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子どもへの「教育投資」はリターン大?無視できない学歴と収入の格差
教育にはお金がかかる。しかし多くの教育費を投じられた子どもほど学力が高く、将来的に高い収入が得られるとしたら、子どもへの教育費は負担だろうか、投資だろうか……?「教育投資」は子どもに何をもたらすのか。データを元に紐解いていく。
6割超の保護者が「老後より子どもの教育にお金をかけたい」
「子どもが大人になるまでに、どれくらいお金をかければいいのだろう」
「私立の学校に通ったり留学をするには、いくらかかる?」
「子どもにはお金のことを気にして進路を諦めてほしくない……」
このように考える保護者は多いのではないだろうか。
ソニー生命の「子どもの教育資金に関する調査2021」によると、63%の保護者が「子どもの学力や学歴は教育費にいくらかけるかによって決まると感じる」ようだ。
保護者の3人に2人が教育費が子どもの学力に強い影響を及ぼすと考え、半数以上が自身の老後の準備よりも子どもの教育費を優先させたいと考えており、子どもへの教育が重要であると考える保護者が多くを占めることを現わす。
しかし、教育にはお金がかかる。
同じくソニー生命の調べによれば、「子どもの教育費の負担を重いと感じる人」は63.9%。
教育が大切だと思いながらも負担に感じるジレンマが生じるのはなぜか。
日本の教育費負担の現状を、各国との比較で見てみよう。
日本は保護者の教育負担が大きい?
教育に関する公財政支出はOECD平均の12.9%に対し、日本は9.1%と低い。
公財政教育支出の割合が高い国では、どのような教育が行なわれているのだろう。
上位3国を例に見てみると、財政を最も教育に支出している割合が高いニュージーランドでは、1990年代に幼稚園と保育園が一元化され、“テファリキ(TeWhaliki)”と呼ばれる幼児教育プログラムが組まれている。
続くアメリカでは、エリートを中心に早期教育よりも非認知能力(主体性、自己肯定感、想像力、自制心、やり抜く力、社会性など人間としての基本的な力)を重要視。イノベーターを育む"正解のない教育”が行なわれる。
さまざまな人種が集うカナダでは、文化的背景、人種的背景、社会的背景が異なるそれぞれの子どもを尊重する教育に主眼が置かれ、永住権を所有している移民もカナダ人同様に6歳から16歳まで(州による)の義務教育を無償で受けることができるという。
続いて、就学前教育における教育費の公費と私費の割合はどうだろうか。
民主主義教育を行うスウェーデンでは、就業前学校の多くでレッジョエミリアアプローチが取り入れられ、その全てが公費で賄われている。
対して日本の公的負担は45.4%に留まるが、2019年10月から「幼児教育・保育の無償化」がスタートしており、家計の負担が大幅に下がっていることも予想される。
とはいえ、保育園や幼稚園のほか習い事をしている子どもや、公立校の学校教育だけではなく塾に通い受験に備える子どもは、依然として多いのではないだろうか。
OECD(経済協力開発機構)が、「教育投資を拡大して機会の不平等に対処すべき」とするように、テクノロジーの導入や、時代に即し充実したカリキュラムなど公教育に望むことは多い。しかし、我が子が幼児期、あるいは就学中にその望みが叶うとは限らない。
それならば保護者の私費負担、つまり「子どもにいくら教育投資できるか」ということが、子どもの将来にとって重要なのかもしれない。
学校教育費5倍でも、さらに習い事に投資
実際に、保護者が負担している教育費はどれくらいなのだろう。
文部科学省が行った「平成30年度子供の学習費調査」(全国1,140校 29,060人を対象とした抽出調査、うち有効回答数24,748)の結果を見てみよう。
学校教育費、学校給食費、学校外活動費を合わせた「学習費総額」と、そのうち塾や習い事などの「学校外活動費」が占める割合は以下のとおり。
授業料が高い私立の方が「学校教育費」が高いため、私立に通った場合の教育費負担が高いことはデータを見るまでもなく明らかだ。
最も差の開きが大きい小学校では、公立の年間費用約32万円に対し、私立では約160万円で、その差は約5倍。6年間同じ費用がかかるとすると、公立では約193万円、私立は約959万円となる。
さらに注目してほしいのは、幼稚園から高校まで共通して、公立よりも私立に通う子どもの方が「学校外活動費」の費用が高いということ。
学校教育費に加えて、塾や習い事などの費用も私立に通う保護者の支出が大きいことがわかる。
同じく「平成30年度子供の学習費調査」(文部科学省)の「学校外活動費」を世帯の年間収入別に見ると、公立・私立ともに、世帯の年間収入が多いほど、おおむね支出が増加する傾向が見られた。
つまり世帯年収が高いほど、子どもの教育に投資をしていることがわかる。
では、子どもの教育にお金をかけた場合、学力にどのような影響を与えるのだろう。
お茶の水女子大学の「平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)保護者に対する調査結果」(文部科学省委託研究)から、世帯収入と子どもの学力に相関関係があることがうかがえた。
調査によれば、家庭の社会経済的背景(※) が高い児童生徒の方が、各教科の平均正答率が高い傾向が見られ、より学歴が高く所得が多い世帯の子どもほど、知識を問うA問題、その活用であるB問題ともに国語・算数とも正答率が高かった。
※ 家庭の社会経済的背景(Socio-Economic Status): 保護者に対する調査結果から、家庭所得、父親学歴、母親学歴の3つの変数を合成した指標。当該指標を四等分し、Highest SES、Upper middle SES、Lower middle SES、Lowest SESに分割して分析。
つまり、教育にお金をかけられた子どもほど、高い学力を持っていると見ることができそうだ。
無視することはできない学歴と収入の格差
最後に、厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査」の最終学歴別の給与を見てみると、学歴の差で給与に大きな差が生じていることが明らかとなった。
最終学歴が「大学院」の男性の2020年の平均給与は465万2000円、「大学」391万9000円、「高専・短大」 345万5000円、「専門学校」309万3000円、「高校」では295万円となっている。
女性の場合は、「大学院」404万3000円、「大学」288万3000円、「高専・短大」258万円、「専門学校」263万4000円、「高校」 218万円。
学歴別に賃金カーブをみると、男女いずれも大学院と大学の傾きが大きく、男性は女性に比べてその傾向が大きい。
これに当てはまらない個人は数多く存在することを踏まえたうえで、これまで見てきたデータからわかったことは、教育投資を受けた子どもほど学力が高く、将来的により多くの収入を得られる可能性が高いということ。
中には、見返りを求めるわけではない子どもの教育に対して「投資」と考えることに抵抗がある人もいるかもしれない。
しかし、経済的、生活面での豊かさだけではなく、生涯に渡る知性を「子どもの財産」だと考えるならば「子どもの教育に投資する」という方法もひとつの考え方といえるのではないだろうか。
<執筆>KIDSNA編集部