「テストの点数でご褒美」「本1冊読破でご褒美」学力を上げるのは?…慶大教授の「科学的に正しい子育て」
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親がどのようにアプローチすれば、子供の学力は上がるのか。慶應義塾大学教授で教育経済学者の中室牧子さんが、科学的な根拠に基づいてアドバイスする――。(前編/全2回) ※本稿は、『プレジデントFamily2025冬号』の一部を再編集したものです。
Q 正しい「褒め方」は? >>「努力」を褒めて
このところ、「褒め育て」とでもいうような、子供を褒めることを奨励する教育論が花盛りです。では、褒めることが本当に子供の学力を上げるのでしょうか。
結論から言ってしまうと、褒め方によります。つまり下手に褒めてしまうと効果がなかったり、かえって子供のやる気を失わせてしまったりすることもあるのです。
コロンビア大学のクラウディア・ミューラー教授は、どんな褒め方が子供の成績を上げるのかを調査しました。
公立小学校の児童を対象にIQテストを受けさせて、その結果について、片方のグループは「あなたは頭がいいのね」などと生まれつきの能力を褒め、もう一方は「あなたはよくがんばったわね」と努力したことを褒めたのです。
その後、同じ子供たちに、さきほどよりもかなり難しめのテストを、そして最初に受けたのと同程度のテストを受けさせました。
結果、3回目に受けた、最初と同程度のテストで成績が伸びたのは、努力を褒めた子供たちだったのです。一方で、能力を褒められた子供たちは成績を落としてしまいました。
褒め方の違いによって、それぞれの子供たちには、成績だけではなく、テストへの取り組み方にも違いが表れました。
能力を褒められた子は、2回目の難しいテストでいい点が取れなかったときは、成績についてウソをつく傾向がみられました。さらに、成績が良かったときは「自分には才能があるからだ」と考え、成績が悪かったときは「自分には才能がないからだ」と考える傾向がありました。
つまり、生まれつきの能力のせいだと考えて努力をしなくなってしまった。だから、最終的な成績が落ちてしまったのだと考えられるのです。
対照的に、努力を褒められた子たちは、2回目の難しいテストに向き合っても、粘り強く解こうと挑戦する傾向がみられました。また悪い成績を取ったときには「努力が足りないせいだ」と考え、さらに努力をした結果、成績を伸ばすことができたのです。
このような「成果は生まれつきの能力によるのではなく、努力によって変えられる」という思考を「成長マインドセット」といい、学力や将来の収入につながる資質として注目されています。
英エセックス大学のスール・アラン教授は、研究プロジェクトに意欲的なトルコの公立小学校で介入調査を行いました。
介入した学校では研修をしたことで、教師たちが、生徒たちの結果だけではなく「努力」を褒めるようになりました。たとえば、毎日宿題をきちんと提出したことや授業中に良い質問をしたことなどを褒めたのです。
結果、児童たちは、「やり抜く力」が高まったことがわかりました。やり抜く力とは、ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授が、成功の要因として大事なのは、才能よりも「困難があっても粘り強く努力を継続する力」と定義したものでGRITと呼んで有名となりました。やり抜く力を伸ばすためには、成長マインドセットが欠かせません。
アラン教授の実験で、努力を褒められた子供たちは、行動も変化しました。難しい計算問題を出されると、たとえ答えを間違えても、再び挑戦するようになったのです。
さらに、成長マインドセットを身につけた効果は長期間続くこともわかりました。介入の2年半後に追跡調査をしたところ、介入群の生徒は数学の学力テストの偏差値で2近くも高かったのです。
親が子供を褒めるときは、テストの点数や成績が気になるものかもしれません。ただ、学力を上げたいのなら、普段子供たちがやっている宿題や学校でのがんばりといった努力を褒めてやるほうが理にかなっているのです。