【村木風海】地球温暖化を止める技術は既にある?!環境問題に挑む22歳の化学者

【村木風海】地球温暖化を止める技術は既にある?!環境問題に挑む22歳の化学者

2023.02.15

Profile

村木 風海

村木 風海

化学者/発明家/2021年より内閣府ムーンショットアンバサダー/ポーラ化成工業(株)フロンティアリサーチセンター特別研究員/(株)Happy Quality科学技術顧問/トーセイ・アセット・アドバイザーズ(株)科学技術顧問を兼任。

化学者・発明家。 専門はCO2直接空気回収(DAC)、CO2からの燃料・化成品合成。 地球温暖化解決と火星移住を実現すべくCRRAで独立した研究開発を行っている。 2021年より内閣府ムーンショットアンバサダーに就任。また、同年よりポーラ化成工業(株)フロンティアリサーチセンター特別研究員、(株)Happy Quality科学技術顧問、トーセイ・アセット・アドバイザーズ(株)科学技術顧問を兼任。 代表的な発明にCO2回収装置「ひやっしー」などがある。2000年生まれ。

地球温暖化について興味がないわけではないけれど、実のところはよくわからないという人は少なくないだろう。小学生のときに二酸化炭素の研究を始め、その中で地球温暖化を止める可能性を見いだした村木風海さん。温暖化問題は悲観的になることではなく、うまくできればワクワクするような未来があると話してくれた。

小学4年生のころに読んだ本をきっかけに火星に憧れを抱き、火星移住を実現するための研究を始め、その研究のなかで偶然にも地球温暖化を止める可能性に辿り着いた村木風海さん。

現役東大生でもある村木さんは「火星に行く目的が達成されても、故郷である地球が滅びてしまったら悲しいから、まずは地球を救いたい」と、少年のようなキラキラした目で話します。今回は、あまり知られざる地球温暖化の実情と、村木さんの思い描くワクワクするような未来を教えてもらいました。

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子どもたちが大人になる頃、地球は……?

ーー地球環境は多くの問題を抱えていると思いますが、村木さんが思う30年後の地球はどうなっていますか?

村木風海さん(以下、村木さん):はい。僕が思い描く30年後の地球はものすごくワクワクする世界になっています!

※写真はイメージ(iStock.com/SmallArtFish)
※写真はイメージ(iStock.com/SmallArtFish)

30年後にはもちろん地球温暖化問題は解決しているし、人類は宇宙への進出をしていて、宇宙旅行も気軽にできるようになっています。宇宙に進出したことで地球の資源の奪い合いをすることもなくなり、世界中の人々が仲良く暮らすことができる世の中になっていることを想像しています。

ーーこんなにポジティブな話になるとは全く思っていなかったです!(笑)。

村木さん:いきなりこう言われてもなかなか信じがたいとは思いますが(笑)。詳しいことは後ほど説明しますが、これは今世界で起こっているさまざまな問題を二酸化炭素が解決してくれるからなんです。僕が思い描く未来はとても明るいです。

でも、もし今起こっているさまざまな問題を解決することなく、このままいってしまうと大変なことになります。

ーーもし我々人類がなにもしなかったら地球はどうなってしまうのでしょうか……?

村木さん:はい。まずは今の状況を説明すると、2030年までに世界中のCO2排出量を約半分に減らさないと、ドミノ倒しのように一気に気候が変動し、後戻りできない状態になるとされています。

200年前の産業革命から現在までに地球の気温は約1℃上昇してきたのですが、2030年までにCO2半減が達成できないと、2100年時点での気温上昇を1.5℃の範囲内に収めることができません。また、2050年時点では完全に二酸化炭素排出量をゼロにする必要があります。

そして、1.5℃から2℃気温が上昇した世界では、たとえばシベリアの永久凍土が溶け出し、地下に眠っている天然ガス(メタンガス)が空気中に放出されてしまうと考えられています。

メタンガスは二酸化炭素よりも28倍温暖化を起こしやすく、二酸化炭素と違って一度空気中に出てしまったら集める方法がありません。そうなってしまうと加速度的に気温上昇が進んでしまうでしょう。

著書『火星に住むつもりです ~二酸化炭素が地球を救う』(光文社)より抜粋
著書『火星に住むつもりです ~二酸化炭素が地球を救う』(光文社)より抜粋

村木さん:地球の気温が急上昇すると、異常気象が増えたり、それによって生態系が変化し食糧難につながったり。熱帯でしか流行らなかった感染症が世界中で流行ることもあり得ます……。

とはいえ、2030年の時点で目標をクリアできていなかったとしても、そういった現象につながるには時間がかかるので、その時点では物理的な被害はまだ少なくて、日本においては表面上はそれまでとなにも変わらないように見えるはずです。

でも、「今は大丈夫だけど、もうリミットを過ぎてしまったので、どうあがいても手遅れです。数十年後には確実に地球は滅びます」という状況って怖くないですか?親である自分が生きている間は大丈夫だけど、子どもたちや孫が生きる時代には大変なことになると分かっていて。でも手遅れなので、すでにできることは何もない……。

ーー怖いですね……。地球温暖化についてそこまでイメージができている人は少ないかもしれませんね。村木さんの予想では2030年までの目標は達成できそうですか?

村木さん:残念ですが、世界の国々や人々の意識が今のままだとしたら、二酸化炭素は全然減っていないと思います。工場や会社、乗り物などを全部止めたとして、やっと目標をクリアできるくらいですね。しかし、工場や会社や乗り物をずっと止め続けるなんてことはできないので、やはり抜本的な解決が必要です。

でも、安心してください。脅すようなことを言ってしまいましたが、僕らの代で地球温暖化を止める手段はありますから!

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紙ストローは本当に環境にいいの?エコってなんだろう

※写真はイメージ(iStock.com/Milan Markovic)
※写真はイメージ(iStock.com/Milan Markovic)

ーーそうなんですか?なんかとても不安になってきたのですが……。

村木さん:そうですよね。研究のことや具体的な解決策はこのあとお話しますが、なによりも大事なことは、ひとりひとりが環境問題をもっと自分事として考えられるようになることで、それができたら世界は変わると思います。

ーーうーん。このような絶望的な状況で、私たちは具体的になにができるのでしょうか?

村木さん:少し難しい言葉なのですが、ひとりひとりが『ライフサイクルアセスメント』という考え方を持ってもらえるといいなと思います。ライフサイクルアセスメントとは、「ゆりかごから墓場まで、物が作られてから捨てられるまでに出す二酸化炭素の総量を考えたり、かかるエネルギーの量を考えてみよう」ということ。

わかりやすく言い換えるなら、「これってどうやって出来てるんだっけ」「これが作られるまでにどれだけのエネルギーが消費されているのだろうか」と、なんとなく見えている面とは別の側面を考えること。

エコに興味を持って色々とやってみることはとてもいいことだけれど、たとえばプラスチックのストローは悪いと決めつけて紙のストローを使うのは、本当に地球によい影響があるのかと考えてみてほしいです。僕の専門の地球温暖化の観点でいうと、実はプラスチックを作るよりも紙を作るほうがはるかにエネルギーを消費するため、プラスチックのストローの方がエコなんです。

また、レジ袋は石油の残りカスのようなもので作っているので、レジ袋を作るのをやめたところで燃えカスは出続けます。結局、今まではレジ袋として使う用途があったのに、ただの残りカスになると、捨てるしかないですよね。なんとなく自然派に思えるものがエコかというと全く違うのです。

あとは日本に限った話ですが、エネルギーの観点でいうと、電気自動車や水素自動車よりも従来のガソリン車のほうがエコなんです。電気自動車そのものは二酸化炭素を排出しませんが、電気を作るには火力発電所で二酸化炭素を大量に出しているし、車に搭載されているリチウムイオンバッテリーを作るのにも莫大なエネルギーがかかっています。

※写真はイメージ(iStock.com/piranka)
※写真はイメージ(iStock.com/piranka)

村木さん:「エコ」という言葉って広すぎると感じていて。二酸化炭素を排出しないこと、天然のもので土に還りやすいこと、海洋ゴミを減らすこと、なんとなく地球にとってよさそうなことが「エコ」と一括りにされていることで、実態がわかりにくい。

僕らは、二酸化炭素を減らすことを「まいたん(マイナス炭素)」という言葉に置き換えていこうと提唱しています。「なんとなく環境に良さそうだからエコ」ではなくて、なにがエコなのかを理解して、多角的に考えることが大事だと伝えたいです。

僕自身も新しい技術は大好きだし取り入れるべきだと思いますが、何事も一歩立ち止まって俯瞰して見ることが、正しい行動に繋がると考えています。

ーー言われてみると「エコ」ってよく使われているけれど、定義が広すぎてぼんやりした言葉ですね。どのような観点で地球にいい影響があるのか、悪い影響があるのか、理解して使っていきたいと思いました。

『ひやっしー』があれば各家庭で二酸化炭素を回収できる!

ーー村木さんが機構長をつとめるCRRAでは日々さまざまな研究を行っているかと思いますが、具体的にどのような研究をしているのか紹介してもらえますか?先ほどお話していた「明るい未来」はどうやって作るのでしょうか?

村木さん:はい。僕らのミッションは「地球を守り、火星を拓く」こと。まずは地球温暖化を解決し、その次に宇宙への船出ができるような世の中を作っていこうと頑張っています。

まず地球を守るという文脈では、地球温暖化を止めるために空気中から二酸化炭素を回収するロボットを開発しています。

地球温暖化は、二酸化炭素排出量を減らすだけではもう止めることはできない段階にきています。そもそも二酸化炭素の排出量を大幅に減らすことは現実的にむずかしく、「出てしまったものをどうするか」がポイントです。

僕が開発した『ひやっしー』は、空気中の二酸化炭素を回収する家庭用のロボットなんです。

ーー空気中にある二酸化炭素を回収する、そんなことができるんですか!

村木さん:はい。空気中から二酸化炭素を除去する技術は、新しい分野ではありますが世界各国でも研究している人はいます。ひやっしーの場合はこのような仕組みです。


  • 空気を外から取り込む
  • 中にCO2回収カードリッジという業務用プリンターのインクカートリッジのような筒が入っていて、その中を空気が通る
  • CO2回収カートリッジの中にはアルカリ性の液体を含むフィルターが入っている。アルカリ性の液体はCO2を吸い取ってくれる性質があり、カートリッジを通る空気のうち二酸化炭素だけがフィルターに溶け込んでいく
  • 二酸化炭素が減った空気がもう一度外に出る

村木さん:初代のひやっしーは高校2年生のときに開発し国の事業に採択され、高校3年生の夏休みには祖父と21台を手作りで製造しました。そこから改良を重ね、現在は第四世代が全国の家庭、学校、クリニックやオフィスなどで活躍しています。

ーー二酸化炭素を企業や家庭といった小さい単位で回収することができるんですね。

村木さん:そうです。二酸化炭素が回収されたオフィスや部屋の中は、森林が広がっているようなイメージです。仕事中ずっと部屋にこもっていると、眠くなったり頭が痛くなったりした経験って多くの人があると思います。実はそれって二酸化炭素のせいなんです。ハーバード大学公衆衛生大学院の論文によると、二酸化炭素が原因で人の集中力は2倍、分野によっては4倍も落ちると言われています。

ーーそれは知りませんでした!ひやっしーによって部屋の空気が快適になると、我々の生産性も上がるということですね!でも、ちょっと言いにくいのですが、企業や家庭など小単位で二酸化炭素を回収することが地球にとって影響があるのかな、とも思ってしまうのですが……。

村木さん:そう思いますよね。でも僕は、この小さい単位こそがポイントだと思っています。

実は、僕の出身の山梨県の半分くらいの面積にものすごく巨大な二酸化炭素除去装置を設置すれば、世界中の二酸化炭素を打ち消すことは可能なのです。ただ、技術的にはできるのに、誰もやらない。なぜかというと、まず巨額の資金が必要だし、法律の壁や色々な人の思惑などが絡んでいて、なかなか進まないんです。とてももどかしいですよね。

このような状況を打破するためには、世界中の人ひとりひとりが未来に希望を持って、「できる、やろう!」という意識に変えることしかないと僕は思っていて。今は、温暖化の話を聞いても他人事だったり、逆に「怖い、絶望しかない、温暖化なんて嘘だ」と目を背けてしまっている人が多いですから。

でもそうではなくて、「温暖化を止める技術は既にあるし、楽しく解決することだってできる」と人々の考えを変えることができたら、そのときこそ温暖化が本当に止まるときなのかなと思っています。

※写真はイメージ(iStock.com/franckreporter)
※写真はイメージ(iStock.com/franckreporter)

村木さん:だからひやっしーは、小型分散型で二酸化炭素を回収しつつ、そのことによって人々の意識を変革し、「よし、最後は大きい装置を作って一気に二酸化炭素を回収しよう!」と心をひとつにする、きっかけのような装置だと考えています。

ーーなるほど……。地球温暖化が解決できていないのは、技術的な問題ではないんですね。ひやっしーはペット型ロボットのようでもあって、とても身近に感じられそうです!

ひやっしーで回収した二酸化炭素は、燃料を作ることもできると聞きましたが、それはどのような研究なのでしょうか?

村木さん:そらりん計画ですね。

ーーなんだかかわいい名前が多いですね(笑)!

村木さん:はい(笑)。僕らは化学が苦手な人にもわかりやすく、興味を持ってもらえるように「中身は最先端、見た目はゆるふわ」をモットーにしているので。「そらりん計画」とは、ひやっしーで回収した二酸化炭素を使い、液体燃料つまりガソリンの代わりとなるものを作り出すこと、そしてすべての乗り物の燃料をそらりんに変えるという計画です。

車や船、飛行機といった乗り物は動かすと二酸化炭素を排出するけれど、二酸化炭素から作られたそらりんを燃料に使えば、プラマイゼロになりますよね。2030年までに全ての乗り物を電気や水素で動くものへと変えるのは不可能だと思いますが、既に世の中にある乗り物は変えることなく、燃料をそらりんに変えるだけならできそうな気がしませんか。

※写真はイメージ(iStock.com/baona)
※写真はイメージ(iStock.com/baona)

ーーそうですね……!また未来が明るいものに思えてきました。

村木さん:よかったです。さらに、二酸化炭素から化石燃料を作れるということは、プラスチック製品や身の周りのほとんどのものを作ることができる、ということなのです。実は、二酸化炭素から食料を合成する方法もすでに考えていて。そうなると資源を奪い合うこともなく、争いのない世界を実現できるのではないかと考えています。

ーーありがとうございます!CRRAの研究では他にも巨大な気球を使って成層圏を旅行できる『もくもく計画』、Uberの小型飛行機版のような『スカイタクシー計画』など、ワクワクするような事業がたくさん予定されていますよね。

村木さん:そうですね!僕は2045年に人類で初めて火星に行くと決めているし、やりたいことがたくさんありすぎて時間が足りないです。僕の最大のライバルはイーロン・マスクだと思っているのですが、イーロン・マスクより30年くらい後輩なので、その差を埋めるためにも日々全力で研究に臨んでいます。

親世代の方からはよく「私たちの世代が地球をめちゃくちゃにしてごめんなさい」などと言われます。でも、少なくとも僕はそんなこと全く思ってなくて。これまでのことは、文明が発展するのに必要だったことなので、罪悪感は感じてほしくないです。あとは任せてよ!という気持ちです。

解決すべき課題がたくさんあるけど、乗り越えたらワクワクする最高の未来しかないし、この時代に生まれて良かったなと思っています。僕たちは冒険者世代として、常に前向きに挑戦し続けていきたいですね。

ーー村木さんと話していると、未来がワクワクするようなものに思えてきました……!後編では、その情熱や行動力はどこからきているのか、幼少期やご家族のお話も紹介します。

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村木 風海

村木 風海

化学者・発明家。 専門はCO2直接空気回収(DAC)、CO2からの燃料・化成品合成。 地球温暖化解決と火星移住を実現すべくCRRAで独立した研究開発を行っている。 2021年より内閣府ムーンショットアンバサダーに就任。また、同年よりポーラ化成工業(株)フロンティアリサーチセンター特別研究員、(株)Happy Quality科学技術顧問、トーセイ・アセット・アドバイザーズ(株)科学技術顧問を兼任。 代表的な発明にCO2回収装置「ひやっしー」などがある。2000年生まれ。

2023.02.15

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