コミュニケーションがないと死んでしまう【脳研究者 池谷 裕二】

コミュニケーションがないと死んでしまう【脳研究者 池谷 裕二】

今回のKIDSNA Academyは、池谷氏の研究テーマである「脳の可塑性の探求」について、自らが体験する子育てを踏まえたお話を伺いました。第一回は、「乳幼児期におけるコミュニケーションの重要性」についてです。

KIDSNA Academy
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乳幼児の脳は、大人とは比べものにならない速度と複雑さがあることをご存じでしょうか。

脳の神経細胞の数は、「おぎゃー」と誕生した瞬間が一番多く、あとは減っていきます。そして3歳くらいまでの間に、7割ぐらいを排除。つまり、生きていくのに不要な神経は不良在庫なので、分解してエネルギーに変えてしまうのです。
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池谷教授
神経細胞が分裂して増殖する時期は、実は生まれる前にもうとっくに終わっちゃっているんです。だから生まれた瞬間が人生で最も神経細胞をたくさん持っていて、あとは減っていく一方なんです。

そういう話をすると多くの方が「老化で神経細胞が失われることで認知症などの高齢者特有の病気が出るんじゃないか」と思われる方が多いのですが、実はこれは全く違っていて、一番減るのが生まれた直後なんです。

そして、どんどん失われていき、落ち着くのが3歳くらいです。その3歳の時点で残った神経細胞を人は一生を使いまわすんです。

なのでそういう観点から「三つ子の魂百まで」という言葉は、科学的に正しいといえます。
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だからこそ、乳幼児の時期は神経回路の基礎がつくられる重要な期間です。

小学校にあがるまでに、親子がよく接するなど丁寧に世話をされ大切に育てられた幼児は、そうでない子に比べて海馬の回路が2倍以上よく発達し、思春期になった後も自分の感情をうまくコントロールできるようになるとの研究論文も発表されています。
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池谷教授
池谷:私が子どもが生まれたときにすごく気をつけたことは、「コミュニケーション」です。

と言っても乳児なので一方通行。こちらが話しかけても、すぐにはうんともすんとも言いませんから、外から見ればただ独り言を言っているだけにしか見えないんですけど、それでも恥ずかしがらず返答がなくてもめげずに、何度も話しかけていました。

また、今の時代はスマートフォン片手にミルクをあげたくなるのですが、ちゃんと目を見て話しかけるよう気をつけました。

もう職業病ですね。元々子どもがとても好きだったこともあり、「いつか子どもは欲しいな」と思っていたので、自分の研究とは直接関係ないのですが子どもに関する論文が出るとついつい読んでしまっていました。

子育てしたことがないくせにそういう情報だけは耳年増のように知っていました。
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話しかけることで思い出したのが、13世紀、神聖ローマ帝国のフリードリッヒ2世(1194〜1250)が行った「言語の起源」を知るための実験です。
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写真はイメージ(iStock.com/ZU_09)
皇帝は、「人は言葉を習わなくても話すようになるのか」を知るために、身寄りのない赤ちゃんを集め、侍女に育てさせる実験を行いました。
母乳やオムツや入浴などの最低限の世話を侍女は許されましたが、赤ちゃんに話しかけることは禁じられました。
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写真はイメージ(iStock.com/safran83)
この実験の結果は出ませんでした。
つまり2歳になる言葉をきちんと覚える前に、全員が死んでしまったのです。
池谷教授
池谷:フリードリッヒの実験はかなり残酷な実験です。「話しかけないで育ててみたらどうなるか」の結果、全員亡くなってしまった。

当然、現代の科学的基準から考えると、どこまで信じていいのかわからないんですけども、栄養や衛生面が足りているだけでは不充分で、コミュニケーションやスキンシップがないと、人は育たないということなのでしょう。
フリードリッヒ2世の非道な実験は半ば伝説的で、13世紀当時、どこまで厳格な条件下で研究が行われたかわかりません。しかし、その後、より信頼のおける調査が二次世界大戦中に精神科医のルネ・スピッツによって孤児院で行われました。

当時、すでに子どもの健康には栄養や衛生が重要であることは認知されていましたので、孤児院でも充分な食事と清潔な部屋が準備されました。

唯一足りないものは「コミュニケーション」です。

多くの子が集まり、慢性的な人手不足に陥って介護者たちは乳幼児一人ひとりと充分なコミュニケーションを図る余裕はありませんでした。
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写真はイメージ(iStock.com/clu)
調査の結果、91名中34名が2歳までに亡くなってしまいました。

ここで紹介したショッキングなエピソードは、人間的コミュニケーションが欠落した場合、人間の生命は育たない事実を物語っています。人間の生命を支えるコミュニケーションの意義の重大さについて、あらためて認識せざるを得ません。
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池谷教授
語りかけ育児のほかに重視していたのは「経験」です。大人になってからは本やテレビ、インターネットから得たことで知識は増えます。

勉強にもなるし、新しい学びや発見も生まれるんですけども、小さな子どもにとって仮想空間や二次元から得るものより、目で見たり匂いや聞いたりする五感を通じて得た経験こそが全ての入力になるんです。

もちろん、タブレット端末がダメということでなく、渡さないわけではありません。でも、積極的に外に連れ出す。その際、いつもと同じ場所にも行くんですが、ちょっとした小旅行気分で、違う公園にも行ってみる。
 
写真はイメージ(iStock.com/maroke)
池谷教授
いつもの公園に行けば、ここに滑り台があって、その先にブランコがあってみたいな認識が、固定されていますよね。でも違う公園に行ったらまたアレンジが違う。

滑り台の角度も長さも違ったりして、思っていた常識が崩されます。そういった経験を通じて、自分の情報の入力とその入力された情報のアップデートができる機会をたくさん与えることをとても心がけていました。
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池谷教授
今思うと恥ずかしいくらいあちこち連れてて、それを1ヶ月くらいの頃からもうやってました。
昔の感覚でいうと、「生後1ヶ月くらいの赤ちゃんを電車に乗せて連れ出すなんて」ってあると思うんですけど、割とそういう意味で早かったんじゃないかなと思います。

また、保育園にも生後3ヶ月で行っていました。

それも「仕事があって忙しいから、仕方がない」ということではなく、「そういう世界も知ってほしい」ということで入れました。

結果的には、それがいろんな吸収に繋がったんじゃないかな、と信じたいですね。
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2022年08月02日

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