キャリア、留学…「自分の人生も生きる母」を支えた家族の連帯【拡張家族Cift】
ワンオペ育児に産後うつ。家族が密室だからこそ起こる問題を解決するカギが渋谷にある?「拡張家族」をキーワードに社会実験を行うCift(シフト)の連続インタビュー企画。第3回目は、現在進行形でCiftにかかわり、子どもを育てるおふたりと石山さんに、現在のCiftの子育てについて伺う。
前回はCift発足初期に入居し、メンバーを自ら巻き込んで「子育てをプロジェクト化」させた神田(平本)沙織さんにお話を伺いました。
今回は現在進行形でCiftにかかわりながら子育てしている二人の女性と、石山アンジュさんにCiftの子育て最新事情を伺います。
▼▼▼拡張家族Ciftインタビュー第1回・第2回はこちら▼▼▼
「子どもがかわいそう」と言われない安全な場所
――現在のおふたりの状況を教えていただけますか?
せらさん:私は現在保育園の都合で別の場所に住んでいる元住民で、現在は週に一回か、二週間に一回程度子どもを連れてここに通っています。上の子は1歳で、下の子は0歳4カ月です。
妊娠中に夫とCiftに入居したのですが、入った理由は、子どもを色んな大人と触れ合わせたかったからです。刺激的な環境のなかで、子どもも大人もここで楽しい生活が送れるんじゃないかと。
なださん:私はCiftで息子と過ごしています。私の場合は、子育てするためにCiftに入ったというわけではないんです。
――そうなんですね。どんな理由で入られたのですか?
なださん:完全にビジネス的な観点でした。仕事にアクセルを踏もうとしていた頃に、家に帰ってからも壁打ち相手がいたらおもしろいなと思って、2020年まで松濤にあったCift(※現在は閉鎖)に入居したのですが、その数カ月後に妊娠がわかりました。
子どもの父親が海外にいたこともあり将来や子育てについてのコミュニケーションが難しく、Ciftで育てるかどうか決めきれないままに出産して子育てして、そのままCiftにいるのが現在の状況です。子どもはいま2歳2カ月です。
――子育てだけではなく出産前にもいろんな不安が尽きないものですが、妊娠中からCiftにいたおふたりはその点いかがでしたか?
せらさん:妊娠中は出産育児に関する疑問点があったり、居住空間が区切られていることもあって、産後の育児の葛藤や辛さはやっぱりありました。でも、ちょうど私の数カ月前や一年前くらいに子どもを産んだ2世帯が近くにいて、そのママたちに妊娠中からアドバイスをもらったりものをもらったりと、いろいろサポートしてもらいました。
辛いときに気持ちを共有できたり、「ちょっとだけ子どもを見ていてほしい」とお願いしたりできるのは、普通のマンション生活だとないなあって。
彼女たち以外にも、25歳くらいになる娘さん二人を育て終えた50歳の女性がCiftにいて、その方が毎週子どもを抱っこしてかわいがってくれていて。自分の母親は遠方なので、なかなか子どもに会わせられないし、孫のように接してくれる方が身近にいるのはとてもありがたいです。
せらさん:まさに自分の家族が広がったと実感したし、人とのつながりこそが心の豊かさだと改めて気づかされました。
――子育てにかかわってほしいママと、子育てを終えて子どもにかかわりたい、母親をケアしたい方の双方にとってプラスですよね。なださんはいかがですか?
なださん:(神田)沙織ちゃんは育児の経験・未経験を問わずみんなを子育てに巻き込んでいましたよね。彼女には自分の課題を社会問題化できる強さがあります。
私の場合は、私の子育てに関わろうとしてくれるメンバーを中心に時々手を借りている状況で、関心のないメンバーまで巻き込むような動き方はしていません。こういった姿勢の違いは、どちらが正しいということでもありません。私の性格上は、関心の薄い人にまで「助けて」と呼びかけ行動変容を強いることや、呼びかけた結果生じる反応に対してストレスを感じることが多いというだけのことだと思っています。
Ciftメンバーの家族観が一様でないことにも通じるのですが、「家族だから子育てを手伝うのが当たり前」って決まりがあるわけでもないですし。今のところ私以外のケースでも、もともと子どもや子育てに興味のある者同士で自然発生的な助け合いが起こるケースが多いとも観察しています。
石山さん:メンバーのバランス感覚もそれぞれですよね。「家族は子育てを手伝うのが当たり前」が前提になると、話が変わってきてしまうから。
――「私ばかりいつも手伝ってる」みたいな人が出てくることはないですか?
石山さん:過去にそういうこともありました。子育てに限らず、人間関係には「誰かのために何かをしてあげたい」「誰かのために何かをしたから、私にもしてほしい」とギブアンドテイクを求めるものだけど、期待しすぎるとうまくいかないことが多いかもしれません。
なださん:期待しないのは大事かも。
そう考えると私がCiftに助けられているのは、具体的に子育てを助け合うこと以上に、価値観を押し付けられないことですね。
たとえばひとりで子どもを育てる女性を見ると「子どもがかわいそう」だとか「結婚したらいいよ」と、マジョリティの価値観を勝手に押し付けてくる人が世の中にはいっぱいいて。Ciftではそういうことがないので、心理的な安全を感じます。
2歳児のママが一カ月の留学に! そのときパパは……
――育児への関与の仕方はさまざまということですが、みんなで助け合った事例としてはどんなことがありましたか?
なださん:先日3カ月と2歳の子どもがいるママが風邪で体調を崩してしまったのですが、ちょうどそのときパパも出張中で、彼女がひとりぼっちになってしまったことがありました。
Ciftメンバーを中心としたママたちのグループLINEに彼女からSOSが飛んできたので、即座にみんなで反応しました。子どもを預かる、お迎えに行く、お風呂に入れる、ご飯を手伝う、買い物に行く、とできることを分担して。
石山さん:あとこれは極端な例かもしれませんが、当時2歳になる直前の子のママが一カ月間、留学したことがありました。
残されたパパが「ぼくひとりじゃ無理!」とみんなにヘルプを出して、そのときもみんなで育児を分担しましたね。
パパが日付と朝・昼・夜三食のマスを作ったエクセルをみんなに共有して、自分がご飯を手伝える日があったら入力して、ってお願いして。保育園の送り迎えは、独身の男の子たちが中心になって手伝っていました。
――すごい連帯ですね。一カ月の留学も、エクセルで手伝いを依頼することも、信頼の土台があるからこそなんでしょうね。
石山さん:私もお弁当を何度か作ったのですが、小さい子に食べさせちゃいけないことを知らずにタラコを入れてしまって。Ciftでたくさんの子どもと接してきたけど、自分自身に子育ての経験があるわけではないので、やっぱりそういうふうに間違えてしまうことがあります。
でも、「ああ、いいよいいよ」とある程度許容してくれるのは、関係性ができているからこそでしょうね。子育てにはリスクもたくさんあるので、大人同士に信頼関係がないと摩擦が起こりやすいんじゃないかと思います。
――育児のシェアは、「母親は四六時中母親であれ」という社会からの無言の圧力をはねのけ、女性が子どもを持ちながら自分の人生を生きることを可能にする。今回の取材でそう感じました。
拡張家族Ciftインタビュー企画の最終回となる次回は、Ciftの社会実験から改めて「家族」や「結婚」について考えます。
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<取材・執筆・撮影>KIDSNA編集部