妊娠・出産・育児を理由に退職。失業保険の受給資格や計算方法、手続き
妊娠や出産、育児を理由に退職した場合、失業保険を受け取ることはできるのでしょうか?今回は、失業保険の受給条件、給付期間や計算方法について詳しく解説します。実際に子育てをしながら失業保険を受け取った先輩ママたちの体験談も集めました。
失業手当を受け取れる条件
雇用保険の一般被保険者が離職した場合に受け取ることのできる失業手当は、正式には「基本手当」といいます。
そもそも失業手当とは、失業中の生活を心配せず、再び就職できるように求職活動を行えるよう、雇用保険法に基づいて給付されるお金のこと。しかし、離職した全ての人が受け取れるわけではなく、受給には条件があります。
妊娠中、あるいは出産後に退職した場合は失業手当を受け取ることはできるのでしょうか。
まずは、失業手当を受け取るための資格は、退職理由に応じて異なります。それぞれ確認してみましょう。
自己都合の退職
転職や独立など、自己都合の退職は「一般の離職」に分類されます。
<受給資格>
- 就職の意思、能力があり、求職活動を行なっている
- 離職の日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が12カ月以上ある
会社都合の退職
倒産や解雇により離職した場合は、「特定受給資格者」に該当します。
<受給資格>
離職の日以前1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して6カ月以上ある
特定の理由がある場合の退職
以下の場合は、「特定理由離職者」に分類されます。
- 期間の定めのある労働契約の期間が満了し、更新されないことにより退職した場合
- 妊娠、出産、育児のため退職し、受給期間延長措置を受けた場合
- 心身の障害、疾病、負傷など定められた理由により退職した場合
- 介護や看護など、家庭事情の急変により退職した場合
- 配偶者、扶養すべき親族と別居生活を続けることが難しくなったことにより退職した場合
- 保育所が遠い、結婚に伴う住所の変更、意思に反する移転などの理由で通勤が難しくなり退職した場合
- 人員整理等で希望退職者の募集に応じて退職した場合
<受給資格>
離職の日以前1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して6カ月以上ある
失業保険の給付期間・日数
就職先が決まるまでの間、所定給付日数を限度として、失業保険を受け取ることが可能です。
失業保険を受けられる期間は、原則として退職の翌日から1年間となり、これを過ぎると、所定給付日数の範囲内であっても失業保険を受けることができないため注意が必要です。
給付日数は、離職理由、離職時の年齢、被保険者であった期間等によって違いがあります。
自己都合退職の場合
会社都合退職の場合
特定理由離職者のうち「期間の定めのある労働契約の期間が満了し、更新されないことにより退職した場合」に該当する人は、退職日が2009年3月31日から2022年3月31日までの間にある場合に限り、所定給付日数が特定受給資格者と同様となります。
また、新型コロナウイルスの影響により、給付日数の延長に関する特例が設けられています。退職日や、退職理由により対象者が異なりますが、60日(一部30日)延長されるため、ハローワーク等で確認するとよいかもしれません。
失業保険の計算方法
雇用保険で受給できる1日当たりの金額を「基本手当日額」といいます。計算方法は以下のとおりです。
給付率は、賃金の低い人ほど高い率で給付されます。
基本手当日額の下限額は2,000円ですが、上限額は年齢区分ごとに定められており、2020年8月1日時点で次のとおりです。
29歳以下 6,845円
30~44歳 7,605円
45~59歳 8,370円
60~64歳 7,186円
雇用保険では、退職者の「賃金日額」に基づき、上記の基本手当日額が算定されていますが、賃金日額の下限は2,500円、上限は2020年3月1日時点で次のとおりです。
29歳以下 13,630円
30~44歳 15,140円
45~59歳 16,660円
60~64歳 15,890円
賃金日額は、厚生労働省の「毎月勤労統計」の平均定期給与額の増減に応じて金額が変更されています。
【シミュレーション】失業保険の受取金額
30歳、月額30万円、5年勤務した人が退職した場合を例に、失業保険で受け取ることができる金額をシミュレーションしてみましょう。
自己都合の場合は「一般の離職者」、会社都合の場合は「特定受給資格者」を指します。
失業保険の手続きの流れ
失業保険を受け取るためには、どのような手続きが必要なのでしょうか。手続きの流れを説明します。
1.必要書類の準備をする
ハローワークに行く前に、以下の書類を準備します。会社がハローワークに提出する「離職証明書」は、退職前に本人が記名押印をすることになっています。
- 雇用保険被保険者離職票-1、2
- 個人番号確認書類(マイナンバーカード、通知カード、個人番号の記載のある住民票のいずれか)
- 身元確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、官公署が発行した身分証明書などからいずれか)
- 写真(直近の正面上半身、縦3.0cm×横2.5cm) 2枚
- 印鑑
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
2.ハローワークで手続きを行う
ハローワークに必要書類を持参し、「受給資格決定」に加えて「求職の申込み」の手続きを行います。手続きは、休祝日を除いた平日の8時30分~17時15に行われます。
民間ではなく国によって運営される職業紹介事業を行うハローワーク(正式には公共職業安定所)では、受給要件を満たしていることを確認し、事実関係を調査のうえ、離職理由が判定されます。
仮に不正受給が発覚した場合には、基本手当等の相当額の返還を命ぜられるだけでなく、不正の行為により支給を受けた額の2倍相当額以下の金額の納付が命ぜられることとなります。
3.雇用保険受給者初回説明会に参加する
「雇用保険受給資格者のしおり」などを持参のうえ、雇用保険受給者初回説明会に参加します。
初回の「失業認定日」が知らされるほか、「雇用保険受給資格者証」「失業認定申告書」を受け取ります。
4.求職活動をする
失業の認定を受けるまでの間、ハローワークの窓口で相談しながら求職活動を行います。求人情報の閲覧や、知人に仕事の依頼をするだけではなく、求職活動として認められるのは以下のとおりです。
- 求人への応募
- ハローワークが行う職業相談や紹介等を受けたこと、各種講習、セミナーの受講など
- 所定の民間機構や公的機関等が実施する職業相談を受けたり、求職活動方法等を指導するセミナーの受講など
- 再就職のために各種国家試験、検定等の資格試験の受験
5.失業の認定を受ける
原則として、4週間に1度、「失業の認定」を行う必要があります。失業の認定とは、現在確かに失業しているかどうかの確認をすることです。
失業保険を受けるためには、認定を受ける期間中に、原則として2回以上(基本手当の支給に係る最初の認定日における認定対象期間中は1回)求職活動をする必要があります。
指定された日にハローワークに行き、「失業認定申告書」に求職活動の進捗等を記入し、「雇用保険受給資格者証」といっしょに提出します。
6.失業手当の受給
失業の認定を行った日から通常5営業日で、基本手当が振り込まれますが、求職申込後、7日間は基本手当は支給されない「待期期間」となります。
また、失業保険の支給には「給付制限」という制度があります。正当な理由がない自己都合による退職の場合は3カ月間が給付制限期間として受給することがきませんでしたが、2020年10月1日以降に退職した人は、自己都合による退職であっても給付制限期間が5年間のうち2回まで、2カ月に変更されました。
「妊娠・出産・育児」を理由とした失業保険の延長措置
失業保険の受給期間は、原則として1年間ですが、その間に妊娠や出産、育児等の理由により30日以上働くことができない場合は、働くことのできない日数分、受給期間を延長することが可能です。
延長できる期間は最長で3年間となっています。
代理人か郵送でも手続きをすることが可能で、基本的には早期の申請が原則となりますが、延長後の受給期間の最終日までは、申請することができます。
通常必要な書類に加えて、母子手帳などの妊娠、出産、育児していることを証明する書類が必要になります。
出産後8週間経過後に、失業保険の手続きを進めることができるようになります。
妊娠や出産、育児などによる退職者は自己都合退職とみなされますが、受給期間延長措置を受けた場合、「特定理由離職者」に分類されます。
こんなとき失業保険は受け取れる?ケースごとに解説
失業保険を受けようとするとき、受給できるかどうか不安に思うケースがあるかもしれません。ケース別に詳しく解説します。
【ケース1】受給中にパート・アルバイトで働いてもいい?
受給中にパートやアルバイトをすることはできますが、「失業認定申告書」で正確に申告する必要があります。
ただし、働いた日は失業保険の支給対象とならなかったり、収入額によって減額される場合があることを覚えておきましょう。
一週間の労働時間が20時間以上、31日以上働く見込みがある場合、雇用保険の加入条件を満たすため失業保険の対象となりません。31日未満で退職した場合、雇用契約時に「31日以上継続して働く」ことが決まっていれば失業保険の対象外ですが、決まっていなければ対象となります。
また、一日4時間以上働いた場合は、失業保険の支給が先送りとなり、後日受け取ることができますが、受給期間(原則として離職した日の翌日から1年間)を過ぎてしまうと消失してしまいます。
申告をせずにパートやアルバイトで収入を得た場合、不正受給とみなされてしまうため注意が必要です。
そのほか、待期期間中である求職後7日間は失業状態である必要があり、パートやアルバイトをすることはできません。
なお、自己都合の退職で給付制限がある場合にも、期間中にパートやアルバイトをすることは可能ですが、失業認定申告書で正確に申告しましょう。給付制限の期間中に、雇用保険の一般被保険者となる条件で働く場合は、再就職手当の支給を受けられる場合があるため、ハローワークに相談しましょう。
【ケース2】夫の扶養に入っている場合は受給できる?
扶養家族であっても受給条件を満たしていれば、失業保険を受け取ることができますが、失業保険を受けていると扶養家族から外れる場合があるようです。配偶者の加入する健康保険か勤務先に確認しましょう。
【ケース3】受給中の健康保険や年金はどうなる?
会社都合の退職である特定受給資格者や、雇い止めなどによる退職である特定理由離職者に該当する場合は、国民健康保険料の軽減措置を受けることができます。
また、失業したことにより年金保険料の納付が難しい場合は、申請すれば免除、あるいは猶予を得ることが可能です。免除される額は、全額、4分の3、半額、4分の1のいずれかとなります。
住民登録をしている市区町村の国民年金担当窓口に確認してみましょう。
早期に再就職すると受け取ることができる再就職手当
「失業保険をすべて受け取ってから再就職をした方がよいのでは?」そう考える人もいるかもしれません。しかし、早めに再就職した場合「再就職手当」を受給できる可能性があります。
再就職手当を受け取れる条件
以下の条件をすべて満たすことで再就職手当を受け取ることができます。
- 失業の認定を受けたあとの失業保険の給付日数が、所定給付日数の1/3以上ある
- 1年以上勤務することが確かである
- 待期期間を過ぎている
- 給付制限を設けられている場合、待期満了後1カ月間は、ハローワークか所定の事業者の紹介による就職先である
- 退職した会社への再雇用でない
- 就職日前3年以内の就職で、再就職手当か常用就職支度手当の支給を受けていない
- 求職申込前から内定していた会社で働くわけではない
- 雇用保険の被保険者資格がある
再就職手当の計算方法
失業保険の体験談
新たな就職先を探すまでの期間、生活を支える失業保険。子どもを持つ保護者を中心に、体験談を集めました。
子育てをしながらの求職活動だったので、マザーズハローワークに行きました。キッズスペースや授乳室などがあるうえ、相談中は保育士さんに子どもを預けることができ、子連れでも気兼ねなく求職活動をすることができました
以前働いていた会社都合で退職になり、失業保険を受給していた時期があります。受給額は多くなかったのですが、再就職先を探しながら、車の免許の取得期間に充てました
昨年はコロナウイルスの影響により、ハローワークで窓口での手続き以外に、オンラインによる手続きやFAX、郵送でも手続きをすることができました。また、病気の診断書を提出した知人は、給付制限期間なく受給することができたようです
お金がかかる子育て世代は特に、失業したら失業保険の申請をしたほうがいいと思います。失業保険だけではなかなか足りないと思いますが、支給期間内に早めに再就職先を見つけるとお祝い金(再就職手当)を受け取ることができます
失業保険を受け取った方々から、さまざまな声が聞こえてきました。マザーズハローワークなど、子育て中でも安心して求職活動を進めることができるようです。
失業保険の受給要件を確認し、求職活動を進めよう
新しい就職先を探しながら、安定した生活を送るために設けられた失業保険。妊娠や出産、育児などを理由とした退職であっても、条件を満たせば失業保険の対象となります。
しかし、自分だけなら何とかなっても、子育て中の場合は、失業保険だけで生活を支えることは難しいという声も聞こえてきました。
給付期間を残し、早めの再就職が叶った場合には、再就職手当を受け取ることもできるようです。自分に合った再就職先に出会えるとよいですね。
会社都合の退職だったので即日支給されましたが、最高日額が決まっているため、子どもを育てながら(特に世帯主)だと、蓄えがなければ生活は厳しいと思います