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【中村朱美】大学進学より「トップのとり方」「稼ぎ方」
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1日100食限定の佰食屋を起業した中村朱美氏の、逆転の発想で作り上げたライフワークバランスに迫るインタビュー。後編は、独自の子育て論や教育方針について語ってもらった。
前編では、新たなビジネススタイルと働き方を確立した経緯やその背景にある思いについて語ってくれた中村朱美氏(以下、中村氏)。仕事と二人の子育てを両立する中村氏は、子どもたちとのかかわり方や将来についてどう考えるのか?
「そもそも大学行く価値ある?」
――仕事と子育てを両立しているワーキングマザーの現状について、どのように考えられていますか?
「そもそも皆さんなぜ共働きをしてまでお金を稼いでいるのかというと、子どもたちの大学進学費用を捻出するためという家庭は多いと思うんです。
でも、そもそもなぜ大学に進学させたいのでしょうか。
いい大学に行かせるために私立高校に進学させたり、塾や習い事に通わせるなど大学進学を前提に考えるとさまざまなお金が必要になるわけですが、私は大学にまったく興味がないんです。
私は教師になりたかったので教員免許取得のため大学に行く必要がありましたが、今の日本の大学に、大きな目的を持たずに毎年百万単位のお金をかける価値が果たしてあるのでしょうか。
うちの子どもたちについてはストレートで大学に行かせるつもりはなく、高校も本人次第でどちらでもいいかなと思っています。
今の時代、大学に行くタイミングは自分で行きたいと思ったときでいい。高校卒業後に就職したり旅をしたり一度社会を見た後に、『学びたいことがあるから大学に行く』でもまったく遅くはないですよね。
求められればもちろんサポートしますが、自分の選択に責任を持ち、自分で稼いで通うこともできるはずです。
そう考えると、子どもが幼いうちから一緒に過ごす時間を割いてまで必死になって働く必要性がなくなってくるんです。『あなたを大学に通わせるために頑張ってるのよ』と言われるよりも、一緒に遊んでほしい時期に一緒の時間を過ごすほうが、子どもも嬉しいのではないかと。教育大学で教育を学んできたからこそ、私はそう思います。
さらに言うなら、どうせ大学に行くのなら日本の大学でなくてもいいと思っています。海外では学費が無料のところも多くあります。海外の大学を出た方が、日本での就職が有利になることもある。
こうした多様な未来をもっと、日本のお母さんたちは知ってもいいのでは?と私は思っています」
学びが始まるタイミングにこそ、隣にいたい
――今現在、中村さんは5歳と4歳のお子さんをお持ちですが、どのように向き合っていますか?
「私は小学校一年生に上がる前後のタイミングが最も大事だと思っています。『なぜ1+1=2なのか』『ひらがなはなぜこの形なのか』といった勉強の概念を導入するこの時期、ここでつまづくと将来まで尾を引いてしまうと思うんです。
なので、学びがスタートする最初のタイミングは、必ず横で付き添いたいとずっと思ってきました。
その時期に築く子どもとの愛着形成や学校では教わらないところまでゆっくり教えることを私は重要視していて、私にとっては大学に進学させるよりもずっと大事なこと。この時期に忙しいのは、本当にもったいないと思っています」
――今まさにそのタイミングにあると思いますが、実際にやられていますか?
「長女はひらがなや数字を小学校に向けてやろうというタイミングなのですが、ひらがなにまったく興味がないんです。一方で年中さんの長男は全部書ける。
だからといって長女に『勉強しなさい』と言うことはありません。興味がないのならやらなくていいよと伝えています。
でももうしばらくすれば、友達に手紙を書きたい、何かを伝えたいと強く思う時期が必ずやってくる。その『やりたい』タイミングを待って、そのときすかさず教えてあげれるように、こちらの体制を整えることができるのも、佰食屋のビジネススタイルがあってこそです」
子どもに残したいのは「お金」ではなく「稼ぐ力」
――佰食屋のビジネススタイルが、子育てにもつながっている部分はありますか?
「佰食屋は売り上げを追わない、業績至上主義とは真逆のビジネスモデルで起業しました。100食完売したら店を閉店する。この、利益を上げることを目指さず、子育てや家族との時間をきちんと確保したいという思いは、お金への執着がないということでもあると思います。
多くの方もおっしゃっていますが、私の中でもお金は手段でしかない。貯めることが目的ではなく、たとえば老後2000万円ないと心配だといわれたとしても、実際に2000万円貯めきれなかったら、そのとき私が仕事を引退しなければいいだけの話ではないかと。
子どもに対しても、将来のためにとお金を残す気もまったくありません。死ぬときにはどこかの財団に全額寄付するといっているくらい。
子どもには、お金ではなく『稼ぎ方』を残したいんです。お金の価値も変わりますから、私たちがいくら残そうとしても意味がないのではないかと思います」
――子どもたちへの接し方で意識していることはありますか。
「多くの保護者が『携帯電話を見せるのは悪だ』『YouTubeは見せたくない』と思っていますが、私はまったく反対の考えです。これからの時代、タブレットやスマートフォンを触れないと、時代についていけない大人になってしまう。当たり前に使えるようになるべきなんです。
YouTubeを見せることについて、うちではまったく禁止していません。これは子どもにどういった大人になってほしいと考えるかによって異なりますが、今の時代で話題をさらう起業家のような部類の要素を身に着けてほしいと思うのなら、タブレット端末はもちろん、ゲームやYouTubeなどに早いタイミングから触れさせて、エンターテインメントの世界を知らせないといけない。そこを知ることで、おもしろい大人になれると考えています」
――YouTube以外にも、子どもの世界を広げるために意識されていることはありますか?
「やはり一番気を付けているのは、子どもの『やりたい』とモチベーションが湧いた瞬間を潰さないこと。これに尽きると思います。
子どもって、ティッシュペーパーをひたすら出し続けるとか、大人からしたら面倒くさいし理解できないことをやりたがるものですが、『何かわからないけどやりたい!』と子どもが思った瞬間、モチベーションの火がポッと点くその瞬間を、否定せずに見守りたい。それを続けることで、自己肯定感を高め『やりたい』と思った時にすぐに行動に移せる行動力や、失敗しても諦めないチャレンジ精神へとつながっていきます。こうした経験を積み重ねることで、『稼ぐ力』が育まれるのだと思います」
今の時代は子どもこそ「選択と集中」すべき
「私がもうひとつ子どもに教えていきたいのが、好きなことではトップを取れ、ということです。
私は国立大学の入試時に公募推薦で首席入学しているのですが、首席入学は皆さんに振り返ってもらえるくらいインパクトがあるんですよね。
佰食屋をスタートしてビジネスコンテストに出場したときも、最優秀賞を取れば注目されてメディアにも載せていただけますが、最優秀賞以外の賞だった時は人々の印象に残りにくい。
トップとそれ以外の歴然とした差を実感してきたので、子どもたちにも何かをやるなら絶対にトップを目指してほしい」
――子どもにとっては、「トップを取れ」というのは時としてプレッシャーに感じてしまうこともあったりするのでしょうか?
「学校の成績でオール5を取れ、などとはまったく思っていません。ただ、好きな授業、好きな教科については、1回はトップを目指しなさいと教えたい。
『選択と集中』はとても大事です。苦手な教科は捨ててもいいから、その代わり好きな教科1つでいいからトップを取って、自分の強みを発揮しなさい、という教育をしたいと思っています。
一度トップを取れば、それがモチベーションになります。トップからの景色は本当に違うので、それを体験したら『次も取ってやる』と思えると考えています」
――平均的に何でもできるより、何かひとつのことを極める方がこれからの時代に必要ということですね。
「私の考えるそもそも論では、勉強ができるできないはそこまで重要だとは思っていません。小学校や中学校は、評価社会で生きるための練習の場。
学校を卒業した後の社会では必ず評価がつきまとい、自分で考えてミッションを達成していかなければならない。学校の成績は評価を受けることへの練習にすぎないと思うんです。
たとえば、目標の点数や成績に達しなかった場合、勉強の仕方=ゴールへ向かう手段が間違っていたということ。それなら次は違う手段で試してみよう、ということを義務教育の9年間で繰り返していきます。
間違えてもチャレンジする機会が何度もある。間違いを改善しながら試し続けてトップを取ることができれば、成功体験として子どもに刻まれ、大人になってからの仕事に生かせるはずです。
そういう意味で、『自分はやったらできるんだ』という自信や自己肯定感を身に着けさせるのが、義務教育の時間だと私は思っています。だからこそ、好きなことでは必ずトップを目指してほしい。『絶対にトップを取ってやる』という気持ちで物事に向かってほしいと思っています」
仕事にライフスタイルを合わせるのではなく、ライフスタイルに仕事を合わせていく、逆転の発想で起業した中村氏。
佰食屋を通して目指している“自分の働き方を自分で選べる社会”は、誰もが、働く日数や時間を自分で決め、自分だけのライフワークバランスを確立でき、誰もが『家族一緒に晩ご飯を食べる』『充実した自分時間を過ごす』ことができる。
業界に新たな風を吹き込んだ中村氏の価値観は、私たちに、仕事とは何か、生活とは何か、人生とは何かを改めて考えさせる。
<取材・執筆>KIDSNA編集部