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子どもが好きなキャラクターから探る幼児教育のヒントとは【乳幼児の嗜好実験】
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乳幼児が好きなキャラクターといえば、アンパンマン。親世代でも「子どものときに好きだった」という方も多いと思うが、今でもアンパンマンは子どもたちを魅了し続ける。一体なぜアンパンマンは子どもたちをここまで惹きつけるのか。その検証をすることで、乳幼児の嗜好性を知り、子どもと関わるうえで大切なことが見えてくるかもしれない。
幼児教育にはさまざまな方法があり、昨今ではPQ教育やモンテッソーリ教育など、さまざまな教育法を目にする。ただ、どれが本当にいいのか、我が子に合っているのはどんな教育なのかと悩む親も多いだろう。
そんななかで、まず必要となるのは乳幼児の興味や嗜好をしっかりと理解することかもしれない。
小さい赤ちゃんでも興味を示し、ほとんどの幼児が一度は好きになるキャラクターといえば、アンパンマン。1988年のテレビ放送開始から、35年以上も子どもたちを魅了し続けているというのは、驚くほどである。
その証拠に、今回KIDSNA STYLEで生後6カ月~2歳までを対象に「もっとも好きなキャラクター」を聞いた調査では、アンパンマンと回答した人が40.3%で、1位という結果であった。
一体なぜ、アンパンマンは子どもたちを魅了しつづけるのだろうか。
本記事では、乳幼児の発達を研究する十文字学園女子大学教授の大宮明子先生とKIDSNAアンバサダーの皆様に協力いただき、子どもたちの嗜好を検証していく。そこから幼児教育に本当に必要なことはなにか、見えてくることがあった。
動画版はこちらから
【仮説】アンパンマンが乳幼児に好かれる理由
まずは大宮先生に、アンパンマンが乳幼児に好まれる理由として、5つの仮説を立ててもらった。
仮説1:形
大宮先生:まずは形です。もともと人間だけではなく動物含め、赤ちゃんに共通した体の形があります。
これはベビーシェマといい、体全体に比べて頭が大きい、顔のなかで目の位置が下のほうに寄っている、おでこの部分が張っている、鼻と口が小さい、ほっぺはふっくらしている、などの特徴を指します。上記に加えて手足が短くて、丸みがあります。
人は、ベビーシェマを目の当たりにすると、かわいらしい、守ってあげたいと、自然とそういう気持ちになるのですが、実は、年齢に関係なく、小さい子どもでもそのような感情を持っていると考えられています。
アンパンマンは、丸くて大きな顔をしていて…と、まさにベビーシェマの特徴に当てはまるため、乳幼児に好まれるのではないでしょうか。
仮説2:色
大宮先生:2つ目に色。私たちは光の波長によって色を認識します。
人間の目には、原色、特に波長が長い赤色に注意を惹きつけられるような仕組みがありますが、原色は見ていると疲れるという特徴があります。一方で、波長が短い藍色や紺色などは目に優しく気持ちも落ち着く特徴があるけれど、幸福感を感じたり活動的になったりはしづらい色です。
そのような意味では、波長が長く注意を惹きつける赤に、少し白を加えたようなパステル調の柔らかい色味は、見ている人の気持ちを穏やかにし、好まれると言えます。アンパンマンの世界には、そのような色味が多く使われているのです。
仮説3:フォルム
大宮先生:3つ目に、フォルムです。先ほどもお伝えしたように、乳幼児の体は全体的に丸みをおびていて、手足が短いですよね。一方で、大人はもっと上下に伸びていて、モデルだと8頭身の方もいたりと、縦に伸びているほうがキレイと感じる特徴があります。
アンパンマンは3頭身ですが、赤ちゃんは自分の形に似ているものに親近感を持つので、好ましく思うのではないでしょうか。
仮説4:絵のタッチ
大宮先生:4つ目は、絵のタッチ。0歳の赤ちゃんでも、いつもいっしょにいる親の表情を見て、自分の行動をコントロールすることがわかっています。
表情を読むためには、顔のパーツがはっきり見えていて、分かりやすいことが必須です。髪の毛で目が覆われていたり、手で顔を隠していたら表情が見えず、怒っているのか笑っているのか判断できません。
特に、情報処理能力が大人と同じレベルには達していない子どもに対しては、伝えたい情報だけをわかりやすく提示することが大切です。
アンパンマンは、顔がはっきりと見えていて、パッと見ただけでも表情が読み取りやすいシンプルな絵のタッチのため、好まれるのではないかと予測します。
仮説5:キャラクターの特徴
大宮先生:5つ目にキャラクターの特徴。驚くことに人間の子どもは、0歳からすでに道徳性や他者への共感の芽生えがあります。ある実験では、坂を上っている人に対して、邪魔をするキャラクターと、下から支えてあげるキャラクターを見せると、生後3か月の赤ちゃんでも支えてくれるキャラクターのほうに共感を示すというデータがあります。
2歳頃になると、仲のよい友だちが泣いていると「よしよし」と頭を撫でてあげたりする行動が保育園でもよく見られます。
そのようなことを考えると、アンパンマンが困っている人を助けるシーンでは、自然と心が動くのかなと考えます。
実験結果
ーー0歳~2歳半の20人の乳幼児とママに協力してもらい、上記5つの仮説を検証した。方法は、それぞれの仮説に対し、「アンパンマンの要素が入っている」「全く入っていない」「その中間」のイラストを用意し、3つのモニターで見てもらう。そして、どれがいちばん好きなのかを教えてもらった。まだ喋れない子は、目線とママの判断で決めた。
実験結果はこちら。
形
大宮先生:予測したとおり約3/4の子は、丸いイラストを選んでいますね。三角や星形には角がありますが、角は心象的になんとなく怖いとか、不安な感情を引き起こす可能性があります。やはり丸みを帯びた形は安心感につながるのでしょう。
色
大宮先生:色については少し予測と違う結果となりました。予測通りに間色を選択した子は約1/3で、半数近くの子は原色と間色の両方が入ったイラストを選択しましたね。
ただ、もしかすると、今回使用したイラストでは、原色と間色の両方を使ったほうが色のコントラストがはっきりしているので、子どもにとって見やすさにつながったのかもしれません。
フォルム
大宮先生:6割以上の子が3頭身を選んでいて、自分の身体に近いフォルムに親近感を持ったということなので、予測通りの結果ですね。
少し意外だったのは、5頭身を選んだ子も約1/3いるということです。これはもしかすると、今回ご協力いただいた子たちに、年上のきょうだいがいたり、小学生くらいの子を目にする機会が多かったり、そのような理由もあるかもしれません。
絵のタッチ
大宮先生:これはわかりやすい結果が出ましたね。リアルすぎるイラストを選んだ子はひとりもいなくて、ある程度デフォルメされているものが乳幼児にとって分かりやすいということが言えます。
中間を選んだ子が約1/3いますが、このイラストもどちらかというとベビーシェマ寄りだったのかと思います。
キャラクターの特徴
大宮先生:これもほぼ予測通りの結果ですね。
中間のイラストを選んだ子も1/3弱いますが、キャラクターの特徴がどこまで伝わったのか、という問題はあると思います。左の笑っているイラストはウィンクをしているような表情ですが、意味を理解しきれなかった子もいたかもしれないですね。
大人には伝わる漫画スタイルの絵は、低年齢の子には伝わらないことがあります。たとえば思いきり走っている様子を表すときに足の周りをぐるぐると囲んだりしますが、はじめて見た3歳くらいの子には理解できないものです。
実験結果から幼児教育を考える
ーー程度の差こそあれど、子どもたちがアンパンマンの特徴に惹かれるという今回の実験結果をみると、やはり普段の親子の関わり方についてのヒントがありそうだ。実験結果から見えてきた乳幼児の嗜好性をもとに、幼児教育で大切にしたいことを大宮先生に聞いた。
親がさせたいことではなく、子どもが好きなものを与える
大宮先生:もともと子ども向けのおもちゃなどは、乳幼児が好む色や形で構成されているものがほとんどですが、親のなかには、大人びたデザインのものを好んで与えようとする人もいます。
しかし、誰だって自分が好きなもののほうが興味も愛着もわくし、かわいがろう、お世話をしよう、という気持ちが芽生えたりもするものです。急いで成長させようとせずに、その年齢の子どもが楽しかったり共感できたりすることを周りに溢れさせてあげたほうがよいです。
まだお話が上手ではない時期だと、何を考えているのかよくわからないし、つい何も考えていないように感じてしまうこともあります。しかし、喋ることができないだけで、頭のなかではいろいろなことを感じたり考えたりはしているのです。親はそのことをもう少し認識しておいたほうがいいかもしれません。
情報は足すのではなく引く
大宮先生:親は、子どもにどんどん新しいことを教えたくなってしまうし、小さいうちからさまざまな経験をさせたほうが脳の発達にいい、などと考えがちです。しかし、子どもの脳が処理できる容量は大人に比べて格段に少ないのです。
容量が決まっているバケツにどれだけ水を注いでも、入りきらなかった分は溢れるだけですよね。伝えたいことがあるのならば、できるだけ情報量を削ぎ落した状態で伝えることを意識しましょう。
会社のプレゼンであれば、できるだけ抜け漏れがないように、言葉を足していくことが多いかもしれません。しかし、子どもは反対に言葉を引いていくほうが伝わります。1~2歳であれば、一度に伝える情報は多くても2つくらいにしましょう。
言語以外の情報も同じです。たとえば、たまに笑いながら怒る人がいますが、表情と言語のメッセージがずれていると、子どもは混乱してしまいます。伝えたいメッセージは統一するように心がけましょう。
自然と生まれ持った共感力を健やかに育むには
大宮先生:0歳の赤ちゃんでも、道徳性や他者への共感の芽生えがあると前述しました。これは教えなくても生まれ持ったものですが、放っておいても順調に育っていくのかというとそうではなく、人との関わり合いが必要不可欠です。
子どもは真似が上手だと聞いたことがあるでしょう。親が教育という形ではなく、日常生活のなかで困っている人に手を差し伸べたり、他者を労わるような行動を見せていくことで、子どもは自然とそれを学んでいきます。
以前、子どもにさまざまなシーンをフラッシュカードのように見せて、「この場合はこうします」と教えればいいのではないかと言う人がいました。たしかに一時的にはそれで覚えたように思うかもしれませんが、実際に目の前に困っている人がいたときに、自然と身体を動かせるようになるでしょうか?
また、他者とのかかわりが増えていくと、イヤな気持ちになることも当然あります。そのイヤな気持ちをどう対処するのか、これも家族という社会のなかで学んでいきます。
親もいつだってご機嫌ではいられないし、なんとなく家庭の雰囲気が悪いときもあって当然です。子どもはそれを敏感に感じ取りますが、極端に隠す必要はありません。人間同士だから雰囲気が悪くなることもありつつ、自然とまた元通りになっていたり、それも日常の一部なので、見せていくことは大事です。
社会の縮図であるアンパンマンから学ぶ
大宮先生:乳幼児は、アンパンマンをベビーシェマという身体の特徴から、自分と近しい存在だと感じます。場合によっては自分がそこにいるかのような共感性をもって見ていることもあります。そのなかでアンパンマンがいろいろな人たちと関わり合っている姿を見て、そこで学ぶことも多いはずです。
アンパンマンを見る子どもが共感したり、ときに悲しんでいる姿を隣で見守り、親は励ましたり共感したりしながら、子どもに安心感を与えてあげることを心がけるとよいでしょう。
そうは言っても、アンパンマンは道徳番組ではないので、楽しむことが第一です。楽しみながら、結果として他者に対する共感や行動パターンを身につけてくれたらいいと思います。