こちらの記事も読まれています
【天才の育て方】#05 佐藤和音 ~8カ国語を操るマルチリンガル[後編]
Profile
KIDSNA編集部の連載企画『天才の育て方』。 #05は佐藤和音にインタビュー。幼い頃から言語に興味を持ち、現在では8カ国語を操る。後半では気になる勉強方法や、母として大切にしていた育児指針などを探る。
マルチリンガルの勉強スタイル
「伝わる喜び」がベースとしてある彼は、どのように勉強を進めマルチリンガルとなったのだろうか。
書いて覚える、はもう古い
ーーその卓越した語学力を身につけるために、どのような勉強方法を行っていたのでしょうか?
和音「自分が重視しているのは、ネイティブと話す機会を多くする、ということです。
文法も大切ですが、リスニングとリーディングの部分を鍛えることはできても、ライティングやスピーキングのようなアウトプットの部分は、その言語を実際に日常で使っている人にジャッジしてもらわないと、間違っているかどうかすらわからないですよね。
旅行に行くときも、家族のルールとしてその国の言語を使ってコミュニケーションをする決まりがあります」
母「ある程度の文法はその言語のルールなので身につけた方が良いとは思います。そこを駆け足で学んだら、その後は英語なら英語のまま、フランス語ならフランス語のまま理解していく。母語介在せずに理解する勉強方法を意識していました」
ーー英単語などはどのように覚えていったのですか?
和音「見たら覚えてしまうタイプなので、単語練習などはしたことがありません。手が不器用で書くことが大変だった、というのもあります。
そもそも、『書けば覚える』という考え自体、古いのではと思うことがあります。それで覚える人もいれば、記憶方式が違う人もいるのです」
母「じっと見て覚える子もいれば、書いて覚える子もいる。その子のタイプによってさまざまなやり方があると感じているので、画一的な考えにみんなを習わせる必要はないのでは、と感じますね」
中学時代からTODOは自分で決める
ーー言語を勉強していたり海外を旅したりと忙しいとき、宿題や学校の勉強との両立はどのように進めていましたか?
和音「中学の頃からTODOリストをよく使っています。自分はやりたいことが多くいろいろなことに目移りしてしまいがちですが、TODOリストを使っていると月間や週間の予定がすぐにわかります」
ーー仕事と一緒ですね。
母「そうなんです!締め切りがあるものに関しては、期限までにどれくらい時間が取れるかを本人と話し合い、タイムスケジュールを自分で考え組んでもらいます。
自分で『今日1時間やる』とスケジュールを組んでいれば、『今日1時間やるって言っていたよね』と言うと『そうだった』と言って取り組んでくれます」
ーー自ら進んでできるようになるのですね。
和音「母とは日々ブレインストーミングをしています。自分にとってはメンターであり、チューターでもあります。気が多い自分の衝動にブレーキをかけてくれたり、手綱を引いてくれる感じはありますね」
天才ができるまでのルーツ
学生生活や勉強方法についても都度一緒に考え邁進している印象を受けるが、母として子育ての上で大切にしていたことにはどういった意識があったのだろうか。
子どもが向いている方向についていく
母「良いところが伸びるように、ということはよく考えています。何に興味があって、どっちの方向に行きたいのか、彼が向いている方向に私がついていく、というイメージで育てようと思っていました」
ーー和音さんの関心事に一緒に意識を向けていたのですね。
母「自分のお腹にいた子でも別の人間なので、知ったかぶりをしないでよく観察しようと思っていましたね。
実際観察していると言語以外にも歴史や数学など興味を持つことがとても多くて、何を基盤とするか絞るのは大変でしたが、最終的に何を選ぶかは和音に任せました」
出し惜しみで心をくすぐる
ーー子どもが興味を持つために、どのようにきっかけを作っていったのでしょうか?
母「興味を持ってもらいたいものを、和音の目に入る所に置いておく。ただそれだけです。
例えばパソコンを置いておくと『何だろう』と興味を持ちますよね。そんなとき『特別に使い方教えちゃおうかな!』という感じで、出し惜しみしながら教えていました(笑)」
ーー環境を整えて、子どもがその気になるような工夫をされていたのですね。
和音「公文式の問題集も、楽しくなって『もっとやらせて』と言っても『今日は3枚まで』とか出し惜しみされていました。『もう1枚ちょうだい!』とお願いすると『今日は特別に』と渡してもらえたり(笑)」
自分の人生をコントロールできるように
母「親としての最終的な目標は、和音本人が自分の人生をコントロールして、望む方向へ行けることだと考えています。
参考として私自身の失敗体験も正直に話してシェアしていますし、何か良くないことをしてしまったときでも、同じ失敗を繰り返さないためにどうするかを一緒に考えてきました」
和音「感情的に怒るのではなく、次からどのように防ぎ、同じような場面でどう行動するかを考えて、再発を防ぐ方法や良い方策を話し合っていました。怒るのと同時にメンタリングも行っている感じですね」
ーー困難な壁にぶつかったときも、親子で乗り越えてこられたのですね。
和音「そうですね。自分にとっての失敗や壁というのは人間関係で起こることが多かったです。空気が読めなかったり、ディスプラクシアもあるので。
勉強において壁にぶつかったことはありません。言語を学ぶ過程で難しいことは確かにありますが、学ぶことを楽しんでいるので、大きい壁というよりハードルくらいにしか考えていませんね」
フォーカスするのは子どもの気持ち
ーー言語ももちろんですが、高校1年で高等学校卒業程度認定試験に合格したりと努力が目に見える形で残されていますよね。そういう時はどのようなコミュニケーションをとられていますか?
和音「『さすが』という風に褒められますが、結構あっさりしています(笑)」
母「和音が生まれる前、子どものカウンセリングの仕事をしていて、両親の過剰な期待で動けなくなる子どもたちをたくさん見てきました。
だからこそ、子どもの人生は子どものものではなくてはいけないと、自分にブレーキをかけています。親を喜ばせるために子どもが駆り立てられるのではなく、子ども自身の中にエンジンができるようにと考えていました。
褒めるよりも『それができて、今どんな気分?』というように、子どもの気持ちにフォーカスするようにしています」
言語を学び、言語の文化を守りたい
英語は英検準1級合格の後、現在はケンブリッジ英検でCEFR(ヨーロッパ言語共通参考枠)最高の、ネイティブでも難しいと言われるC2レベルに達しており、中国語に至っては政府公認の中国語試験であるHSKにおいて最高級の6級に合格している彼は、現在、イギリスの大学に進学するためAレベル・プログラムを受講している。
さらにこの期間を活用し、新たな活動にも取り組まれているようだ。彼が目指す先について聞いた。
ーー今後習得予定の言語は?
和音「今はラテン語とエスペラント語を始めました。将来的に自分がいろいろな言語を読める、話せるようになっていきたいと考えています」
ーー言語の知識を活かして実現したいことはありますか?
和音「翻訳機の機能をナチュラルなコミュニケーションにどのように近づけていくかを、将来的に研究したいと考えています。
その他にも、消滅が危惧される言語を守るための活動を始めました。例えば北海道のアイヌ語はユネスコでも存続が危うい言語として指定されています。
言語が消滅するということは言語を使っている文化やアイデンティティが喪失されることと同義だと自分は考えているので、言語の消滅は絶対に止めたいと思っています」
天才にきく天才
8カ国語を操るにとどまらず、さらなる語学の習得や新たな領域への挑戦へも貪欲なその姿から、自分の目指す先へと突き進む力こそ才能と感じる。彼自身はどのように捉えているのだろうか。
天才が思う天才の人とは
ーー身近に「この人は天才だな」と感じる人はいますか?
和音「孫正義氏ですね、身近では全くありませんが。人と違う考え方をして、その上で人の一番前に立って突き進んでいくエネルギーを持った方を、自分の中で天才と定義しています。
孫社長は心のエネルギーや人を見ている鋭さ、他人に対する思いやりを兼ね添え、自分の考えに芯を持っておられる。孫社長がよくおっしゃっている『孫子の兵法』と『孫の二乗の兵法』は、自分が18年間生きてきたうえでの教科書といっても過言ではありません」
ーー孫正義社長と会われたとき、掛けられた言葉で印象的なものはありますか?
和音「『腐った枝は切れ』ですね。腐った枝は早く切らないと根本まで腐ってしまうが、一部分が腐っている段階で切り落とせば後から巻き返しが効く、という意味合いです。
自分が悩んだときなど、思考をリフレッシュしたりリセットするときに考えとして使っています」
佐藤和音はなぜ天才なのか
ーー和音さん自身はなぜ天才なのだと感じていますか?
和音「好きなことを地道にどんどん突き詰めていって、これだというものを自分の中でしっかり持っているから、でしょうか。人と考え方が違っても、そこに突き進んでいく部分、なのかもしれません」
ーー好きなことでも、突き進むのには勇気が必要ですよね。自分や家族を信じて進める力は、天才の要素の1つなのかもしれませんね。
母「変えられない不器用さは、きっと役目があるから変わらないだろうと私は割り切っています。無理には変えようとも思わなかったですね。私だったら気負ってしまいそうな場面でも、臆することなく進める強さを我が子ながら素晴らしいと思っています」
編集後記
過去に人間関係で悩んだことを感じられないほど、彼は熱意のある青年だった。
言語の話になると発音やその国の歴史の説明にとどまらず、文法をノートに記しながら解説してくれたりと、そこにかける彼の思いや伝えたい気持ちの強さを感じられた。
KIDSNA編集部