遺伝子が人生に与える影響力とは【脳研究者 池谷 裕二】

遺伝子が人生に与える影響力とは【脳研究者 池谷 裕二】

2022.08.25

今回のKIDSNA Academyは、池谷氏の研究テーマである「脳の可塑性の探求」について、自らが体験する子育てを踏まえたお話を伺いました。第三回は「持って生まれた遺伝的才能と脳の役割」についてです。

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「自分に似て、算数が苦手になったらどうしよう」

「夫が体育会系だったので、運動神経は似てほしい」

子どもの将来を案じるのは親として当然のこと。

だからこそ、子どもに対して「こうあってほしい」「あんなふうに育ってほしい」と考えがちです。

 
池谷教授
池谷教授

遺伝子の問題は「氏か育ちか」、英語では「nature and nurture」て言うんですが、本当に難しいです。

例えば、身体的な遺伝的影響はあきらかにあります。

もちろん、「教育で何とかなる」というのは正しいんです。

でも、好きなだけでは克服できないこともあります。

例えば、長身有利のスポーツでは、身長の低い人はなかなかやりにくい現状があります。

また、「ママそっくりね」という言葉は、遺伝子をもらっているからですよね。

だから顔の表情や体格、背格好などの身体が遺伝子に影響を受けることは、多くの人が認めていることだと思います。

ですから、脳も身体の一部なので、遺伝子的な影響を受けます。

但し、骨格は努力で変わることはないですが、脳は努力と環境で変化をする(脳の可塑性)ので、遺伝子の有意性をとことん気にしなくていい側面があり、「こういうタイプの脳だから、こういう才能を伸ばしてあげたいね」とか、「こっちの方を生かしてあげたいね」ということは自然にあると思います。

 
池谷教授
池谷教授

ただ、よくある話に親が「私の夢がかなわなかったからこの子に是非叶えてほしい」といったことです。

ちょっと悪い言い方をすると、親にその夢を叶えるだけの遺伝子がなかったとするならば、子どもにもその遺伝子は入っていません。

だからこそ、子供に期待するのはもしかしたら負担になってしまう可能性もあります。

なのである程度、遺伝子の違いを認めないといけないことはあると思います。

 

ただ、その一方でもう一つ考えたいのはなぜ、私たちが何のために「脳」を持っているのか、ということです。

 
池谷教授
池谷教授

それは、学習をしたり適応をする臨機応変に対応するためです。

何でそういうことが言えるのかというと、例えば脳を持っていない植物で桜を例にあげると、遺伝子レベルで春が来たら花を咲かせます。

そして、秋になれば脳を持ってなくても葉を落とすという、高度なことをやってるわけですが、それは予定調和の環境です。

もし、春がこなかったらどうしますか。

自然環境というのは、予想通りにいかないことがしばしば起こるため、もしかしたら絶滅する可能性もでてくるわけです。

 
池谷教授
池谷教授

実際、そうやって絶滅してしまった動植物は過去にたくさんあるんです。

ですが、脳を持っていることで急に寒くなったり熱くなったりしても対応できるわけです。

人間は、そういう適応能力が他の動物に比べて非常に高いと言われています。

だからこそ脳を持っている一つの理由は、遺伝子だけでは難しかった適用範囲を広げようとした結果なんです。

ちょっと脳の立場で汚い言葉を使うと「遺伝子なんてクソくらえ!」と思っていて、遺伝子だけではダメなんですよ。

君らだけだと立ち行かないから、僕らはこんなに立派な脳を発達させてきたんだよっていう。その「遺伝子vs脳」という元々の対立図式があるんです。

だから、遺伝子である程度、脳の能力が決まっていることも事実ですが、脳はそもそも遺伝子でカバーできない遺伝子の凸凹を克服するために生まれてきているんです。

 
池谷教授
池谷教授

だからこそ、子どもたちは上手に劣等感を感じることもなく、すくすくと成長させてあげたいと思っています。

そして自分にとっての幸せな生き方を見つけられるように育ってくれることが重要だと思っていますし、それを信じて私は研究をやっているところがあります。

 

池谷さんは自分のお子さんの育児を通して、脳科学の知識と現実が合致しないこと。

そして子どもひとりひとりが異なり、個性的であることを実感されています。

 
池谷教授
池谷教授

子どもたちは二人とも性格はそこそこ違うんですが、「自分が小さいときはそうだったなぁ」と思うことがしばしばあります。

もちろん成長する過程で、例えば自身の嫌なところなどは直していくのですが、今の自分しか、自身には見えてないから「これが自分だと思っている」んですが、よくよく考えたらこれまで自分を修正してきているんですよね。

そういう意味で、「ああ、修正前の自分はそうだったな」ということを赤裸々に見せてくるのが子どもなんです。

例えば、自分は凝り性で、一言で言うと「オタク」なんですがいいか悪いかは別として、そういう面をうちの子どもたちは引き継いでいる気はしますね。

やはり「これは私の遺伝子」かなって思って見ていますね。

そういう意味では、遺伝的要素は子どもに対する親近感を増すと同時に良き理解者になりますね。

「わかる、わかる!その気持ち。自分もそういえばそうだった」みたいな感じです。

そこが理解でき、自分も経験している分だけ「守ってあげたいな」という気持ちは人一倍強くなりますよね。

 

私は脳の研究者という職業柄、脳のことだけはよく知ってるんです。そして、子どもの脳についても一般の方よりも知っていると思います。ですが、実際子育てしてみるとそんな知識はほとんど役に立ちません。

知っていることと実地で生かせることが違うだけでなく、現実世界は机上の空論だけではダメで私自身、子育てをしてみて「頭でっかちだったな」ということを改めて感じました。

そして、子育てって「子どもを育てるのではなくて、親の自分自身が育つ」ことだなあ、と思います。

「子育てなのか、親育てなのか」よく分からないんですけど、そういう刺激的な毎日を送ってますね。

 

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コミュニケーションがないと死んでしまう【脳研究者 池谷 裕二】

■第1回 コミュニケーションがないと死んでしまう

「やりたい!」が脳を10倍 活性化させる【脳研究者 池谷 裕二】

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2022.08.25

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