会話が成立しない子どもの本音を知りたい!

会話が成立しない子どもの本音を知りたい!

2022.04.08

Profile

玉居子 泰子

玉居子 泰子

編集/ライター

1979年、大阪生まれ。出版社勤務を経て、フリーランスの編集・ライターに。育児・教育雑誌『AERA with Baby』の編集・執筆に携わり、また、妊娠・出産、子育て、仕事、福祉などをテーマに、多様な媒体で記事を執筆。2015年頃、自身の家族との対話を見直したのをきっかけに、様々な家族の家族会議を取材し始め、本書のもととなった「家族会議のすすめ」(東洋経済オンライン)を執筆。さらに、関連記事も『AERA with Kids』、日経DUALなどに多数寄稿。NHK『おはよう日本』に出演するなど、その家族会議の様子が注目を集めている。ワークショップも実施中。二児の母。

KIDSNA編集部が選ぶ、子育てや教育に関する話題の最新書籍。今回は『子どもから話したくなる「かぞくかいぎ」の秘密』(白夜書房)から一部抜粋・再編集してお届けします。家族でもっと楽しく話しませんか?一生ものの対話力が身につく「かぞくかいぎ」のコツをご紹介します。

 
 

はじめまして。かぞくかいぎ研究家の玉居子 泰子(たまいこ やすこ)です。

普段は、子育てや育児、福祉などをテーマに本や雑誌やウェブサイトに記事を書く仕事をしています。

わが家では、息子が小学1年生の頃から、あることをきっかけに家族の対話を見直し、「かぞくかいぎ」を始めました。

以来、そのおもしろさにはまって、今度は、かぞくかいぎを開いているご家庭があると聞きつけてはおうちにお邪魔し、その様子を見学させてもらいました。

さて、肝心の「かぞくかいぎ」ってなんでしょう。

かぞくかいぎは、簡単に言えばいろいろなテーマ(議題)を立てて、家族みんなで話し合うもの。大人も子どもも、できるかぎり対等に意見を交わし合うのが、基本です。

わが家がなぜ、そしてどんなふうにかぞくかいぎを始めたのかをお話させてください。

会話が成立しない息子の本音を知りたい!

きっかけは、長男が小学校に上がってすぐの頃でした。

新しい環境に入ることが苦手で、典型的な「内弁慶で外地蔵」だった息子。小学生になって、どんなふうに日々を過ごしているのか、ずっと気になっていました。

よく帰宅後の息子をつかまえては、こんな質問をしたものです。

母「おかえり!学校、どうだった?楽しいことあった?」

息子「別に」

母「給食、おいしかった?」

息子「ふつう」

母「え、何が出たの?」

息子「わすれた!」

母「どんな勉強したの?」

息子「…わすれた!」

これではいけない。そう思った私は、ある日仕事中の夫にメールを送りました。

「かぞくかいぎしをしてみない?」

「いいね。週末やろうか」

このとき、作った我が家のルールはシンプルなもの。

「かぞくかいぎでは何を言ってもいいけど、何か言うようにしよう」

「他の人の話はちゃんと最後まで聞こう」

ところが、娘はようやく読めるようになったひらがなを読むのに精いっぱい。

肝心の息子は、入ったばかりの野球チームの練習を終えて疲れているのか、あまりやる気は見られません。

ああ、やっぱり、うちには、かぞくかいぎなんて合わないのかな…そう思ったのは確か。

 
※写真はイメージ(iStock.com/baona)

盛り上がっても盛り上がらなくても、半年くらい続けていると不思議なことに、かぞくかいぎ以外の時間で、息子の発言が増えていきました。

あれ?なんだかおしゃべりになったなあ。そう思ったのを覚えています。

うまくいったりいかなかったり。飽きたり、しばらく間が空いたり。

相変わらず日常では、けんかをしたりを繰り返しをしながら。

それでも、かぞくかいぎに出会う前より、わが家の会話はずっと増えていきました。

やがて、他の家のかぞくかいぎを取材しながら、いいと思ったところは取り入れて、わが家のかぞくかいぎの形も少しずつ変化していきました。

他の家ではどんな「かぞくかいぎ」をしているの?

初めて、わが家以外のかぞくかいぎを取材したのは、5年前。ここで紹介するファミリーです。

はじめてお家に入るとびっくり。リビングの壁一面が、ホワイトボードなのです。

思いっきり絵を描いてほしいと特注したものがかぞくかいぎをスタートさせて以来、板書ツールとして使われるようになったのです。

この日は、「親子げんか」についての記録が、生々しく残されていました。

ホワイトボードを眺めながらお互いの言い分を見てみると、母も娘も、相手にただ腹をたててけんかしているのではなく、お互い「話を聞いてほしい」と思っていることもわかります。

「もはや、かぞくかいぎなしで、どうやって家族と仲良くできるのかわかりません。かぞくかいぎをしていない家庭がどうしているのか、教えてもらいたくらい(笑)」

かぞくかいぎはすでにこのご家族にとって、なくてはならない生活の一部なのです。

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どうやって始める?「かぞくかいぎ」のコツ

かぞくかいぎのやり方は家族の数だけあるのがおもしろいものです。

“正解”はありません。どうぞ好きに始めてみてください!と言いたいところですが、いざとなると、「どうすればわからない」という声もよく聞かれます。

そこでまず簡単に、初めてのかぞくかいぎをできるだけスムーズにするコツをまとめてみました。

 
 

一番お手軽なのは、やはりリビングです。

せっかくですからおかしやお茶も用意して、リラックスできる場を作りましょう。

 
 

せっかく「かいぎ」と銘打つのですからぜひ「議事録」を取ってみましょう。

大きめの紙やノート、ホワイトボード、ポストイットなどなんでもOK。カラフルなペンを使ったり、絵を描いたりと工夫をすれば、さらに盛り上がります。

 
 

出典/『子どもから話したくなる「かぞくかいぎ」の秘密』(白夜書房)をもとにKIDSNA編集部が作成


かぞくかいぎをするには、何かしら解決したい「課題」があるのは当然なのですが、それを直接議題にすると、なかなかうまくいかないことがあります。

同じ課題でも、直球の問題提起ではなく、子どもが興味を持てそうな視点に、変換してみることをおススメします。

例えば、

・けんかに勝ったらどんな気持ち?

・家族がしてくれて嬉しいこと発表会

・なんで大事なものはなくなっちゃうの?

・忘れ物をして上手に乗り切るには?

・何かハマっている自慢

・パパが早く帰ってきたら、何したい? などなど

 
※写真はイメージ(iStock.com/kohei_hara)

小さな子が参加するかぞくかいぎは、仕事の会議と違って、ゆるゆるでOK。

小学校低学年くらいなら、ふざけたり、NGワードの連発もよくあることです。「まじめにやりなさい!」なんて叱ったら、せっかくの時間がつまらないものに…。

 
 

出典/『子どもから話したくなる「かぞくかいぎ」の秘密』(白夜書房)をもとにKIDSNA編集部が作成


「かぞくかいぎ」をやってみたいけど、家族を誘うのが難しいという声を聞きます。

いつも「かぞく全員のかいぎ」じゃなくていいと思います。

たとえ、全員が参加しなくても、家族内の一部で対話の形が変化すれば、家族全体のコミュニケーションの風向きが変わることもあるかもしれません。

家族をもっと好きになる「玉居子家」のいま

私はこれまで、ライターという仕事柄、何千人もの人に取材をしてきました。仕事で、初めて知り合った人の話なら、どんなに価値観が違っていても興味深く、楽しく聞けます。

それなのに、自分の家族だとなかなかそうはいかないものです。それは気持ちの距離感の違いなのだな、と感じるようになりました。

だからこそあえて「かぞくかいぎ」という場を持って、親と子が「他人」として意見を出し合うことに挑戦する。試行錯誤しながら、時に失敗をしながら、かぞくかいぎを楽しんでいるみなさんの話を聞くことで、わが家もまた対話を続けることができました。

問題がすぐには解決せず、同じテーマを繰り返すことも、もちろんあります。それでも気持ちをひとしきり出してしまうと、また子どもたちは、それぞれの日常に戻って行きました。

かぞくかいぎがあったから、子どもたちが成長したのかどうかはわかりません。ただ、私自身が、かぞくかいぎに救われたのは事実。

わが子を、自分とは違う、可能性に満ちた別の存在と感じられることで、それぞれの性質やあり方を尊重できるようになりました。

かぞくかいぎの「効果」はすぐにはわからないかもしれません。でも、やってみたら家族の形が変わるのは、確かです。

自分の家族がもっともっと好きになると、それだけは確信しています。

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玉居子 泰子

玉居子 泰子

1979年、大阪生まれ。出版社勤務を経て、フリーランスの編集・ライターに。育児・教育雑誌『AERA with Baby』の編集・執筆に携わり、また、妊娠・出産、子育て、仕事、福祉などをテーマに、多様な媒体で記事を執筆。2015年頃、自身の家族との対話を見直したのをきっかけに、様々な家族の家族会議を取材し始め、本書のもととなった「家族会議のすすめ」(東洋経済オンライン)を執筆。さらに、関連記事も『AERA with Kids』、日経DUALなどに多数寄稿。NHK『おはよう日本』に出演するなど、その家族会議の様子が注目を集めている。ワークショップも実施中。二児の母。
 
 

子どもから話したくなる「かぞくかいぎ」の秘密 ~一生ものの対話力を磨く

玉居子 泰子 (著)

1,650円(税込み)白夜書房

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