼ不可能ではないでしょうか。本人の努力だけではどうにもならないことは確かにあるので、子どもの自我が生まれる前に、親がある程度導くことも必要な場合があるのかなと思っています。
出口:学習には適時性がありますからね。適切なタイミングに親が環境を整えることは、あってしかるべきです。でも、押し付けすぎちゃうと子どもの主体性は育まれないので、さじ加減が難しいですね……。とはいえ、子どもの特性を見てどこを伸ばしてあげたらいいのかがわかるのは、親しかいないですから。導いてあげることと、過保護はイコールではないですよ。
子育てに一喜一憂することは意味がない
鉢嶺:子どもの決断力を育むために、親が日常的に心がけたい習慣はありますか?
出口:まずは、親がゆったりと余裕を持った生活をしていることです。親は子どもに対してよく「早くしなさい」と言っちゃいますよね。でも、急かされて育った子どもは自分の頭で考える習慣がないので、先を読むことができないし、自発的な行動もできません。どうしても子どもに早く動いてほしいときは、なんで急がなきゃいけないのかをセットで伝える必要があります。
鉢嶺:なるほど。これは気を付けないと……。八木さんは、子育てにおいてどんなことを意識していますか?
八木:犯罪や人に迷惑をかけることはもちろんダメですが、それ以外は何やってても正解だと考えています。僕の母がよく言っていたのは、「人間万事塞翁が馬」という故事です。
この故事は、中国の塞の地に住む老人が馬を失ったけれど、その後で馬はもっと良い馬を連れて戻ってくる。さらに、息子がその馬から落馬して足を折ったけれど、それが原因で徴兵を免れた、という一連の出来事から、良いこと/悪いことの判断は時と共に変わることがあるため、物事を短絡的に判断せず、長い目で見ることの大切さを教えています。僕も子どもたちに対して勉強や一つの側面だけでは見ないようにしていますね。
鉢嶺:子育てをしていると、つい一喜一憂してしまうこともあるけれど、どの時点で「成功」だと言えるのかなんて分からないですよね。
出口:そうですね。社会にとっての成功と、自分にとっての成功とでは意味が違いますし。自分自身が何をもって成功だと言えるのか、社会的なスケールに当てはめることではないですからね。
八木:それでいうと僕の2歳上の兄は小さい頃から頭がよかったんですが、途中で勉強が嫌になってしまって。塾にも通っていたのですが普通の公立中学・高校に行きました。その後専門学校を経て建設会社に就職したのですが、24歳くらいのときに急に覚醒して(笑)。2年間勉強の末に一級建築士を取得しました。生まれつきの頭の良さを発揮するタイミングが、本人にとってなかなか来なかっただけだったんですよね。
出口:お兄さん、すごいですね! よく「やる気スイッチ」と呼ばれたりしますが、その子にとってのスイッチがどこにあるのか。モチベーションが上がるタイミングが早い子もいれば遅い子もいるので、親がそれを待てるかどうかが大事ですね。周りが急かしてしまったら、芽を摘んでしまうことに繋がりかねません。
鉢嶺:他の子と比べるのはよくないと分かっていても「この年齢になったら、これができるのが普通」などとつい「普通」と比較してしまいますよね。とにかく見守ることが大切なんですね。
八木:正論であればあるほど子どもにとっては逃げ場がなく、正しいことを押し付けられたらつぶれてしまいますよね。
子どもの集中力は”年齢×2~3分”
鉢嶺:最後に、子どもの集中力について。子どもがスマホに夢中で、他のことには集中力が持たないという声も多いです。八木さんはお話を聞いていると、集中力が高いように思います。
八木:いえ、僕自身は集中力がないと自覚しているので、いくつかのテクニックを使っているんです。たとえば、60分間集中を切らさずに勉強することは難しいので、10分を6回に分けるなど時間を刻むなど。また、自分の特性上、好きだったり得意なことは2時間集中できますが、嫌いだったり苦手なことは20分も続けられません。そのことを自分自身が理解しているので、上手く調整しているんですね。
勉強でもスポーツでも、その行為が子どもにとってどのくらい負担がかかることなのか親が分かろうとすれば、その子にとって集中力が続きやすい環境を提供してあげることができるのかもしれません。
鉢嶺:なるほど!たとえば、親はどのような環境づくりができると思いますか?
八木:子どもが興味を持てるよう、テーマを設定してあげることなどでしょうか。歴史を勉強するとして、時系列に出来事を覚えようと思っても、興味がなければ集中もできないでしょう。そこで、物語性を持って楽しめるように、主人公をひとりに決める。たとえば豊臣秀吉を主人公に設定したとしたら、マンガでもいいから豊臣秀吉にまずは詳しくなってもらう。
そして、親が「秀吉が天下を取られたのは誰だっけ?」とかあえて聞いてみたりすると、子どもはイキイキと話しだしたりしますよね。そのように、まずはピンポイントで子どもが興味を持てそうな主人公から学び、徐々に広げていくとよいかもしれません。
「こう覚えなさい」「こうやって解きなさい」と人から与えられた勉強よりも、自分で発見していく勉強のほうがアドレナリンが出て集中できるし、楽しいですよね。ゲームの攻略本を与えてしまうとやる気がなくなってしまう子もいると思いますが、自分で考える余白を残しておく、ということが大事な気がします。
出口:その通りだと思います。一説によると子どもの集中力は、年齢×2~3分と言われています。その時間の中でどうやって子どものやる気を引き起こすかが、親の腕の見せ所なのかもしれないですね。