【加藤路瑛】12歳で起業。「今」を諦めない多様性社会をめざす若き起業家

【加藤路瑛】12歳で起業。「今」を諦めない多様性社会をめざす若き起業家

2021.01.20

12歳で起業し、自らが持つ「感覚過敏」という症状を抱える人たちが生きやすい社会を目指している14歳が、コロナ禍においてマスクをつけられない人のためのアイテム「せんすマスク®︎」を提唱し注目を集めている。若き起業家は、どんなきっかけでビジネスを志し、どんな社会をめざしているのだろうか。株式会社クリスタルロード取締役社長の加藤路瑛さんにインタビュー。

コロナ禍の新たな生活様式として当たり前となった、マスクの着用。

このマスクをつけられない「感覚過敏」の人々のためのアイテムとして、14歳の起業家、加藤路瑛さんが考案した肌にいっさい触れない「せんすマスク®︎」が注目されている。

感覚過敏とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの諸感覚が敏感になる症状のこと。感覚過敏をもつ人々は、日常生活において困りごとがたくさんあるという。

12歳で起業。「年齢のせいで舞台にすらあげてもらえないこともあるけれど、すべての人々が“今”を諦めないでいられる社会のために、自分も諦めない」と話す加藤さんは、どのような価値観を持ち、挑戦を続けているのだろうか。その背景に迫っていく。

加藤路瑛(かとう・じえい)/2006年2月生まれ。視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚などの諸感覚がとても敏感である「感覚過敏」を持つ。2018年12月に代表取締役を母親の咲都美(さとみ)さん、取締役社長を自身として株式会社クリスタルロードを設立。年齢や病気などを理由に今を諦めない社会の実現を目指し、感覚過敏研究所の運営や、親子・小中校生向け企業 支援などを手がける。
加藤路瑛(かとう・じえい)/2006年2月生まれ。視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚などの諸感覚がとても敏感である「感覚過敏」を持つ。2018年12月に代表取締役を母親の咲都美(さとみ)さん、取締役社長を自身として株式会社クリスタルロードを設立。年齢や病気などを理由に今を諦めない社会の実現を目指し、感覚過敏研究所の運営や、親子・小中校生向け企業 支援などを手がける。

感覚過敏の人が暮らしやすい社会をつくる

――加藤さんの手がける事業のひとつに「感覚過敏研究所」があります。コロナ禍で、マスクやフェイスシールドをつけられない人向けの商品が話題になっていますね。

触覚過敏の方はマスクをつけることで肌に触れる部分が痛くて辛かったり、息苦しかったりして付けていられません。

「我慢すればいい」と思う方も多いかもしれませんが、なかには耐えられないほどの苦痛を感じる人もいますし、特に小さい子どもに我慢して付けさせるのは難しい。

保護者の方の中には、マスクをしていない子どもに対する嫌な視線を感じたり、マスクの着用を義務付けているお店に入るのに困った経験のある方もいるかもしれません。

マスクをしない人を見て、その理由を想像する余裕がない人が増え、風当たりも強くなっているように感じます。

そこで僕の立ち上げた「感覚過敏研究所」では、最初に「意思表示カード」というものを作りました。これは、名刺サイズのカードを身につけることで、マスクが付けられない理由を伝えることができます。

(提供:加藤路瑛さん)
(提供:加藤路瑛さん)

しかし、このような意思表示カードがあったとしても、マスク着用の根本解決にはなっていません。感覚過敏の人でもつけられるマスクは作れないかと、コロナ以前から研究所のメンバーと話し合っていました。

そこでできたのが「せんすマスク®︎」。

感覚は人によって違いますが、肌にいっさい触れないマスクであればマスクをつけられず困っている人がつけられると考え、扇子の形になりました。

「せんす」には「扇子」と感覚の英語名「Sense」の意味を込め、口元を隠して話す「せんすケーション」という言葉、文化を提案しています。

聴覚障がいの方と話をする際に口元が見え、読唇できるようにという要望から、透明なせんすマスクも販売。(提供:加藤路瑛さん)
聴覚障がいの方と話をする際に口元が見え、読唇できるようにという要望から、透明なせんすマスクも販売。(提供:加藤路瑛さん)

父の提案「自分のつらさが誰かのためになる」

――感覚過敏を扱おうと思った背景にはどんな思いがあるのでしょうか。

自分自身が、感覚過敏を持っていることです。

感覚過敏研究所を立ち上げたきっかけは、せっかく自分の会社があるなら自分自身の課題解決に取り組んでもいいんじゃないかという、父の言葉からでした。

 

たとえば僕は、味覚が過敏なために食べられるものが本当に少なかったり、靴下を履くと痛く感じて履ける靴下を探すのに苦労したりしているのですが、小学校までは感覚過敏のことを自分も家族も全然知らなかったので、親に怒られることが多く、「わがままな子」と周囲に思われることが多々ありました。

私立の中学校をやめて、公立中学校に籍を移しN中等部に転校したのも、教室で聞こえる他の生徒の甲高い声や、さまざまな食べ物のにおいが混ざる給食の時間に耐えられず、体調が悪くなって保健室に行かざるを得ないことが何回もあったからです。

保健室に行く回数が増え、ある日クラスメイトの声で頭痛がして保健室の先生に事情を話したら「聴覚過敏ではないか?」と言われたことが、自分が感覚過敏であることを知るきっかけになりました。

転校したN中等部は、給食がないだけでなく、週に数回の通学ができるコースやオンライン授業なども柔軟だったため、今は快適に過ごせていますが、できることなら転校という手段をとらなくても、誰もが通いやすい学校環境・生きやすい社会であってほしい。

その想いで、自分にできることから実現していこうと思い、事業を通じて取り組んでいるところです。

感覚過敏は、病名ではなく症状を指して使う言葉で、なかなか理解されにくい。そこで、商品開発だけでなく、同じ感覚過敏を持つ方の情報交換の場としてコミュニティーも運営しています。

情報発信をするだけでなく、課題解決のためにアイディアを募ることも。(出典:https://twitter.com/crystalroad2006)
情報発信をするだけでなく、課題解決のためにアイディアを募ることも。(出典:https://twitter.com/crystalroad2006)

――ご自身の課題である感覚過敏について、研究所の所長として今後どのような挑戦をしていきたいですか。

感覚過敏研究所として本当に目指している究極のゴールは、「感覚過敏」という言葉も概念も不要な社会にすることなんです。

感覚ってそもそもまだ未知な部分があって、本当に全く同じ人は存在しないと思うんですね。

「感覚過敏の人」と言葉で区別しなくても「それぞれ感覚が違うことが当たり前」という多様性を認めあえる社会にしたい。

僕は、感覚過敏は才能だと思っています。

たとえば僕はコンソメやコショウなどの調味料にかなりシビアなのですが、同じように味覚が過敏な人は「この味が嫌い」「食べられない」ということさえ克服できれば、ほんの少しの味の違いも分かるので、料理人などにすごく向いているはずです。

※写真はイメージです(iStock.com/Floriana)
※写真はイメージです(iStock.com/Floriana)

現在、感覚過敏の方に向けた“五感にやさしい”アパレルブランドの立ち上げに挑戦しています。ゆくゆくは、ブレインテックという脳に関する事業にも進んでいきたい。

感覚というのは脳が司っているので、脳を研究し感覚を自由に変えられるようになればいいなと感じています。

感覚のダイバーシティが実現すれば、今は社会生活の中で生きづらさを感じている人も、困りごとを解消して、才能を生かせるのではないかと思っています。

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母が買ってくれたカードゲームから「社長」への夢が加速した

――加藤さんは、なぜ起業してビジネスをしようと思ったのですか。

一番最初は、幼稚園に通っていたころに「働きたい」と思ったことから始まりました。

父の働くスーツ姿にあこがれたり、母の職場についていったときにパソコンやホワイトボードを触らせてもらったりして、働くということに「かっこいい」というイメージをずっと持っていました。

また、祖父母が民宿をやっていたので、そこでお手伝いをしてお小遣いを貰ったりしていて、働いてお金をもらう楽しさを知っていたことも大きいと思います。

(提供:加藤路瑛さん)
(提供:加藤路瑛さん)

――働くということが身近にあって、疑似体験する機会が多かったのですね。

そうですね。それでずっと「働きたい」といっていたんですけど、周りからは「働くのは大人になってからね」という風にいわれるばかりで、当時はそういうものなのかなと深く考えずに過ごしていました。

転機になったのは、「ケミストリークエスト」というカードゲームとの出会い。

小学生のころ、ロボットアニメの『ダンボール戦機』が大好きで、同じようなものを作りたいと思いプラモデルを作っているうちに、理科が好きになりました。その後中学生では科学者が実験を実況する動画をYouTubeで見るようになり、僕も同じことをやりたいなと思ったんです。

インターネットで「毒物劇物を扱う」と調べたら毒物劇物取扱責任者の資格が必要だと分かり、勉強のために資料を買って読んでみたのですが、化学の基礎が全くない状態で読み始めたので、理解できないところがたくさんあったんですね。

そうしたら母が「基礎から学べ」と、化学を学べるカードゲームの「ケミストリークエスト」を買ってきてくれて。考案者である米山維斗さんが小学生で起業したことを知って、「小学生から働いている人がいる」という事実に、それまでの常識が吹き飛びました。 そして「社長」を目指すようになったんです。

【天才の育て方】#11米山維斗 ~小6で起業。無限の探究心を持つ勉強嫌いな現役東大生社長

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――お母さんが買ってくれたカードゲームから、社長への道が拓いたのですね。

最近になって知りましたが、両親は僕に「やりたいっていったものはやらせるけど、ほしいっていわれたものは買わないようにしていた」そうです。

目的があってそのために必要なものなら買うけれど、目的なしにただほしいだけならダメだと。だからこそ、化学に興味を持ち、資格を取りたいといった僕にカードゲームを買ってくれたのだと思います。

年齢を理由にせず「子どもだからこそできること」で社会を変える

――起業するまでの過程で「やっぱり難しそうだからあきらめよう」と思ったり、起業以外の選択肢を考えることはなかったのですか?

あきらめるという考えはありませんでした。

 

起業をしたいと思ってすぐに母に相談したら「いいんじゃないの。学校の先生にも聞いておいてね」と言われ、翌日に担任の先生のところに行ったら、「事業計画書を作ってきてください」と言われたんです。

起業を現実的な目標として実行できたのは、この担任の先生の存在も大きいです。この言葉がなかったら、ただの「起業したい」という気持ちだけで終わっていたかもしれない。

当時作成した事業計画書の一部(提供:加藤路瑛さん)
当時作成した事業計画書の一部(提供:加藤路瑛さん)

どのような形で起業するかという面では、NPO法人や合同会社、個人事業など他にも選択肢はあったのですが、15歳未満だといろいろ制限があったり、そもそも参加できなかったりするんですね。

一番の壁は、起業の手続きの上で必要となる印鑑証明書を発行するための印鑑登録が、法律によって15歳未満はできないとされていること。

その点、株式会社だと自分が代表取締役にはなることはできないんですけど、取締役会を設置する場合は取締役は印鑑証明書がいらないので、15歳未満でも取締役社長になることができます。

そういった理由で、母を代表取締役に、自分を取締役社長とした「親子起業®︎」という言葉をつくり、この形でやっていくことにしました。

 

――だからこそ、会社の理念は「年齢やお金、病気などを理由に今をあきらめなくていい社会をつくる」なのですね。

社会制度の面で、15歳未満は代表取締役になれないということもそうですが、年齢を理由に、そもそもステージにさえ立たせてもらえなかったこともいくつかありました。

たとえばおもしろそうなビジネスコンテストをみつけて参加したいと思っても「高校生以上」となっていたり、資金調達の相談をしに行っても「義務教育を終わらせてから来てね」といわれたり。

Twitterでは「中学生を売りにしてる」「中学生が社長を務める会社と取引したい企業なんてない」みたいなことをいわれたりもました。

iStock.com/Wachiwit
iStock.com/Wachiwit

会社設立前に、クラウドファンディングで募った115万円を資金に職業探究&ビジネス実験メディア「TANQ-JOB」をスタートしましたが、このときも周囲からは「うまく行かない」と言われました。 

でも、僕と同じように10代で起業経験のある起業家の方に相談したら、「大人が言うことの反対をやれば成功できるよ」という返信が来て。

それからは「子どもであっても自分の直感や価値観を信じて行動していいんだ」と思えるようになりました。

今でも同じようなことはありますが、それでもあきらめるということは絶対にしたくなくて、別のタイミングや方法で解決できると考え、挑戦を続けています。

――「今をあきらめなくていい社会」を目指す加藤さんですが、将来については考えていますか。

 

自分がまだ14歳だということや、感覚過敏を抱えているからといって、今の気持ちややりたいことをあきらめたくない。だからこそ僕は将来について考えたことが全くなくて、今だけに集中して、今を大事にして生きていたいという想いが強いです。

未来の自分は今を積み重ねた分だけ成長できると思っているので、どうなりたいかというよりは、大人になってからもその時々で「自分が好き」と思えればいいなと思っています。

まだまだ自分にも課題がたくさんあるし、「誰もたどり着いてない場所を一番早く見たい」という好奇心があるので、これからも年齢を理由にあきらめず、挑戦を続けていきます。


<取材・撮影・執筆>KIDSNA編集部

2021.01.20

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