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「加藤レディスクリニック」が実践、自然に近い形での妊娠を目指す体外受精の方法とは?<前編>
これまで5万人を超える赤ちゃんを誕生させてきた「加藤レディスクリニック」。開院後30年間、不妊治療を牽引する存在として独自の治療方法などを確立してきました。今回は、体外受精における治療方法別の違いや、効果的な不妊治療を提供するための取り組みなど、常勤医師の竹島和美先生に聞きました。
「自然・低刺激周期」で自然に近い形での妊娠を目指す
「加藤レディスクリニック」は、年間約18万人、1日に約500人の患者が訪れる不妊治療専門のクリニックです。不妊治療のなかでも体外受精を専門としており、2022年の採卵件数(周期数)は2万件を超え、毎日約50~60件もの採卵を行っています。
今回お話を伺うのは、産婦人科から生殖医療、不妊治療とさまざまなクリニックでキャリアを積み、現在「加藤レディスクリニック」にて常勤医師として務める竹島和美先生です。
竹島先生
体外受精では、多量の排卵誘発剤を投与する「高刺激周期」という方法が採用されることがあります。「高刺激周期」では、多くの卵子を育てることができる一方で、リスクがあると竹島先生はいいます。
竹島先生
排卵誘発剤を多量に投与するような「高刺激周期」の治療方法の場合、基本的に1回の採卵で多数の卵子獲得を目指して刺激を行います。
通常、体の中で起こる排卵は毎月1個です。自然な状態が1個であるのに対して「高刺激周期」の場合は、時に20個も30個も卵子が育つため、卵巣が腫れてしまうことがあります。
卵巣が腫れている状態だと採卵も痛くて大変なのですが、採卵後から次の月経がくるまでの間、卵巣が腫れ続けるのでお腹が張ってしまったり、次の周期まで腫れが残っている場合は、続けて採卵ができなかったりすることもあります。症状が悪化した場合は「卵巣過剰刺激症候群」になってしまい、入院が必要になることもあります。
排卵誘発剤の多量使用は体への負担が大きいため、「加藤レディスクリニック」では排卵誘発剤の使用を最低限に、体本来のホルモンの働きを大切にした「自然・低刺激周期」の体外受精を採用しています。
「自然・低刺激周期」では、できるだけ自然に近い状態で育った卵子を、ベストなタイミングで採卵します。
排卵誘発剤のなかでも比較的におだやかな効き目の「クロミフェンクエン酸塩(クロミフェン製剤)」や「レトロゾール」などの内服薬を使用して、卵巣になるべく負担がかからない数の卵子を育てていきます。
竹島先生
採卵時には卵巣に針を刺して卵子を採るのですが、当院ではより痛みを軽減するために、一般的な採卵針よりもさらに細い針をオリジナルで開発しました。加えて「自然・低刺激周期」で卵子の数が少ないため、採卵針を刺す回数もおのずと少なくなります。
このような痛みを感じにくい採卵方法により、当院では麻酔を使用しません。
麻酔もまた、目覚めたあとにフラフラしたり不快感を覚えたりするなど、体への負担が大きいのです。
「自然・低刺激周期」での治療は、体だけでなく心の負担の軽減にもつながるといいます。
竹島先生
不妊治療では、通院回数が多かったり急に病院に行かなければいけなかったりと、とにかくスケジュール調整が難しい。また、年齢など個人差もありますが、必ずしも1回の治療で結果が出るわけではないので、妊娠が叶わなかった場合は最初からまた治療を行うことになります。
仕事や子育てとの両立、長期間におよぶ治療から体だけでなく心も疲弊してしまうのも、不妊治療の大きな課題であると考えています。
その点、「自然・低刺激周期」では、排卵誘発剤の注射による投与が少ないため通院回数を最小限にとどめることができるといいます。
竹島先生
注射の場合も患者さん自身で注射をする「自己注射」を取り入れるなど、ベストな状況で採卵することは大前提のもと、可能な限り通院回数を減らすことで、患者さんがなるべくストレスを感じることなく治療を進められるよう工夫しています。
採卵のベストタイミングを逃さない診療体制
「自然・低刺激周期」では、強力な排卵誘発剤によって排卵をコントロールしないため、排卵のタイミングの見極めが難しいのだそう。
そのため、いつでも採卵ができるように「加藤レディスクリニック」は土日祝日、お盆、年末年始も含め365日開院しています。なかには、初めて受診した日が排卵日にあたれば採卵することもあるのだとか。
ベストなタイミングでの採卵を実現する診療体制について伺いました。
竹島先生
当院では20名以上の医師が常勤していますが、あえて主治医制にはしていません。主治医制の場合、主治医が休みの日は採卵できず採卵日を調整するなど、治療を妥協せざるを得ないことがあるためです。
交代制であることによって不安を感じたり、主治医制をご希望される患者さんの声もあります。
当院では、診察・採卵・胚移植、全てにおいてどの医師であっても一定の高い技術をもって治療ができるようシステム化しています。
もちろん、治療方針については、患者さんのお話を聞いたり検査結果をもとにしたりしながら、各医師が決めていきます。そのうえで、医師ごとに診療内容にブレがないよう、治療方針の根幹についての教育も徹底しています。
また、「加藤レディスクリニック」では、約60名もの胚培養士が在籍しています。妊娠するまでの過程における、「卵子と精子を受精させ育てる」という重要な役割を担うのが胚培養士です。
竹島先生
採卵では医師が採取した卵胞液から、胚培養士が卵子を探してシャーレに移し培養します。その後受精させる流れとなりますが、この一連の流れで大体5~6時間ほどの時間がかかります。そのため、胚培養士の勤務時間を加味すると採卵は通常、午前中に行うことが多いです。
一方、当院では胚培養士が多く在籍しているため、早番・遅番と勤務時間を調整できるので、患者さんの状態に合わせて採卵時間を決定しています。
排卵のタイミングが難しい「自然・低刺激周期」で妊娠成績を出すためには、いつでも採卵できる体制が非常に重要です。
不妊治療では、胚培養士の技術が施設全体の妊娠成績に大きく影響するといわれています。
「加藤レディスクリニック」の胚培養士のうち3分の2は、顕微授精までの技術を習得しています。カリキュラムも徹底しており、受精を担当するのは基本的にキャリア4年目以降の胚培養士なのだそう。経験豊富な胚培養士も多く、さまざまな症例に対して柔軟に対応しています。
妊娠率を上げる「タイムラプスインキュベーター」
「加藤レディスクリニック」の2021年の妊娠数は4647件。そのうち3513人もの赤ちゃんが出産まで至っています。
年齢を重ねるにつれ、1周期ごとが貴重なチャンスとなってくる不妊治療。「加藤レディスクリニック」では、心と体にやさしい不妊治療を提供するだけでなく、できるだけ回り道せず短期間で妊娠することを目指しています。
妊娠率の向上につながっているのが、先進医療である「タイムラプスインキュベーター」。「加藤レディスクリニック」と「ヴィトロライフ株式会社」が共同開発した培養器です。
体外受精では受精卵を「インキュベーター」と呼ばれる培養器で育てていきます。「インキュベーター」の内部では、温度や酸素、二酸化炭素など常に一定に整えることにより、子宮の中と同じような環境をつくり出しています。
竹島先生
従来の「インキュベーター」の場合、受精卵の発育を確認するために機械から外に出して観察することが必要でした。その際に外の光に曝露されたり温度が変化してしまったりと、受精卵の成長に影響を及ぼす可能性がありました。
一方「タイムラプスインキュベーター」は、培養器の中にカメラがついており、6分おきに受精卵の様子を撮影します。そのため受精卵を出し入れせずに済むので、環境を一定に保ったまま観察することができ、受精卵への負担が大きく軽減されました。
「タイムラプスインキュベーター」では、受精卵へのストレスを最小限に抑えて培養することができるため、従来の「インキュベーター」と比べ、胚盤胞(受精卵)の発生率や妊娠率の向上などが確認されています。
加えて、「タイムラプスインキュベーター」の開発により、従来の「インキュベーター」では見ることができなかった受精卵の成長過程を観察できるようになったことから、より移植に適した妊娠の確率が高い受精卵を選別できるようになったといいます。
竹島先生
「タイムラプスインキュベーター」では、6分おきの様子を連続写真のように確認することができるので、受精卵の成長過程をかなりしっかりと把握することができます。
受精卵は通常1つから2つ、2つから4つに分割していき、最終的に胚盤胞の状態に成長します。ところが、なかには通常の分割と異なる成長過程を経る胚もあります。そういった胚は胚盤胞発生能力が低いことがタイムラプスの技術によりわかってきています。
「加藤レディスクリニック」では、1人目の不妊治療を受けた方が、2人目や3人目の妊娠を目指して再度クリニックを訪れる方も多いのだそうです。
後編では、2人目、3人目不妊の現状や、患者の通院時のストレスを軽減するために「加藤レディスクリニック」が取り入れている工夫をお伺いします。
不妊治療の“最後の砦”と言われているのが体外受精です。体外受精では、女性の体の中から採卵した卵子と男性から採精した精子を体の外で受精させ、受精卵が赤ちゃんのもととなる「胚」に成長するまで見届けたのち、女性の子宮の中に戻していきます。
当院は、体外受精専門のクリニックであることから、タイミング法や人工授精、他院での体外受精で妊娠が叶わなかった場合など、長く不妊治療を行ったのちに訪れる患者さんが多いのも特徴の一つです。