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妊娠中に風疹の予防接種はできるのか。妊婦が風疹感染した場合の胎児への影響
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田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。
ウイルスによって引き起こされる風疹は、免疫が十分にない人に対して強い感染力を持っています。妊娠時期に風疹にかかった場合、どのような影響があるか気になる人もいるのではないでしょうか。今回は、妊娠中に風疹にかかった場合の影響、風疹の予防接種後に妊娠がわかったときの対応、妊娠中の風疹の感染対策などについて解説します。
風疹の予防接種は妊娠中に受けられるのか
風疹は、風疹ウイルスによって引き起こされる急性の発疹性感染症。春先から初夏にかけて流行するといわれています。
飛沫感染で人から人へ伝播する風疹ウイルスは、風疹の免疫が十分にない人に対して、強い感染力があります。
風疹は予防接種が最も有効な予防方法とされており、厚生労働省は積極的に風疹ワクチンを接種することを推奨していますが、妊娠中に風疹の予防接種を受けられるのでしょうか。
妊娠中は風疹の予防接種を受けられない
風疹ワクチンは、ウイルスの毒性を弱めた生ワクチンです。胎児に影響を与える可能性があるため、妊娠中は風疹の予防接種を受けられません。風疹に対する免疫が十分にない場合、感染しないよう万全な対策をする必要があります。
風疹の予防接種は、妊娠していない時期に2回受けることが推奨されています。なぜ2回受けるかというと、1回の接種では免疫が付かない場合もあるからです。
予防接種の効果は、1回接種で約95%、2回接種で約99%です。予防接種を受けたことがあれば、免疫を持っている可能性が高く、風疹にかかる可能性は低いと言えるでしょう。
風疹ワクチンを接種する際は、あらかじめ1カ月間避妊してから接種した後、2カ月間避妊する必要があります。これは、妊娠した際に胎児への影響を最小限に抑えるためです。
また、妊娠中の方は、自身の健康や将来の胎児を守るため、風疹を自分から周囲の人やその胎児に感染させてしまわないように、出産後に早期の段階で予防接種を受けることが推奨されています。
出典:風疹Q&A(2018年1月30日改訂)/NIID 国立感染症研究所
抗体検査で風疹に対する免疫がわかる
風疹の予防接種の必要性は、抗体検査を受けることでわかります。厚生労働省の資料によると、20~40代の女性の14%が、風疹に対する十分な免疫を持っていないそうです。
多くの自治体で、主に妊娠を希望する女性を対象に、抗体検査を無料で実施しており、抗体検査は、血液検査で調べられます。
検査方法は、HI法とEIA法があります。HI法では抗体価が16倍以下、EIA法ではEIA価8.0未満または国際単位①30IU/mL未満、国際単位②45IU/mL未満の場合、風疹の既往歴や風疹ワクチンの接種歴があっても免疫が不十分で風疹にかかる可能性があります。
※EIA価はデンカ生研社製、国際単位①(IU/mL)はシーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社、極東製薬工業株式会社風疹IgG測定キットを使用した場合の判定基準
※国際単位②(IU/mL)はシスメックス・ビオメリュー株式会社、ベックマン・コールター株式会社製の風疹IgG測定キットを使用した場合の判定基準
しかしながら、妊婦健診の抗体検査で十分な風疹の免疫がないことがわかっても、妊娠中は予防接種を受けられません。検査の結果、風疹に対する十分な免疫がなかった場合、感染しないように注意して過ごす必要があります。
同居の家族に、風疹の2回の予防接種歴や抗体検査などによって確認された風疹の確実な罹患歴がない場合、その方から感染してしまう可能性も。妊婦や胎児を守るためにも、家族はなるべく早く予防接種を受けることが大切です。
出典:風しんについて/厚生労働省
出典:予防接種が推奨される風しん抗体価について/厚生労働省
風疹の予防接種後に妊娠がわかった場合
厚生労働省の資料によると、世界的に見ても、これまでにワクチンによる先天性風疹症候群の発生報告はないそうです。風疹ワクチンを接種した後に妊娠がわかった場合、胎児への影響の可能性は否定できませんが、人工妊娠中絶等を考慮する必要はないと考えられています。
万が一、風疹の予防接種を受けた後に妊娠がわかり、不安を感じるときは、かかりつけの産婦人科で相談しましょう。
また、厚生労働省では感染症・予防接種相談窓口を開設しています。風疹に限らず、その他のワクチンや予防接種、性感染症、その他感染症全般について相談することができます。
出典:妊娠中に風疹含有ワクチン(麻しん風しん混合ワクチン、風しんワクチン)を誤って接種した場合の対応について/厚生労働省
出典:相談窓口/厚生労働省
妊娠中の風疹感染と胎児への影響
妊娠中や、妊娠初期(20週以前)の女性が風疹にかかると、胎児へのリスクも懸念されます。
先天性風疹症候群のリスク
風疹に対する免疫が十分にない人が妊娠初期(20週以前)に風疹にかかった場合、胎児が風疹ウイルスに感染し、難聴・白内障・先天性心疾患を特徴とする先天性風疹症候群を持って生まれてくることがあります。
先天異常以外にも、低出生体重、血小板減少性紫斑病、溶血性貧血、黄疸、間質性肺炎、髄膜炎・脳炎などが新生児期に出現する症状として挙げられています。また、進行性風疹全脳炎、糖尿病、精神運動発達遅滞などが見られる場合もあるようです。
先天性風疹症候群がおこる可能性は、風疹にかかった時期によって異なります。妊娠1カ月でかかった場合は50%以上、妊娠2カ月の場合は35%などとされ、妊娠初期に感染するほど障がいを持って生まれてくる可能性が高いとされているため、厚生労働省は注意を呼びかけています。
風疹の症状や受診の目安
風疹の症状は、無症状から重篤な合併症の併発まで幅広く現れます。一般的には、感染して14〜21日(平均16〜18 日)の潜伏期間の後、発熱や発疹、関節痛などを発症します。
多くの場合、発疹は淡紅色で小さく、皮膚面よりやや隆起しており、全身に広がるにはさらに数日間を要することがあるようです。また、発疹の出現する数日前よりリンパ節が腫れはじめ、3〜6週間ほど続くとされています。
特に成人の場合、発熱や発疹の期間が長く、まれに脳炎や血小板減少性紫斑病などを併発して子どもより重症化するケースも。
風疹は風邪と似たような症状が現れることもあり、自分で判断するのは難しい場合もあるため、風疹を疑う症状が出たら早めに病院を受診しましょう。
風疹ウイルスへの感染対策も重要
風疹は、風疹に対する免疫が十分にない妊娠20週頃までの妊婦がかかると、難聴・白内障・先天性心疾患を特徴とする先天性風疹症候群の子どもが生まれてくる可能性が高くなります。
風疹は、予防接種が最も有効な予防方法とされているため、希望する場合は妊娠前に必ず受けましょう。
既に妊娠していて風疹の免疫が十分にない場合は同居家族を含め、感染予防をして過ごすことが大切です。
不要不急の外出や、風疹にかかっている可能性のある人との接触を避けて過ごす他、やむを得ず外出をする際は、可能な限り人混みを避けるようにすることで感染対策ができます。
お腹の胎児や自分の健康を守るためにも、しっかり感染対策をしましょう。
監修:杉山 太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)
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杉山太朗
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。