こちらの記事も読まれています
保険適用は当たり前?海外の不妊治療への経済支援、年齢や回数の制限は
治療ステップによっては高額な医療費がかかる不妊治療。現在日本では人工授精以降の治療ステップは自己負担だが、2022年春をめどに保険適用の範囲を拡大する動きがある。実現すれば、経済的な理由で不妊治療をあきらめていた方たちにとって一つの転機になるが、海外では不妊治療の多くをすでに保険適用としている国も少なくない。いくつかの国を挙げ、不妊治療の経済的支援の事例をみていく。
日本と海外の出生数を比べると…?
厚生労働省が2021年6月4日に発表した人口動態統計によると、2020年に生まれた子どもの数は、84万832人と過去最少。2021年はさらなる減少が見込まれ、戦後初めて80万人を割り込む可能性もある。
新型コロナウイルスによる影響も大きいが、第2次ベビーブーム以降、日本の出生数は減少の一途をたどっている。
子どもの数が減る一方で、妊娠を望んで不妊治療を受ける人も少なくない。2017年には全国で約56,000人の新生児が体外受精によって誕生している。
不妊治療を受ける人は増加しているものの、治療は基本的に自費診療となるため、高額な費用をまかなえず、あきらめる夫婦も多いのが現状だ。
現時点では、下記のように分けられている。
保険適用内
●排卵誘発剤などの薬物療法
●卵管疎通障害に対する卵管通気法、卵管形成術
●精管機能障保険適用内害に対する精管形成術
保険適用外
●人工授精(注入器を用いて精液を直接子宮腔に注入し、妊娠を図る方法)
●特定不妊治療と呼ばれる体外受精や顕微授精
こうした流れを受け、菅義偉首相は、内閣発足当初より不妊保険適用拡大を政策の目玉としており、2022年4月の実現を目指している。
日本では、不妊治療の金銭面でのハードルを下げることで少子化に歯止めをかけようと試みる動きがあるが、海外はどうだろうか。
こちらのデータによると、欧米各国も調査開始の1950年と比較して合計特殊出生率が軒並み減少していることがわかる。
では、不妊治療に対する各国の経済的支援はどのようになっているのだろうか。
世界各国の不妊治療に対する経済的支援
日本と比較して、どの面からみても優遇されている国があるというよりは、どこにもよい面と悪い面が見受けられる。助成金上限、年齢や回数など、どの国もいずれかの項目で制限が設けられている。
上の表にあげた国に関して、野村総合研究所作成「諸外国における不妊治療に対する経済的支援等に関する調査研究最終報告書」(令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業費補助金)のデータを参照し、それぞれが敷いている制度の特徴をまとめた。
ヨーロッパ随一の生殖補助医療先進国・スウェーデン
福祉大国として知られるスウェーデンは、不妊治療の経済的支援でも一歩先を行く。
まず、不妊検査や精液採取、人工授精、体外受精のすべてが保険適用内で行える。
年齢や回数制限、女性のBMI基準値などの条件はあるが、独身女性や同性カップルも助成の対象である。
また、受精卵、卵子及び卵巣/精巣組織の凍結保存費用に関する保険適用も手厚い。
ガン治療前などの妊孕性温存を目的とした医学的な理由だけではなく、社会的な理由も認められていて、たとえば20代のうちに卵子を凍結しておくことも経済的支援の対象となる。保険適用で凍結保存した受精卵は5年の保管が可能。
課題として挙げられているのは、不妊治療へのアクセスの地域差や不妊治療を受けるための待機期間が長いこと、年齢制限が厳しいこと、治療にあたってのカウンセリングがないことなど。
先進国のなかでも合計特殊出生率の高い国・フランス
2018年の合計特殊出生率は1.88%と、先進国のなかでは高い数値を示すフランス。
不妊治療に関しては、法律婚、事実婚を問わず、異性カップルであれば助成の対象となる。
人工授精、体外受精、顕微授精に関しては助成額に上限はなく全額補助されるが、女性には43歳未満という年齢制限が設けられている。また、治療の前段階となる不妊検査の補助は全額ではなく70%。
なお、現時点では、同性カップルや独身女性は生殖補助医療を受けることができない。マクロン大統領が選挙キャンペーン中に保険適用の対象拡大を公約に掲げ、2019年に草案が提出されているが、いまだ上院での承認はおりていない。
そのほかにフランスで課題とされているのは、卵子提供を受けるまでに2年~5年ほどの時間がかかることで、そのために海外へ渡航する人もいる。
幅広い治療が可能な国・オーストラリア
オーストラリアは、排卵誘発以外の保険適用は金額の一部に制限されるものの、受けられる生殖補助医療の選択肢は多い。
「医学的に不妊」と診断されれば、年齢や所得、法律婚/事実婚、異姓婚/同性婚を問わず助成対象となり、回数も無制限である。
ただし、40歳以上の女性の不妊治療の成功率が低いため、年齢制限を設けない現行の制度が疑問視され始めている。
なお、オーストラリア・ビクトリア州の法律では、第三者からの精子・卵子提供、商業目的以外の代理出産、死後生殖(精子や卵子の提供者が死亡した後、保存されていた精子や卵子を用いて人工授精を行うこと)なども認められている。
国民皆保険制度のない国・アメリカ
アメリカはまず、保険制度のあり方自体が日本とは大きく異なる。
国民皆保険制度がなく、代わりに高齢者、障碍者、低所得者向けに作られた公的保険があるが、それに該当しない場合は勤務先の団体医療保険に加入することが一般的。
州によってもさまざまなちがいがあるが、ここではニューヨーク州を例に挙げたい。
ニューヨークにおける不妊治療への経済的支援は、メディケイド(低所得者向けの公的医療保険)、民間保険、そして州の不妊治療助成プログラムによってカバーされている。
メディケイドでは、不妊の条件を満たす場合には、不妊症の診察、診断、排卵誘発剤が助成対象だが、人工授精、体外受精、凍結保存などは対象外となる。
一方、州の不妊治療助成プログラムでは、メディケイドがカバーしていない治療も対象となる。具体的には、薬剤、顕微授精など体外受精に関する一般的な治療を指す。しかし、ドナー卵子提供、卵子凍結、精子保存、排卵誘発、人工授精などは対象外。
なお、助成される費用は世帯年収によって変動し、治療費の2.5%~97.5%と幅広く設定されている。
民間の保険会社の経済的支援も存在し、2020年からは不妊症と医学的に判断された患者の体外受精を最大3周期まで保険でカバーすることが義務付けられた。
国によってメリット・デメリットはさまざま
不妊治療における各国の経済的支援をみてきた。すべてにおいて問題のない国というものはなく、それぞれにあらゆる事情を抱えていることがわかった。
不妊治療に関しては、経済的支援以外にも、配偶者との意識のすりあわせ、職場でのサポートなど、検討すべきさまざまな点がある。
そこで次回からは、実際にそれぞれの国で生活した経験を持つ専門家や産婦人科医の方々に、各国の不妊治療にまつわる現状を伺う。
<執筆>KIDSNA編集部
忙しい合間にもサクサク読める!
▼KIDSNAアプリをDL!▼
2021.06.25