読み聞かせは新生児のうちから?考える力や伝える力を育む読書のメソッドとは

読み聞かせは新生児のうちから?考える力や伝える力を育む読書のメソッドとは

2023.05.11

Profile

加藤 映子

加藤 映子

大阪女学院大学短期大学学長/大阪女学院大学国際英語学部教授/Ed.D(教育学博士)

大阪女学院大学・短期大学学長/大阪女学院大学国際・英語学部教授。Ed.D(教育学博士) 大阪女学院短期大学卒業後、国際社会団体勤務を経て、ボストン大学に進学。ハーバード大学教育学大学院で教育学博士号を取得。同大学で「ダイアロジック・リーディング」に出合い、研究を重ねる。1998~2001年、フルブライト奨学生。専門分野は「言語習得」と「最新テクノロジーを活用する教育」。 現在は、「子どもとことば」「絵本を通してのことばの発達」を研究課題としており、絵本の読み聞かせにおける母子のやりとりや読み書き能力の発達に関する親の意識調査などを行う。一方で、教員を対象とした「子どものことばを育てる読み聞かせ」ワークショップも行うなど、日本における「ダイアロジック・リーディング」の第一人者として普及活動に尽力している。  季刊絵本新聞『絵本とことば』(H・U・N企画)への寄稿や、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)に過去3回出演するなど、メディア出演多数。

予測不能な時代を生き抜くために必要な「〇〇力」。前回は、英語が重要視される時代に本当に国語力が必要なのかどうか。また、クリエイティブな活動を通して国語力を育てる方法について教えてもらいました。今回のテーマは国語力を育むための絵本の読み聞かせ。質の高い読書ができるようになる方法や、おすすめの絵本を教えてもらいました。

前編ではクリエイティブな活動によって、国語力の大切な要素「考える力」「伝える力」を引き出す方法について教えてもらいました。今回は、絵本の読み聞かせによって国語力を育てる方法と、加藤先生のおすすめの絵本を紹介していただきます。

たくさん読めばいいわけではない。国語力につながる読書とは

ーー今回は、本を通して国語力を育てる具体的な方法を教えてください。

加藤先生:皆さん想像通りかもしれませんが、国語力を鍛えるうえで本を読むことは何よりも大切です。ただ実は、たくさんの本をひたすら読めばいいわけではない、というデータがあります。

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加藤先生:ある調査によると、読書量と読解力は比例しないことが明らかになっています。つまり、本をたくさん読んでいるからといって読解力が高まるという保証はないのです。

ーーそれは意外ですね。本をたくさん読めば読むほどいいのかと思っていました。

加藤先生:読解力に必要なのは、文字を追いかけながら並行して考える力です。では、どうしたらよいのかというと、読書の「質」を高めることです。そのために、私が長年研究しているダイアロジック・リーディングの手法を紹介したいと思います。

ダイアロジック・リーディングとは、アメリカの研究者が提唱している「子どもと対話をしながら行う絵本の読み聞かせ」のことです。

日本の親子の読み聞かせは、大人が文章をひたすら読み、子どもは静かに聞いているのが一般的ですよね。それに対してダイアロジック・リーディングを実践しているアメリカの読み聞かせは、絵本を読んでいる間に会話のやりとりが頻繁に行われています。

このダイアロジック・リーディングによって読書の質を高め、読解力を始めとして、考える力や伝える力も育てていくことができます。

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ーー我が家では、読み聞かせ中に会話のやりとりをしたことは全くありません。何を話したらよいのでしょうか?

加藤先生:やってみたら慣れてきますが、まずは以下の7つのポイントを参考にしてみてください。


①「何質問のやりとり」

「何」「どこ」「いつ」「なぜ」「どのように」などの質問を使ったやりとりです。「これは何色?」「これは誰のものかな?」など、5W1Hを問うような質問を、絵本の絵や話の展開に注目して行ってみましょう。


②「何質問」に対する子どもの答えの拡張

「何質問」で子どもが答えたものに対し、より具体的な質問をします。たとえば、「これは何?」と聞いて、子どもが「わんわん」と答えたとしたら、さらに「わんわんの色は何色?」「わんわんは何をしているの?」などと広げてみます。


③子どもの答えの反復

子どもの答えをただリピートするだけでも、子どもの発話を促すことができます。「これは何?」「わんわん」の後に、「そうだね、わんわんだね」といったように大人が認めてあげるだけで子どもは自分の答えが受け入れられたと感じ、発言することが楽しくなっていくからです。

※写真はイメージ(iStock.com/yamasan)
※写真はイメージ(iStock.com/yamasan)

④決まった答えのないやりとり

絵本の絵に注目して、子どもが自由に答えられる質問をしてみます。たとえば「この子は今どんな気持ちなんだろう?」「〇〇ちゃんだったら、こんな時どうすると思う?」など子どもが自由に答えられる質問は、子どもの表現力を豊かにしたり考える力を育てる効果もあります。


⑤文章を完成させるやりとり

繰り返し表現が多い絵本などで、フレーズの最後の部分を子どもに発話させるやりとりです。たとえば『はらぺこあおむし』では、「おなかはぺっこぺこ」というフレーズが繰り返し出てくるので、大人が「それでも、おなかは……?」とあえて読まないことで、子どもは自然と「ぺっこぺこ」と言ってくれるでしょう。

このやりとりは、言語や文章の構造を理解することにつながり、後に子どもがひとりで読むことを学ぶ手助けともなります。


⑥ストーリーを思い出させるやりとり

はじめての絵本を読み終わったときや、読んだことのある絵本をあらためて読む前に内容についてたずねるやりとりです。たとえば「鬼が島に着いたあと桃太郎たちはどうしたんだっけ?」というように行います。

これは、出来事の順番を表現するスキルを養い、話の筋の深い理解にもつながります。少し難易度が高いので、主に4~5歳以上の子どもが対象です。

※写真はイメージ(iStock.com/ipetaka)
※写真はイメージ(iStock.com/ipetaka)

⑦子どもの生活と関連した質問

絵本の中に出てくる言葉や絵、話の展開を、子どもの生活と関連づけて質問してみます。絵本にいたずらが好きな子が出てきたら「この子はいたずらっ子だね。保育園にいたずらっ子はいる?」などの質問をしてみることで、会話能力や話術を高める働きをします。

さらにこの質問の効果は、作品で描かれる世界に没入するだけではなく、俯瞰して見ることができるようになること。そして、絵本で学んだことを現実世界で応用する力を養うことができるのです。


ーー面白いですね。7つのポイントを意識すれば私にもできるような気がしました。特に、読み聞かせの中で子どもの答えたことを反復することで子どもを肯定してあげられるのは、すごく素敵だなと思いました!

加藤先生:そうですね、子どもたちも自分の考えが受け入れられることに喜びますよ。そして、日本人が特に苦手とする「考える力」「伝える力」がどんどんと育っていくでしょう。

ーーありがとうございます!国語力には語彙力も必要だと思いますが、これも絵本で育てるとよいでしょうか?

加藤先生:もちろんそれもありますが、子どもといっしょに色々なことをして、日常の中で新しい言葉を入れていくことをおすすめします。子どもはお散歩中にさまざまなことに気が付いて「あ!」と指をさしたりしますよね。

※写真はイメージ(iStock.com/Ivanko_Brnjakovic)
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加藤先生:お父さんお母さんは子どもが見ているものをいっしょに見て、「あ、面白い車が来たね。あれはダンプカーっていうんだよ」「宣伝している車だね」などと説明をしてあげることで、言葉を育んでいきましょう。

休みの日は公園で自然と触れ合ったり、動物園やテーマパークに行くなど、さまざまな体験をさせることこそが彩りのある語彙力へとつながっていくのです。もちろん近所にお散歩に行くだけでも外の世界と触れ合うことはできるので、どんどんと外に出ていきましょう。

ーー子どもが見ているものをいっしょに見る。簡単なようでできていないことも多いかもしれません。

アメリカでは5カ月の赤ちゃんに読み聞かせをしている

※写真はイメージ(iStock.com/staticnak1983)
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ーー本の読み聞かせはいつから始めるのがよいでしょうか?

加藤先生:私の考えでは、早いに越したことはありません。以前日本、アメリカ、台湾で行った調査では、下記のグラフのような結果がでました。

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加藤先生:アルファベットは単語によって読み方が違うことが子どもにとっては難しい言語だから、アメリカのお父さんお母さんは、言語の勉強として早めに読み聞かせを始めたいと思っています。

日本の場合、ひらがなに関しては簡単に読める言語なので、お父さんお母さんはあまり心配していませんよね。多くの場合、読み聞かせの目的は言語教育ではなく、情操教育やコミュニケーションだというデータがあります。

逆に台湾では、絵本は全部漢字で書かれているため、小さい子には難しすぎるという理由から読み聞かせの開始が遅いというデータがあります。このように言語によって、読み聞かせを始める時期やその目的の違いがあるのです。

でも、言葉が分かっていても分かっていなくても、赤ちゃんは絵本を見せるとジーっと見たり、喜んで聞いてくれます。まだ喋れない子どもでも「うさぎさんどこ?」などと聞くと、指をさして教えてくれることもあります。

だから、言語による読み聞かせだけではなく、もっと小さいうちから絵本というものがあること、そしてそれは楽しいものであることを教えてあげてほしいなと思います。

※写真はイメージ(iStock.com/Courtney Hale)
※写真はイメージ(iStock.com/Courtney Hale)

ーー赤ちゃんの言語といえば、赤ちゃん言葉の是非が話題になることがありますが、先生はどのようにお考えでしょうか?

加藤先生:それは、お父さんお母さんの方針に任せればいいと思っています。赤ちゃん言葉は言語の習得の妨げになると考える人もいるし、子どもと触れあうコミュニケーションツールのひとつだと思ってる人もいますよね。

ただ個人的には、赤ちゃんに話すときはどうしても赤ちゃん言葉は使ってしまいますよ。今もデスクに置いているマスコットに話しかけるとき「どうちましたか」とか言ってますから(笑)。

赤ちゃん言葉を使っているからといって言語の発達が遅いという根拠もないし、逆にコミュニケーション面などでメリットはたくさんあると思います。赤ちゃんことばを使うと、赤ちゃんには「今私に話しかけている」ことがわかるというメリットもあります。

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好きなことに関する情報。本でしか得られなかったら?

ーーKIDSNA STYLE読者から、小学生の息子がすでに本があまり好きではなく全く読まないとのお悩みがありましたが、あとから本が好きな子どもになることはありますか?

加藤先生:はい。もちろん手遅れなことはありません。以前にアメリカで読み書き能力をどう発達させるか、というプロジェクトに携わったときに、印象深いエピソードがありました。

5年生と3年生の日本人の兄弟が調査に協力してくれたのですが、お兄ちゃんのほうは当時、本や勉強にあまり興味がなく、本を読もうと誘っても反応が薄くて。唯一好きなことがサッカーだということでした。

そこで私は、図書館でペレの本を探して、いっしょに読もうと誘いました。

※写真はイメージ(iStock.com/efks)
※写真はイメージ(iStock.com/efks)

加藤先生:その子は今有名なCMディレクターとなりアメリカで活躍していますが、後にこのように言ってくれました。「なんにも興味がなかったいい加減な僕を変えてくれたのが、ペレの本と、それを探してくれた映子先生だ」と。当時は英語も苦手だったけど、勉強しながら本を読むことでしか、ペレのことを知ることはできなかったとも話しています。

だから、子どもが何が好きなのかをよく観察して、その好きなことに関する本を与えてあげること。それだけで、一気に子どもが変わる可能性もあると実感しました。

ーーなるほど!インターネットやSNSが発達した今でも、本からしか得られない情報はたくさんありますよね。

加藤先生:その通りだと思います。あとは、本を読むことが楽しいと思わせる環境づくりはできると思います。お父さんお母さんが日常的に本や新聞を読んでいたら、子どもも興味を持ちますから。まずは親が本を読んでいる姿を見せてほしいですね。本を読むことが日常の中で大事なアクティビティだという理解に繋がるのではないでしょうか。

※写真はイメージ(iStock.com/elenaleonova)
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ーーわかりました。話は変わりますが、字が読めるようになった小学生には読み聞かせをしてあげるのではなく、自分で読ませる方がいいのかなと思うのですが、読み聞かせは何歳までしたらよいのでしょうか?

加藤先生:字が読めるようになったり小学生になったから読み聞かせはおしまいということではなくて、できるだけ続けることをおすすめします。

たとえばハリーポッターのような長いストーリーは小学生にはまだ読むのが難しいですよね。そのようなものを寝る前に読んであげるのはどうでしょうか。聞いているうちに眠くなってくるという利点もあります(笑)。やっぱり何歳になってもお父さんお母さんの声で読んでもらったら嬉しいし、心地いいですから。

今は共働きの家庭も多く、皆さん忙しいと思いますが、寝る前のわずか10分でいいと思います。どうしても難しいのなら週末だけでも大丈夫です。

あとは、幼稚園や保育園の先生は女性が多いし、家でもお母さんだけが本を読んでくれたら「本を読むのは女の役割だ」と子どもが思い込んでしまうこともあるでしょう。お母さんだけではなく、交代でお父さんも読み聞かせに参加しましょう。

※写真はイメージ(iStock.com/kohei_hara)
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読み聞かせにおすすめの絵本

ーーお父さんとお母さんとでは読み聞かせの仕方も違うかもしれませんね。最後に、加藤先生のおすすめの絵本を教えてほしいです。

加藤先生:『絵本で子育て 子どもの育ちを見つめる心理学』(著:秋田喜代美・増田時枝/岩崎書店)という保護者向けの本があり、あらゆる子育ての悩みにおけるアンサーとなるような絵本が紹介されているので、とてもおすすめです。

加藤先生:たとえば「人見知りが激しいけれど、いつまで続くのでしょうか?」というお悩みに対しては、『おでかけ ばいばい』(文:はせがわせつこ、絵:やぎゅうげんいちろう)という絵本が紹介されています。そして、発達心理学の秋田先生が人見知りが起こる原因や、どのように対応したらよいのかを絵本の内容に触れつつ教えてくれています。

「お弁当を残してきます。どうしたら食べてくれるでしょうか?」というお悩みには、『おいしい おと』(文:三宮麻由子、絵:ふくしまあきえ)という絵本がおすすめされています。保育の専門家である増田先生が保育現場での実情に基づいたアドバイスや、この絵本で食べ物への関心を育てるように教えてくれています。

ーー読み聞かせをするときに、どのような絵本を選んだらよいのか分からないお父さんお母さんも多いと思うので、その時々で悩んでいることに関する絵本を知ることができるのはとてもいいですね!

加藤先生:はい。あと、ダイアロジック・リーディングには、ディック・ブルーナの『じのない えほん』(福音館書店)を読むこともおすすめです。これはタイトルの通り、文字がいっさい書かれていない絵本です。文字がないことで子どもの解釈は自由に広がり、考える力や想像力を引き出しやすいですよ。

文字がない絵本では、子どもに質問しながら読む方法と、即興でお話をつくる方法があり、子どもに物語を作って話してもらうのもよいでしょう。特に『じのないえほん』は情報が極限まで削ぎ落されているため(大人がいっさい登場しない、夕飯のおかずが描かれていないなど)、その穴を埋める空想がしやすい一冊。子どもが語り部になる最初の本として最適だと思いますよ。

ーーおすすめの絵本の紹介もありがとうございました!

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加藤 映子

加藤 映子

大阪女学院大学・短期大学学長/大阪女学院大学国際・英語学部教授。Ed.D(教育学博士) 大阪女学院短期大学卒業後、国際社会団体勤務を経て、ボストン大学に進学。ハーバード大学教育学大学院で教育学博士号を取得。同大学で「ダイアロジック・リーディング」に出合い、研究を重ねる。1998~2001年、フルブライト奨学生。専門分野は「言語習得」と「最新テクノロジーを活用する教育」。 現在は、「子どもとことば」「絵本を通してのことばの発達」を研究課題としており、絵本の読み聞かせにおける母子のやりとりや読み書き能力の発達に関する親の意識調査などを行う。一方で、教員を対象とした「子どものことばを育てる読み聞かせ」ワークショップも行うなど、日本における「ダイアロジック・リーディング」の第一人者として普及活動に尽力している。  季刊絵本新聞『絵本とことば』(H・U・N企画)への寄稿や、『世界一受けたい授業』(日本テレビ)に過去3回出演するなど、メディア出演多数。

2023.05.11

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