【寝かしつけの新常識#02】赤ちゃんの体内時計をくるわせる「光」の浴び方

【寝かしつけの新常識#02】赤ちゃんの体内時計をくるわせる「光」の浴び方

2020.12.17

KIDSNA編集部が選んだ、子育てや教育に関する話題の最新書籍をご紹介。今回は、『赤いライトで朝までぐっすり赤ちゃん寝かしつけの新常識』(東洋館出版社)。睡眠科学者で二児の母である著者が、科学的根拠に基づいた赤ちゃんの眠りのしくみをお伝えします。

 
 
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体内時計をくるわせる光の浴び方

ハーバード大学医学部が、被験者に、時刻を変えていろんな強さの光を当て、体内時計を変動させるという実験をおこないました。

その結果、強くて明るい光を夜の早い時刻に当てると、リズムが後ろにずれて夜型に、早朝に当てるとリズムは前にずれて朝型になったのです。

強い光を、日の入り直後または日の出の直前に3日間つづけて当てると、最大12時間のずれが起こり、光の影響力が大きいことが証明されました。

iStock.com/lapandr
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このとき、被験者の体内時計は、まるで地球の反対側で生活している人のようでした。昼夜が逆転してしまったのです。――ただ、光を当てただけで。

本来なら暗い時間帯に、1回光を当てるだけで、リズムに影響します。夕方に光を浴びると、最大3時間半後ろにずれ、朝に光を当てると、最大2時間前に進みます。

このデータが重要なのは、眠っているはずの時間に光を浴びることで、体内時計が大きく乱れてしまうということを示しているからです。そしてこのことは、赤ちゃんにも当てはまるのです。

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寝る時間を教えてくれる体内時計

体内時計のすごい力

わたしたちは、みな体内時計を持っています。この時計が行動や体のはたらきをつかさどり、わたしたちに規則正しい1日を送らせます。

夜には眠り、朝になれば起きるように命令します。朝・昼・晩と三食をとり、そのあいだきちんと消化吸収するように体を整え、体温や免疫システムを調整します。気分や注意力、やる気といった精神状態も、1日を通して体内時計に従って変化します。

iStock.com/kazoka30
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体内時計によれば、夜は睡眠にふさわしく、午後は体を動かすのに向いていて、朝は消化吸収が高まる時間帯です。

この1日のリズムは、科学的には「サーカディアン(概日)・リズム」と呼ばれています。その由来は、ラテン語で「約」を意味するcircaと、「日」を意味するdiemです。「約1日」が、わたしたちにとっての基本のサイクルというわけです。

体の生理的なはたらきはほぼすべて、このリズムに従って起こっています。

もし、わたしがあなたを窓のない部屋に閉じこめ、テレビや時計、インターネットなど時間がわかるものは一切なし、ただ電気のオン・オフと食事は自由、一日中好きなようにすごして、好きなときに照明を消して寝られるようにしたら、何が起こると思いますか?

iStock.com/evrim ertik
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実は、こうした実験がこれまで何度も世界各国のさまざまなグループを対象におこなわれてきました。その結果わかったのは、部屋に閉じこめられた人は、いつもの生活とまったく同じリズムですごすということです。いつもの就寝時間に寝て、いつもの起床時間に起きる。

どれだけ閉じこめられていようと、毎日このリズムをくりかえします。この体内時計の力こそ、わたしたちの赤ちゃんの睡眠の強い味方になるのです。

体内時計と光の関係

地球は太陽の周りを回りながら(公転)地球自体も回転しています(自転)。自転は24時間かけておこなわれるため、わたしたちの体内時計も、およそ24時間周期となるように進化しました。

 
 

もし体内時計がくるってしまったら、どうすればリセットできるのでしょう。

答えは複雑で、「ツァイトゲーバー」(ドイツ語で「時間を与える者」の意味)と呼ばれるいくつもの要因が関わっていますが、もっとも影響力の大きいツァイトゲーバーは、光です。

朝起きてカーテンを開けると、目の奥にあるipRGCという特別な細胞が光によって活性化され、光の情報を親時計に伝えます。ちなみに、ipRGCは視覚とは何も関係ありません。目の見えない人も、多くの場合、ipRGCは機能していて、正常なサーカディアン・リズムで行動しています。

iStock.com/Xesai
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ipRGCから光の情報が送られてくると、親時計は1日がはじまったことを知ります。時計はリセットされ、そこから24時間をカウントします。

毎日規則正しく生活する人は、体内時計とサーカディアン・リズムが合っているため、目覚まし時計をセットするのを忘れたり、カーテンを開ける時間がずれたりしても、いつもと同じ時間に目覚め、お腹がすき、ベッドから出て、コーヒーと朝食をとり、消化がはじまり、仕事へ行き……と、変わらない1日をすごします。

iStock.com/Arx0nt
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体内時計をサーカディアン・リズムに合わせることを、「同調」と言うのですが、よい同調のためには、光が欠かせないのです。ただし、どんな光でもいいわけではありません。次の3つの点が重要になってきます。


  1. 光を浴びる時刻(いつ光を浴びるか)
  2. 光の強さ
  3. 光の色(波長)

光の色―目を覚ます色

次に、健康なリズムを保つために必要な3番目の点、光の色について説明しましょう。光にはさまざまな波長があり、波長によって色も変わります。虹が7色に見えるのは、そのためです。

けれど、日光に含まれる波長(光の色)の割合が1日を通して変化するということは、あまり知られていません。朝の日光は、青の光が多く、夕方には青が減少して、赤が増加します。赤がもっとも多くなったときに起こるのが、夕焼けです。青い光はほとんどなくなり、世界を赤く染め上げます。

iStock.com/Lara Mauvais
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いまでは、この青い光こそ、体内時計と睡眠にもっとも大きな影響を与えるということがわかっています。夕方に強いオレンジ色の光を 2時間浴びるより、同じ時間帯に弱い青い光を2時間浴びるほうが、睡眠にはずっと悪い影響が出ました。

目の奥にある特別な細胞ipRGCが青い光に強く反応するため、その情報を受け取った脳の親時計のニューロンも活性化します。そうすると、睡眠をうながすホルモンであるメラトニンが減少してしまうのです。メラトニン濃度が上昇するのは光がないときだけなので、日が沈んだあとは自然に増加するのです。

 
 

青い光を含むのは日光だけではありません。白熱電球、LED、テレビ、タブレットやスマホの画面などの人工的な光はすべて、青い光を発し、体内時計に昼間のサインを送っています。

近年、夜に光を浴びること、とくに画面からの影響に、科学者や世間の注目が集まっています。「ブルーライト」という言葉を耳にする機会も増えました。

たくさんの科学研究が、ブルーライトを発する画面を見ることで、メラトニン(睡眠をうながすホルモン)が抑制され、寝つきが悪くなることを明らかにしています。

2015年に、子どもたちへの画面の影響を調べるため、67件の研究のメタ分析がおこなわれました。その結果、9割の研究で、夜に画面を見ることと睡眠不足に相関関係があることがわかりました。

iStock.com/coscaron
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さらに、小さな子どもほど、光が睡眠に及ぼす影響が大きくなっています。

就学前の子どもたちに「光のテーブル」で遊んでもらうという実験があります。夜に1時間、光るテーブルの上で、透明な塗り絵シートやマグネットタイルなど、光に当たりやすい方法で子どもたちに遊んでもらいました。

すると、メラトニン濃度は通常、夜に上昇して眠さを引き起こしますが、強い光を浴びることで、子どもたちの体内からメラトニンが消え、テーブルの光を消したあとも低下したままだったのです。

この実験で、光が子どもたちに与えた影響は、それまでの実験でわかっていた大人への影響よりも大きかったため、「とくに子どもは夜に光を浴びることによる睡眠不足のリスクが大きい」という仮説が立てられました。

その理由は、外からの光を通過させる目のレンズは、子どものときほど透明度が高く、成長するとともにくもってくるからではないかと考えられています。

iStock.com/smirart
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赤ちゃんの睡眠リズムを乱すのは青い光だということを示す科学的研究はまだありませんが、自分の子どもや、寝かしつけの相談を受けた多くの家族と試してみたところ、結果は明らかでした。

夜に浴びる光をコントロールすることで、赤ちゃんの睡眠が改善したのです。この発見こそ、本書の睡眠トレーニングの鍵であり、そこから、「夜には、青い光を使わない」という簡単で効果的なルールが生まれました。


体内時計は、光にものすごく敏感

わたしたちが思うよりはるかに、身の回りの明るさには大きな差があります。

スマホの画面は月の光の10倍以上明るく、オフィスはスマホより10倍明るく、曇りの日はオフィスより5倍明るく、晴れた日の日光は曇りの日よりも6倍明るいのです。つまり、スマホと晴れた日の日光では、300倍もの明るさの差があることになります。

そして、バスルームやキッチンの照明と曇りの日の明るさといった10倍程度のちがいには、人間はまったく気がつかないのです。

 
 

こうしたプロセスは、「適応」といいます。

適応のおかげで、光の強さが大きく異なる場所を、行ったり来たりできるという利点もある一方、人工的な照明があふれている現代では、問題も生じます。日々接する光の強さの変化を感じることができないため、「光が睡眠をさまたげている」という考えを、無視してしまうのです。

ところが、脳そのものは、光の強さを正確に感じていて、忠実に反応します。青い光が含まれていれば、「朝が来た」という信号としてとらえ、「目を覚まして!」とうながすのですが、強さのちがいにも敏感です。

iStock.com/FamVeld
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これで、赤ちゃんのためにすべきことがはっきりしましたね。赤ちゃんに眠っていてほしい時間帯は、たとえわずかでも、青い光を存在させてはいけないのです。 

読者のみなさんは、こうお考えでしょう。「それはけっこうな話ですね、うちの子が夜中に一度も起きないなら……」

そう、問題は、明かりをつけてはいけないとなると、夜のあいだはどうやって授乳やおむつ替え、お世話をするのか、ということです。このことが、次に出てくる 「赤いライト」につながってきます。

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赤いライトで朝までぐっすり 赤ちゃん寝かしつけの新常識

ソフィア・アクセルロッド 著、綿谷志穂 訳

1,430円(税込)東洋館出版社

2020.12.17

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