配偶者も子どもも自分の「持ちもの」ではない。個を生きる「家族」【拡張家族Cift】

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2022.03.08

ワンオペ育児に産後うつ。家族が密室だからこそ起こる問題を解決するカギが渋谷にある?「拡張家族」をキーワードに社会実験を行うCift(シフト)の連続インタビュー企画。最終回では、改めて「家族」や「結婚」の意味を問う。

前回は現在進行形でCiftにかかわりながら子育てする女性二人と石山アンジュさんに話を伺い、子育ての「シェア」が女性に安心や自由をもたらすことがわかりました。

最終回ではこれまでの話を踏まえながら、これからの「家族」と「結婚」を考えます。

▼▼▼拡張家族Ciftインタビュー第1回・第2回・第3回はこちら▼▼▼

核家族で全部やるのは限界。石山アンジュに聞く「拡張家族」

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親だけが子どもの責任者ではない。シェアで得られた安心感【拡張家族Cift】

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キャリア、留学…「自分の人生も生きる母」を支えた家族の連帯【拡張家族Cift】

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離婚した両親の新しいパートナーも「家族」

――お話を伺いながら、喜びも辛さもシェアするCiftの子育ての輪郭が見えてきました。だけどやっぱり思ってしまうのは、知らない人と「家族」になることに、まったく抵抗がなかったのかなということなのですが……。

せらさん:私の場合はむしろ、その点を魅力に感じました。もともと大学で相互扶助コミュニティの研究をしていて、人間の幸せや生きやすさはコミュニティにあると思っていたので。

そもそも、人の生きやすさが、経済状況や血縁・婚姻ベースの家族関係に左右されすぎていますよね。「親ガチャ」って言葉があるけど、生まれる環境を自分で選べないのに、それ次第で人生が決まるのはよくない。

それに、核家族のなかですべてをまかなおうとしたら少子化が止められず、人口バランスに依存した社会システムは破綻しますよね。だからこそ血縁や婚姻でつながる家族の枠組みを超えて、互いに助け合うコミュニティがあちこちにできる必要がありますよね。

 

――もともと人は集団で生活していたわけで、むしろ核家族は歴史からみても新しいものですしね。石山さんはお父さまがシェアハウスを経営されていると伺いましたが、そのことは今の活動につながっているのでしょうか?

石山さん:そうですね。いつも周りにいろんな大人がいたことは自分の原体験になっています。

私は一人っ子で、両親は12歳のときに離婚したのですが、自分を娘や妹みたいにかわいがってくれる人たちがたくさんいたので、寂しいと思ったことはなくて。

父親と母親それぞれの新しいパートナーとも仲良くなって、そのときに家族が増える喜びを知りました。血縁がなくても家族になれるし、そこに喜びがあると。

 

――実の両親に対して、複雑な感情は抱かなかったですか?

石山さん:それはなかったんじゃないかな。私自身も2020年に結婚したのですが、そのときは彼の両親と、私の両親とそれぞれの現在のパートナー、それに私たち、合わせて8人で顔合わせしました。

――それもまたすごい!

石山さん:私のパートナーは大分に住んでいて、会うのは月に10日くらい。あとの20日はCiftでゲイの男の子とルームシェアしています。その子とも老後の話をしたり、自分に子どもが出来たらどうするか話し合ったりしていますね。

――パートナーから嫉妬されたりは……?

石山さん:ないです(笑)。性的な関係ではないですし。

――聞いているうちに「結婚」ってなんだろうという気持ちになってきました。

石山さん:それは私も結婚するときに何度も考えました。パートナーも拡張家族のひとりですでに「家族」なので、なぜわざわざ結婚するんだろうって疑問が生まれて。

突き詰めて考えると、私が結婚したかった理由は、お互いに他の人とは性的なパートナーシップを持ちません、という合意のためでした。それ以外の生活は、実のところ何も変わらないんですよ。

ちなみに、結果的に婚姻届は提出しない事実婚になりました。

 

せらさん:Ciftには事実婚も何組かいます。私たち夫婦の場合も少し特殊で、お互いに婚外恋愛を許しています。

夫は自由を最大の価値だと考える人で、今に至るまでにはもめごともくり返してきました。だけど、そういう人がいてもいいと思って、友だち以上夫婦未満の関係がいいんじゃないかと。

一般的に言う「夫婦」というよりは、二人の子どもを育てる「共同養育パートナー」の関係性に近いですね。

なださん:私の場合は、子どもの父親は外国人で海外に住んでいます。現在は婚姻関係になく、一緒に暮らすこともありません。つまり彼は人生のパートナーでも、恋愛のパートナーでもない。それでも、息子を育てる上で継続的に関わってもらう「子育てパートナーの一員」として、関係を構築しています。

こうやって話しながら気づきましたが、婚姻関係を結ぶかどうかにかかわらず、Ciftのメンバーには、他人を「所有する」という意識の人が少ないかも。

なださん:そもそもCiftには結婚に限らず、個人の所有欲をなくしていく意識が根底にあるのかなと思います。

石山さん:そうだね。シェアリングエコノミーがいろんな社会問題を解決すると考えているので、自分自身も所有欲をなくすようにチャレンジしてる場面は多いかも。

 
※写真はイメージ(iStock.com/PeopleImages)

子どもを親の所有物ではなく、一人格として扱う

――みなさんの考え方を伺ううちに、これまでの家族は「結婚したから妻は自分のもの」「私が産んだから子どもは自分のもの」という意識があって、その意識こそが苦しみを生んでいるのではないかと思ってきました。「所有」といえば、お金の問題も大きくかかわりますが、Ciftではお金の面でも助け合うのでしょうか?

石山さん:収入のすべてをシェアしているわけではありませんが、必要なときには助け合っています。

経済的な困難に直面したメンバーに無期限でお金を20万円くらい貸したことがありますし、病気で入院したメンバーには、組合費からいくらか支払ったことも過去にありました。

組合費は、3千円、5千円、1万円の3パターンあって、それぞれの経済状況によって選び、毎月払う仕組みです。

お金の話に関しても、今後は組合費を老後の資金として貯められればいいなと思っています。いまこのコミュニティには働ける人がたくさんいるけど、自分たちが60歳になったらいまと同じように働くのはむずかしいですよね。だから長期的な視点で考えて、お金の面でも安心できる仕組みを作りたい。

 
共同キッチンに設置されている「どんぶりバンク」。メンバーが誰かに何かしてもらったときに任意でお金を入れる。

――それでいうと、Ciftで生まれ育ったお子さんも、成長してどんどん大きくなっていきますよね。小学校や中学校になると自分の意思が芽生えて、もしかしたらCiftで暮らすことに違和感を覚える子もいるかなと思ったのですが。

石山さん:そういうこともありますね。過去にも「Ciftで生まれた子はCiftメンバーなのか?」という問いが挙がりました。

なださん:ここにいる人は、親が決めるんじゃなくて、その子自身が決めることだと思ってる場合が多いかなと思います。もちろん子どもたちが判断するための材料は渡すけど、親にできるのはそこまでで、最終的には子ども自身に任せる。

石山さん:以前お母さんと一緒にここに住んでいて、自分の意志でCiftに入った小学生の子がいますね。Ciftがどういうコミュニティか理解して、自分も一員になろうと思ったみたいです。

なださん:Ciftに住んでいると、親以外の大人にも日常的に接するから、いろんな価値観があることを肌で学ぶんでしょうね。親を通して社会を見たり、親に判断を仰ぐんじゃなくて、子どもがたくさんの大人とのかかわりのなかで自分なりの考えを築いていくんだと思います。

ある子どもが、大人たちに「今日からママって呼ぶのやめる!」と宣言することもあったりして(笑)。そういう自分なりの判断の先に、Ciftに入る、入らないを決めていくんでしょうね。

 

せらさん:あと、世帯でCiftに入居しているとしても、ママとパパ、子どものあいだにはそれぞれ価値観の違いがありますよね。たとえば集まりにほとんど顔を出さないパパもいるけど、だからといって同じようにかかわることを強要しません。

たとえ家族であっても同じ価値観とか同じ行動を強要しないことは、Cift全体としてそうかも。

石山さん:そういうことで言うと、「拡張家族」は概念で、Ciftはコミュニティだと思うんです。

だから、Ciftじゃないから家族じゃないということではない。たとえば、家族の家族は家族だと思うし、その家族に「Ciftで世界平和のために頑張ろう」って気持ちはなくても、個々の関係性が家族だったら、それは拡張家族という概念で考えています。

ただ、「家族」をCiftメンバーに限定しないかわりに、Ciftがほかと違うのは、ビジョンを共有している点だと思います。

――それが最初のお話につながってきますね。

石山さん:少し話が大きくなるのですが、人と人とのあいだにコミュニティで膜を張らなくても、みんなが自分を開いてみんなにやさしくできるのが理想の社会です。

でも現実問題として、いきなりそういう状態にはなりません。子育てに冷たい社会に直面したことや、ひとり親を「かわいそう」と決めつける視線を感じたように、子育てひとつとっても無理解に苦しむ場面が現実にはたくさんあります。

「限られた人しか『家族』とみなさないなら、その活動は他人を排除している」とか「平和活動とは言えない」と言った声も聞くのですが、ビジョンの共有なしに全員を「家族」とすれば、これまで作り上げてきたものも壊れてしまいます。

 

だからこそ、心理的な安全を担保できる関係を少しずつ拡張することをあきらめないし、その人数や考え方をもっと広げていきたい。

だから、メディアで私たちの社会実験を世の中に発信していくことで、「家族」や人とのつながりに新しい視点を持つ人が増えていけばいいなと思っています。

<取材・執筆・撮影>KIDSNA編集部

2022.03.08

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