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これから子どもが就学を迎える保護者にとって、放課後の大半の時間を過ごす学童は未知の場所。そこで今回は、子どもも大人もしんどくない保育を目指す、放課後児童支援員・きしもとたかひろさんに、学童期の子どもたちの変化と、関わり方についてお聞きしました!
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几帳面なことで助かる人がいるかもしれないし、ゆるいからこそ救われる人もいるかもしれない。都合よく考えすぎかもれしないけれど、そういうことにしようと思う。 できている人とできていない人をわけて「できている人が正しくて、できていない人が間違ってる」ってしてしまうのは、とってもしんどいもの。 こんな人間でいたいな、と思うことがある。子どもと関わるときにこんなことに気をつけたいな、と思うことがある。 けれどできなくて、「自分はできないなぁって思ってしまう。 けれどもしかしたら、みんなが「自分はダメだなあ」と思っているかもしれない。そんな風に思ってみると、少し気持ちが楽になる。
出典: (きしもとたかひろ.大人になってもできないことだらけです.株式会社KADOKAWA,2022,176p.)
漫画が主体の『怒りたくて怒ってるわけちゃうのになぁ』を1月に出版し、今年秋にエッセイ『大人になってもできないことだらけです』が(KADOKAWA)から発売になった、放課後児童支援員のきしもとたかひろさん。
小学生になると環境の変化が大きく、保護者が把握しきれない部分が増えていくもの。就学を前にさまざまな疑問や不安をかかえている保護者も多いのではないだろうか。
そこで今回は、多くの子どもたちの放課後の居場所である「学童」にフォーカス。子どもたちと保護者に寄り添い続けるきしもとさんに、学童期の子どもたちの変化や、その受け止め方についてお話をうかがった。
学童期のよくない変化も「成長」と捉える余裕を
きしもと たかひろプロフィール:関西の学童保育所で多くの小学生と過ごしてきた保育士。正解のない子どもへの関わり方に対して「僕が気をつけたいこと」と題して、気づき・考えたことをSNSで発信し、保護者や保育士、教育関係者はもちろん独身の社会人から学生まで幅広い層に人気に。優しい語り口とイラストにファンが多い。Twitter(@1kani1dai)。WEBサイトgrapeで連載執筆中。
ーーきしもとさんは学童で数多くの小学生とかかわって来られていますが、まず、保育園、または幼稚園から小学校という大きな環境の変化の中で、未就学期と学童期での子どもたちの変化について教えてください。
きしもとたかひろさん(以下、きしもとさん):僕自身、意識しているのは、子どもも大人も、誰しもがんばっている場面とがんばってない場面があるということです。
もし、子どもがなまけている場面を見かけても、それはその子の一面でしかなく、「裏側ではがんばってるかもしれない」と想像してみるんです。
たとえば、学校でがんばっていて「お子さんは真面目です」と先生から言われても、それがその子の性質のすべてではないし、逆に、いつも学校でぐうたらしていても、家でもそうとはかぎらない。
とはいえ、1年生の子どもたちにとって、学校はまずはがんばろうとする場所です。
初めて習うことばかりで嬉しくて、宿題も毎日がんばって一生懸命やるんですけど、大体夏休み前後ぐらいから、手を抜いてさぼりだす子があらわれるんですよね(笑)。
そのさぼりだす姿を見たとき、保護者の方は「せっかくここまでがんばってきたのに」「いい子に育っていたのに」とよくない兆候として受け止めがちです。
学童ではそんな姿こそ「来た来た!」「ようやく出してくれた」と成長として受け止められたら良いなと思っているんです。
たとえば、「宿題終わった?」って聞いたら「終わった」って言ったけど、実は終わってなかったら、「今日は初めて宿題さぼった記念日です!」という風に(笑)。
マイナスに見えることも、すべて成長だと思って見るとすごく楽しいんですよ。
ーーさぼった記念日ですか!(笑)。
きしもとさん:放課後児童クラブ運営指針(※1)によると、子どもたちに保障されることとして「遊び」「学習する時間」の前に、まず「休息」があげられています。
僕が一番大事にしている学校と学童との違いは「その子が安心できること。言い換えると気が抜けるかどうか」です。子どもたちは学校で十分がんばっているんだから、「学童ではがんばらなくていい」ことを保障してあげたい。
だから、さぼったということは、「がんばらなきゃ」と気を張っていたところから、ふと力が抜ける場所になった瞬間で、僕としては、その子のあるがまま、楽になれる場所になった記念なんです。
ーーさぼることって否定的にしか捉えられなかったので、目からうろこです……。ほかにはどんな変化がありますか?
きしもとさん:ほかにも、嘘をついたり、ケンカをしたり、ずるをしたり、何か物を取ったり壊したりといったトラブルも起きます。
(※1)子どもの最善の利益の保障のために、厚生労働省が発行している放課後児童クラブ(学童保育)の運営の指針となるもの。
きしもとさん:たとえば、誰かの消しゴムを取ったり、お母さんの財布から小銭をとったりしたときに、保護者の方は「こんな子に育てた覚えはないのに、私の育て方が悪かったんでしょうか…」とすごく心配されます。
もちろん、やってしまったこと自体はよくないことなので、繰り返さないよう話さなければいけませんが、その子がなにかに興味を持って、たまたま行動した結果がそうだったと考えることで、「子育ての仕方が悪かった」とか、その子自身が悪いというふうに、悲観しないでほしいと思っています。
悪いのは、その子の人格や子育ての方法ではなく、その行為なので、その度にその失敗に向き合っていくことが大切です。そのためには人格を否定されず安心して失敗と向き合える余裕が必要になってきます。
親として「いい子」で育ってほしいと願う気持ちは当然あるものですが、生活の中で見えない部分の方が多くなっていくのが学童期です。
「いい子」じゃない部分が見えたとしても、「うちの子もそういうことに興味を持ち始めたんだな」と、成長の一段階としての実感できると、少しだけ心に余裕ができて冷静に向き合えるような気がしています。
ーー長男がすごくいい子タイプなので、たしかに、いつそういうことが起きるんだろうと、ハラハラしつつも、ちょっと楽しみにしている部分もありますね(笑)。
きしもとさん:悪い子だから悪いことをする、いい子に育てたらしないみたいな育成ゲームではないですからね。
子どもたちは発達の過程で、「大人から見たよくないとされること」に興味を示したり、示さなかったりしていくんですよ。たまたまそこに財布があったから取ったとか、偶然の環境があって起こることもたくさんあるので。
「悪いことをしてもいいよ」と開き直るわけではなくて、生活の中で起きる一つのハプニングと捉えて見ると、関わり方が変わってくると思っています。
ーーとはいえ、真面目に子育てをしている人ほど、そういう行動にはショックだし、追い詰められてしまいますよね。
きしもとさん:「真面目に」「正しく」「この子が幸せになるように」って親ががんばればがんばるほど、その子もご自身もしんどくなっていく可能性もあります。だから、あえて「記念日」って捉えたり、ちょっと遊びがあると楽になることもあるのかなと思います。
保護者の方自身がしんどくなっている部分があるなら、それを取りのぞく作業ができるといいですね。
子育てといっても、そこにあるのは「生活」です。その中で自分の性格と子どもの性格が合わなくても仕方ないんです。合わないなら合わないなりに、「あなたがひとりで生活できるまでは一緒に生活するから、折り合いをつけましょう」ぐらいの感じで。
逆に、もし自分がズボラだなと思ってしまっているなら、それが子供の助けになってるかもしれないと思えるといいですね。
ーー子どもと親の性格は合わなくてもいいんですね。
きしもとさん:学童なんて全く関係ない大勢の子どもたちが生活をしているので、全員なかよしなんて絶対無理なんです。僕も「あなたがここで生活する上で手助けをする味方です。でも、無理に仲良くしなくても大丈夫だよ」というスタンスでいます。
正しいかどうかより、まずは柔軟に考える
ーー学童ごと、先生ごとでも多様な考え方があると思いますが、そもそも学童に入れない、選ぶ余地がないといった問題についてどうお考えでしょうか?
きしもとさん:世間で認識されている学童には大きく分けて、放課後保護者が就労などで家にいない児童を対象とした放課後児童クラブと、学校などに併設されていて全児童が来ていい放課後子ども教室があります。
別々に設置されていたり、民設民営だったり学校内にあったり、実態は別だけれどほとんど同じように運営されていて、延長だけ学童だったり、実にさまざまです。
それぞれ役割や目的は違いますが、子どもや保護者にとってはどれも子どもが安心して過ごす居場所です。
大前提として、学童は子どもたちの安全が保障されていることと、人権が守られていることがベースにあり、そのための箱が必要になりますが、その場所が不足しているという問題がまずひとつ。
その上で、人として尊重され、主体性を持ちながら、健全な育成がおこなわれるべきというのが質の問題です。
ただ、場所の問題と質の問題は絡み合っているので、簡単に解決策を提示することはできません。
ーー保護者として、当然質の問題も気になるけれど、まずは箱としての場所の確保を優先せざるを得ないのが、実情ですよね……。
きしもとさん:「学童に入れたらオールオッケー」とならないのは申し訳ない部分ではありますが、「子どもにとっての居場所がいくつかある」ことを意識できればいいのかなと思います。
当然、学童に通わせたからOKではないし、その子にとって休息となる場所は、学童以外の場合もあるし、自宅の方が休息できるかもしれない。
あるお子さんは、学童、学校の中にある地域のお年寄りがボランティアで運営している場所、自宅、とその日の気分で好きな場所で過ごしているそうです。
学童だけじゃなく、子どもが安心して過ごせる場所が、複数あるのはひとつの理想ですね。
家でのお留守番も、安全が保障されているならいいと思います。
かといって、選択肢の少ない環境の子が不幸と言いたいわけではなく、今ある環境の中で、安心して生活できる場所を子どもと一緒に見つけていけたらいいなと思います。
ーー3年生ぐらいになると「学童を辞めたい」と言い出す子もいて、居場所問題がまた発生しますよね。「学童をやめたらその後みんなどう放課後を過ごすのか?」という点も未就学児の保護者は気になるでしょうね。
きしもとさん:そういう場合、お子さんの代弁者として「その子には別の場所に好きな友だちがいて、その場所で過ごす時間をお子さんは求めています」と保護者とお話しすることがあります。その子の最善の利益を考えることが僕らの仕事ですから。
当然親御さんは「心配だし安全を大事にしたいから学童を続けたい」と納得できず、話し合いの上で本人の意向が通らないこともあります。その場合、折衷案として、たとえば「学童でも週1回はその子の友達がいる公園まで遊びに行く」など、その子の権利を守る対応を考えます。
あくまでこれは、動ける人間がいた場合ですし、やろうと思っても運営方針によっては、許してくれないこともあるでしょう。
ただ、正しいかどうかは置いておいて、すべてを柔軟に考えてみると、新たな方法が見つかることもあります。
「ここが合わなければ終わり」ではなく、「ほかにいい場所があるのかもしれない」と、幅広く考えられたらラクになると思います。
ただ、実際は考える余裕がない場合がほとんどですよね。地域によって違いますが、学童はもちろん、児童館などの専門機関に相談できるならしてみることで、解決していくこともあるかもしれません。
環境が変われば評価が180度変わることもある
ーー小1の次男は保育園時代からすぐに手が出て、なかなか衝動が抑えられないタイプで、就学前は戦々恐々でした。今お子さんの行動や性格などで、就学に不安を抱えている保護者の方に、なにかアドバイスいただけますでしょうか。
きしもとさん:実は、保育園からの引き継ぎで無茶苦茶やんちゃといわれていた子が、学童ではそうでもないケースはよくあります。居場所が変わって環境が変わると、評価がまったく変わるんですね。
その子がその子として存在できて、守ってもらえているという安心感を感じることで、攻撃しなくなったり、年下の子に優しくする場面を見られたりすることもあります。
これも先ほどのサボりの話と同じで、一つの環境での姿を見て「この子は〇〇」と判断せず、いろんな環境で新しいその子の姿に気づけることってあるんですよね。
ーー次男もサッカーチームに入ってから、いちばん年下ということもあり、ほかの学年の子やコーチからかわいがってもらえて、「暴力的な子」「問題のある子」ではなく、「元気な子」「明るい子」というよい面がフォーカスされるようになりました。それが結果的に本人にとってもよいフィードバックとなって、少しずつ変化していると感じます。
きしもとさん:「変わって欲しい」からではなく、「居場所がひとつ増えればいいな」くらいの感覚で、本人が満たされている場所を作ってあげることが大事かなと思います。
ーーきしもとさんの活動は「居場所」というのがひとつのキーワードのように感じました。
きしもとさん:よくお話するんですが、学童なんかは特に分かりやすくて、まず「ここにいていいよ」という場所の居場所ですよね。
もうひとつが、「この人がいる」という居場所。友人でもいいし、毎日帰り道の歩道で立ってくれているおじいちゃんと、信号で待ってる間喋るという子がいるんですけど、その人がいることで、その子にとってそこが居場所になると思っています。
僕にとっては思春期に、じいちゃんとばあちゃんが何も言わずに家に泊まらせてくれることがあって、「ここにいていいんや」と感じさせてくれました。「嫌なことがあったり疲れたらここにきて良いんや」「この人やったら受け止めてくれる」と思えて安心できたんです。
その子が自分らしくいられる場所、好きなものがある場所、熱中できる趣味……そういう「居場所」が自分の中に複数イメージできたらいいですよね。
<取材・執筆>KIDSNA STYLE編集部