テレビがよく使う"医学的根拠"にダマされてはいけない…「笑うと免疫力アップ」に免疫学者がモヤモヤする理由
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「笑いの効用」は、しばしば医学的根拠をもって語られる。免疫に詳しい大阪大学の宮坂昌之名誉教授は「もちろん、笑うことはいいことだ。ストレス解消という意味では、免疫にとってもプラスだろう。しかし、しばしばメディアで引用される“医学的根拠”は疑わしいと言わざるを得ない」という――。 ※本稿は、『あなたの健康は免疫でできている』(集英社インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。
「笑えば笑うほど免疫力が上がる」わけではない
テレビや週刊誌ではしばしば「笑ったら免疫力がアップする」と報じられています。
確かに、笑うとストレス解消につながるので、ストレスホルモンの分泌が減り、一度下がった免疫力の回復に役立つことは理屈にかなっているように思えます。
でも、前回の記事で述べた食べ物やサプリメントの話と同じですが、笑えば笑うほど免疫力が上がるというわけではなく、笑うとストレスが和らぐためにストレスホルモンの血中濃度が下がり、結果として免疫系の働きを阻害するものが無くなり、免疫系が働きやすくなる、あるいは一度下がった免疫力が復元しやすくなる、ということのほうが考えやすいと思います。
では、このような場合、どうやって免疫力を測定しているのでしょうか。
文献を見ると、多くの場合、血液中のナチュラルキラー(NK)細胞の数や活性を測って結論を下しています。
そもそも「NK細胞」で免疫力は測定できるのか
NK細胞は自然免疫系に属する細胞で、がん細胞やウイルス感染細胞などを見つけ出して殺す能力を生まれつき持つ細胞です。リンパ球の仲間です。
NK細胞の特徴➀自然免疫の力の「一部」でしかない
ストレスによってその数が減ることから、しばしば、からだの免疫力をそのまま反映する細胞であると理解されているのですが、実際は自然免疫の力の一部だけしか反映していません。
NK細胞だけを調べるのは、免疫系という機械全体の中の部品ひとつの機能を見ているようなものです。調べるのが簡単ということもあるのでしょう。テレビなどではしょっちゅうNK細胞活性をもとに免疫が上がったとか下がったとか言っています。