優秀な人材とは「仕事が一番早い人」ではない…トヨタ現役社員が「体に染みついている」と語ったふたつのルール
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トヨタ自動車には、15歳以上の企業内教育を行う「トヨタ工業学園」がある。3年間の高等部があるほか、1年間の専門部では18歳以上の学生がより専門性の高い技能を学ぶ。専門部出身のトヨタ社員はどのような仕事をしているのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんによる連載「トヨタの人づくり」。第8回は「自動運転開発の最前線」――。
「プリウスブーム」期に入社
天津健太郎は専門部出身の濱田幸作より2年下だ。2000年に学園に入り、翌年、トヨタに入社している。出身は岡崎工業高校である。
天津は「プリウスが売れて、話題になっていた時代です」と言った。
「プリウスとヴィッツ、プラッツの時代で、今も忘れないのが、プリウスの開発者だった内山田(竹志)さんが少年漫画になったんですよ。マンガの内山田さん、超かっこよく描いてあったのを覚えてます。プリウスが出た頃、プリウスはすばらしい車で、ハイブリッド技術はどこの企業も真似できないって言われていました。
ただし、回生ブレーキは不評だった。回生ブレーキはエンジン車にはない機能だったから、ブレーキを踏んだ時に普通のエンジン車とは違う抵抗を感じるんですよ。減速した時に運動エネルギーを電気エネルギーに換えて駆動用バッテリーに戻して再利用できる。それが回生ブレーキです。プリウス以前にはなかったことでした。だから、慣れていないユーザーには使い心地がよくなかったのでしょう」
学園で学んだことは知識や知恵でなく…
彼は自動運転、先進安全を企画する部にいる。自動運転の開発担当だ。主にやっているのが東京オリンピックの選手村で走っていた自動運転の小型バス「eパレット」である。天津は2025年に入居が始まる裾野市のウーブンシティでeパレットを走らせるための実験、走行、開発を行っている。
濱田が生産現場の最先端技術を追求していたのに対して、天津は自動運転というモビリティの最先端技術そのものを実験、研究している。
天津が学園の専門部に進学したのは工業高校の電気科でロボットの整備担当、メカニックをやったからだ。操作するよりも物を直す仕事をしたいと思い、トヨタの保全に入るつもりで専門部を選んだ。ところが、実際に配属されたのは7割が進むという保全関係ではなく、技術部だった。また、彼の父親はアイシンで働いていたから、アイシン高等学園に入ることもできた。
だが、「それじゃ親父に一生、頭が上がらなくなる」と思って学園の専門部に進んだ。高校を卒業した18歳でそういう考えを持った。すでに立派な大人だった。
天津が学園で学んだことは知識や知恵でなく、人をサポートすることだったという。
「専門部では1週間ごとに学科と実技があります。黒板に向かって勉強する1週間と現場に出て組み立てたり加工したり溶接したりする実習があります」