【専門家監修】「小1プロブレムは子どもの問題ではない」入学前にできる対策

【専門家監修】「小1プロブレムは子どもの問題ではない」入学前にできる対策

「小1プロブレム」とは、子どもが小学校1年生になるタイミングで生じる様々な課題のこと。この記事では、小1プロブレムの原因や対策、保護者に聞いた体験談をご紹介します。子どもがスムーズに小学校生活を送れるように、今から家庭でできることはあるのでしょうか。乳幼児教育実践研究家、非営利団体コドモノミカタ代表理事の井桁容子先生の解説を交えてお伝えします。

小1プロブレムの定義とは?

「小1の壁」は耳なじみがあるかもしれませんが、「小1プロブレム」という言葉はご存じでしょうか?

小1の壁とは、放課後の子どもの居場所をどうするかといった問題や、子どもの勉強のフォロー、長期休みの過ごし方といった親側の問題です。

それに対し、小1プロブレムとは、小学校入学後の子どもが向き合うことになる問題という違いがあります。

※写真はイメージです(iStock.com/SDI Productions)
※写真はイメージです(iStock.com/SDI Productions)

小1プロブレムの定義は、入学したばかりの新1年生で

・先生の話を聞かない

・授業中に座っていられず立ち歩く

・集団行動ができない

といった状態が、数カ月にわたり継続する状態を指します。

参考:

幼児期の教育と小学校教育の接続について/文部科学省

小1問題・中1ギャップの予防・解決のための「教員加配に関わる効果検証」に関する調査の結果について/東京都教育委員会

小1プロブレムが起こるのはなぜ?

文部科学省の「幼児期の教育と小学校教育の接続について」によると、小1プロブレムの発生理由には以下が挙げられています。(全市町村教育委員会からの回答)

・家庭におけるしつけが十分でない

・児童に自分をコントロールする力が身に付いていない

・児童の自己中心的傾向が強いこと

・幼稚園・保育所が幼児を自由にさせすぎる

・授業についてこられない児童がいる

これらが起こる要因の一つには環境の変化が挙げられます。

幼稚園や保育園での過ごし方と、小学校での過ごし方は大きく異なります。文部科学省は、幼児教育の役割を以下のように示しています。

幼児教育は、目先の結果のみを期待しているのではなく、生涯にわたる学習の基礎をつくること、「後伸びする力」を培うことを重視している。幼児は、身体感覚を伴う多様な活動を経験することによって、生涯にわたる学習意欲や学習態度の基礎となる好奇心や探究心を培い、また、小学校以降における教科の内容等について実感を伴って深く理解できることにつながる「学びの芽生え」を育んでいる。

出典: 文部科学省『幼児教育の意義及び役割

つまり、幼稚園や保育園では基本的な生活習慣を中心に学びます。自由な遊びや体験型の体を動かす学びが多い一方で、小学校では、椅子に座って先生の授業を聞き、読み書きや計算のスキルを学ぶ時間が長くなります。

小学校入学前までは、幼稚園や保育園で自由に過ごしていた子どもたちが、学校生活では、45分間椅子に座って先生の話を聞く集中力が求められるようになるのです。

また、小学校では自分の気分や気持ちに関わらず、時間割通りに集団生活で過ごす必要があります。小さなトラブルであれば子ども同士で解決するシーンも増えてくるでしょう。

こうした環境変化によって、子どもが落ち着かなくなり、小1プロブレムが起こるようです。

※写真はイメージです(iStock.com/recep-bg)
※写真はイメージです(iStock.com/recep-bg)
井桁先生
井桁先生

私は子どもの問題というよりは、「困っている子どもが増えている」と思っています。

つまり、大人にとって都合のいい子どもに育っていない。そのことで子どもが「どうしたら大人に認めてもらえるのだろう」と苦しんでいるように思えるのです。

これは社会的な背景が関係しています。日本では高度成長期以降、「頑張った分だけ幸せになれる」という成果主義の教育を行ってきました。その教育を受けた人たちは「頑張らないと幸せになれない。力を出せない自分がダメなのだ」と自分を責める傾向にあります。

その傾向は家庭にも反映し、家族関係の中に心地よくない状態が生じてしまうのです。

大人の期待に子どもが沿っていない時に、子どもを理解しようとする前に否定してしまう。幼稚園や保育園でも子どもを保育者の意に沿わせようとする感覚がまだまだ根強くあります。

架け橋プログラムなどで解消を目指していますが、小1プロブレムは幼稚園・保育園と小学校、その両方に、更には社会全体の子育て観にも原因があると考えています。

小学校入学前に家庭できる対策

小1プロブレムを回避するために、幼稚園や保育園の頃からできる対策について井桁先生に教えてもらいました。


キャッチボール(対話)を大切にする

小学校では今、「主体的で対話的な深い学び」が求められているものの、「大人に認められるには……」「できないと愛してもらえない」といった思いを抱えて育った子どもたちは、本来持っている実力を発揮できず、小学校に上がってから伸びにくいと考える井桁先生。

乳幼児期からの関わり方が大切だと続けます。

井桁先生
井桁先生

0、1、2、3歳頃までに作られる信頼感が子どもの土台になります。

「私は私のまま受け入れてもらえる」という安心感を子ども自身が持つことで、主体的な「もっとやりたい!」という思いに繋がるのです。

そのためには、保護者は子どもが受け止めることができるボールを投げ、子どもが返しやすい位置にいて受け止めるというやり取りが必要なのです。大人はよかれと思って「次はこれをしなさい」と次から次へと子どもに投げかけますが、相手が受け止められなければ、それは痛くて怖いボールをぶつけられている一方的な関わりにしかならないのです。

対話はドッジボールではなく、キャッチボールです。子どもが安心して受け止め、そのボールに自分の気持ちや考えを乗せて返せるような対話ができるといいですね。

大人が謙虚な姿勢を持つ

保護者は、子どものことを目を離さず見続けることはできません。幼稚園や保育園に通っている間に起こったことを聞く時は、子どもの言葉や行為を善悪で評価したり否定せずにとりあえず理解しようと耳を傾けることが大切です。

井桁先生
井桁先生

大人は子どもにたいして、大人である自分のほうが正しいと思い込みやすいのですが、経験したことから、時には思い込みにとらわれたり見間違いをすることもあるでしょう。

加えて言えば、子どもたちは大人よりも圧倒的に優れた五感を持っていますから、大人が見落としたり聞き漏らしていることを子どものほうが感じたり気づいていたりすることもあるはずなのです。

子どもに「問題がある」と決めつけるのではなく、本当はどうなのか、謙虚さを持って子どもの話を聞くことが大切です。大人のそういう姿勢を子どもは敏感に感じ取ります。

とことん遊ばせる

小学校で始まる勉強。集中して考えられる子どもと、なかなか集中力が続かない子どもの違いはどこにあるのでしょう。井桁先生は、幼児期に自分自身の興味関心が向くことに全力で取り組んだ経験があることが大切だと語ります。

※写真はイメージ(iStock.com/maruco)
※写真はイメージ(iStock.com/maruco)
井桁先生
井桁先生

集中力というのは「おもしろい世界がそこにあるんだ」と気づくことによって身につくものです。

好きなことをしているときに「次はこれをしなさい。それは片づけなさい」と先走って指示される言葉に従順に応じようとしているうちに、子どもは夢中になる時間を奪われてしまうのです。

勉強とは机上のものだけではなく、子どもが「おもしろい!」と思ったことは全て学びです。子どもの集中力を身に付けたいのなら、時にはとことん遊び込むことが大切です。

他の子どもと比べない

小学校に上がると、それまで以上に多くの同級生や上級生と関わることになり、コミュニケーション力が求められるシーンが増えてきます。

未就学児の保護者ができることとして、他の子どもと比べず個性を認めることが、学童期以降のコミュニケーションにも役立つといいます。

井桁先生
井桁先生

他の人と比べないことで、一人ひとりに得意なことがあり、それぞれに自分とは違った魅力を持っていることに気づくことができます。

たくさんの友だちと仲良くすることは、自分が困った時にお互い様で助け合えるつながりを育てますからね。みんなと仲良くすることは、お宝を手にしているようなもの。

それを子どもに伝えてあげると「違う人」を排除するのではなく相手の良さを見ようとします。子どもを他の子と比べないことで、集団生活の中のコミュニケーションでも相手を認めることができるでしょう。

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※写真はイメージ(iStock.com/maruco)
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入学準備ドリルを買って、ひらがなとカタカナの読み書きを練習しました。

 
 

給食の時間がかなり短く15分程しかないと聞いていたので、食べられる量を子どもに決めてもらい、できるだけ短時間で食べ終えることができるように練習していました。

 
 

保育園の方針で、保育士さんのことを「先生」ではなくニックネームで呼び、敬語も使うことがありませんでした。小学校入学前には、こういう時はこう言うんだよと敬語の使い方を教えました。

 
 

子どもが最近まわりの友達の影響で「宿題しないと」と言って自分から文字や数字の勉強をしています。そのため、学習面はそれほど心配してないのですが、片づけや登校の準備を自分でできるように子ども部屋を用意して、そろそろ練習を始めようかと考えています。

幼稚園、保育園と小学校が連携する「架け橋プログラム」

※写真はイメージ(iStock.com/recep-bg)
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子どもは3月までのびのび過ごしていた幼稚園や保育園から、小学生になった途端に、学習の習慣がついたり、集中力が身についたりするわけではありません。

幼稚園、保育園と小学校間のギャップを埋め、スムーズに移行できるよう文部科学省は「幼保小の架け橋プログラム」を推進し、小1プロブレムの解消に取り組んでいます。

文部科学省の資料『学びや生活の基盤をつくる幼児教育と小学校教育の接続について』では、教育基本法などが掲げる目標達成を目指し、連続性や一貫性を保って、幼稚園や保育園、小学校が連携をとって進めることが大切であるとしています。

さらに、幼児期は遊びを中心として様々なものと関わる時期ですが、児童期は、遊ぶ時間と集中する時間の区別をつけ、自分の課題解決に向けて計画的に学んでいく時期であるという違いがあるとも示しています。

そこで、令和4年度からモデル地域を先進事例として、5歳児から小学校1年生の2年間を「架け橋期」として焦点を当て、地域の幼児教育と小学校教育の関係者が連携して、カリキュラムや教育方法を充実させる取り組みが始まっているそうです。

全国的な架け橋期の教育の充実を目指し、文部科学省のホームページで各自治体の取り組みが紹介されています。

参考:幼保小の架け橋プログラム/文部科学省

井桁先生
井桁先生

保育の先生方は、小学校で求められていることや、子どもの育ちに必要なことを勉強しながら手探りしている状態です。

小学校の授業で立ち歩かないよう、幼児期から座る練習をさせる場合もあるようですが、幼虫とサナギの成長が異なるように、私は幼児期と学童期ではやるべきことが違うと考えています。

つまり、幼児期を充実させることによって「後伸び力」が育ち、小学校生活の中で新しい学びや発見を楽しめるのです。

幼児期から椅子に座らせて先生の話を聞くというような表面的な訓練をさせてしまうと、本来の目的である他者の話を聴く意味や面白さ、その必要性に気づけず、更には自分の思いや考えを表現できず一方的に人の話を受け入れる子になってしまうかもしれません。そうした子どもたちが小1プロブレムに直面してしまう可能性があるのです。

【体験談】小1プロブレム、どうやって乗り切った?

小学生の子どもを育てる保護者は、小1プロブレムをどのように乗り切ったのでしょうか。体験談を聞いてみました。

※写真はイメージ(iStock.com/mapo)
※写真はイメージ(iStock.com/mapo)
 
 

1年生の時の授業参観で、娘が他の子と比べてもまったくちゃんと座っていられないことを知り驚きました。机に寝そべったり、いきなり立ったり……。

そのうち直るかなと思い特に注意したりしなかったのですが、2年生になったら直っていました。担任の先生と相性が悪かったことが原因のひとつだったかなと思っています。

 
 

子どもが時間を守れないのは、時計を読めないからだ! ということがわかったので、時計の読み方を教えました。

 
 

座っていられないタイプの息子も幼稚園でだいぶしつけられたようで、小学校にもすんなり馴染んだようで逆に驚いた記憶があります。

 
 

授業参観に行くと、先生の話を聞かず周りの子に話しかけたり、全然違うことをしていたり……。授業を理解できておらず、個人面談でも先生が困っていたようなので、かなり不安でした。

軽度の発達障がいかもしれないと、いろいろ調べてみましたが、学年が上がるにつれ次第に落ち着いてきた様子なのでよかったです。

 
 

以前は子どもが小学生になったらフルタイムで働くつもりでしたが、入学前に働き方を見直してパートで働くことにしました。子どもが帰宅する前後には、なるべく家にいて宿題や勉強、オンラインの習い事のフォローをしています。

とにかく集中力が続かないので、「1ページ終わったら休憩」と小まめに休憩をはさむようにしていますが、今も集中力を継続させる方法を模索中です……。

 
 

小規模な保育園で過ごしたので集団生活が不安でした。夏休み前まで行き渋りがあり、毎朝泣いて送り出しが大変でしたし、何度か保健室登校した後、そのまま帰宅することもありました。小学校入学と同時に時短勤務が終了したので、職場にはかなり迷惑をかけました。

今はクラスに仲のいい子ができたので、学校が楽しくなってきたようです。子どもが学校生活に慣れるまでに必要な時間だったと思うので、特に「乗り切った」感じはありません。

小1プロブレムの解消は何歳からでも遅くない

※写真はイメージ(iStock.com/miya227)
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小学校入学前に土台が築かれている子どもは、小学校入学以降、そして中学や高校、社会に出てからも自分や他者を信頼できるようになるそうです。

その一方で、乳幼児期に土台を築くことができず、小1プロブレムに直面する子どもも周囲の大人の対応次第で変わる可能性がある、と井桁先生。

井桁先生
井桁先生

「たんぽぽをバラに育てたい、シロツメクサをひまわりにしたい」というような無謀なことをやっていると大人が気づかずに、6、7年間経ってしまうと、子どもたちは大人を信頼できないばかりでなく、自分自身を信頼することもできなくなってしまいます。

3歳までの土台が大事とお伝えしましたが、大人が気づいた時点で子どもを理解しようとする姿勢を示せば、いくらでも修正することができます。

「どうしてそれをしたのか、あなたはどう思うのか」と、対話的な関わりをして、大人からの一方的な指示を鵜呑みにすることを期待しているわけではないと示してあげればいいのです。

そして、「大人も時々間違えることがあるので、そのことに気づいたら“ちがっているよ”と 子どもは言っていいんだよ」と伝えてあげて欲しいのです。つまり、間違えた関わりをしてしまったと気づいた大人は、正直に「ごめんね」と言葉にしてくれると、子どもは安心して意欲的に生きていくことができるのです。

「小学校で困った行動をする子ども」ではなく、困っているのは子どもの方なのかもしれません。保育園・幼稚園、小学校、そして保護者が連携し、子どもの声に耳を傾け、枠に当てはめようとしない姿勢を持つことで、子どもはのびのびと学びを深めることができるようになるでしょう。


監修

Profile

井桁容子

井桁容子

東京家政大学ナースリールーム主任、東京家政大学非常勤講師を歴任。2018年4月よりフリーとなり、 保育SoWラボ(ほいく そう らぼ)代表、非営利団体コドモノミカタ代表理事、「保育の根っこを考える会」主宰。現在、全国私立保育連盟『保育通信』に連載中。
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2023.11.06

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