妊娠すると、妊娠高血圧症候群に気をつけるように言われる妊婦さんも少なくないでしょう。妊娠高血圧症候群の診断基準と、なりやすい人の傾向をご紹介します。また、妊娠高血圧症候群が母体や胎児に与える影響についても詳しく解説します。
「妊娠20週以降~分娩後12週の間に、高血圧、あるいは高血圧と蛋白尿の症状がみられる場合」に妊娠高血圧症候群といわれます。
妊娠20週以降~34週未満で発症した場合を早期型といい、妊娠34週以降で発症した場合を遅発型といいます。
妊婦さんの20人に1人が発症するといわれており、妊娠高血圧症候群と診断されたら安静にすることが大切です。早期型で発症した場合は、症状が重症化しやすいので注意が必要です。
妊娠高血圧症候群にはなりやすい傾向があるといわれています。どのような人は特に注意が必要なのでしょうか。
BMI数値が25以上だと肥満と診断され、妊娠高血圧症候群になりやすいといわれています。
もともとの血圧が高い人や糖尿病や甲状腺機能障害などの合併症を持っている人は妊娠高血圧症候群の発症率が高くなります。
家系に高血圧や妊娠高血圧症候群の人がいる場合も注意が必要です。
妊娠高血圧症候群は、35歳以上になると発症率が上がり、40歳以上になると発症率がさらに高くなります。
経産婦と比べて初産婦の方が妊娠高血圧症候群を発症している人が多いです。
また経産婦の場合でも、前回の妊娠時に妊娠高血圧症候群にかかっている場合は発症しやすくなるようです。
双子や三つ子など多胎妊娠の場合は、1人の妊娠と比べると妊娠高血圧症候群の発症率が3倍高くなるとも言われています。
妊娠高血圧症候群の主な症状は、高血圧と蛋白尿(タンパク尿)です。
蛋白尿は健康な人でも排出されることがあったり、一過性のものであれば様子をみても問題ないですが、検査をして300mg/dl以上出ている場合に陽性と診断されます。
また、以下のような症状が見られたら妊娠高血圧症候群の兆候かもしれません。
妊娠高血圧症候群になると、さまざまな合併症のリスクがあります。どのような合併症に気をつけたらよいのでしょうか。
子癇(しかん)になるはっきりとした理由は分かっていませんが、全身にけいれんが起こったり、なかには意識を失う人もいます。
前兆として、頭痛やみぞおちの痛み、目がチカチカしたり、視界が狭くなるなどの症状が現われる場合があります。
Hemolysis(溶血)
Elevated Liver enzyme(肝酵素上昇)
Low Platelet(血小板減少)
以上の頭文字をとってつけられました。
肝動脈のけいれんや赤血球が壊されて肝臓が悪くなり、出血を止める働きがある血小板が減ることが原因と考えられています。
妊娠後期から産後に発症しやすい傾向があります。
HELLP(ヘルプ)症候群は以下のような症状がみられます。
HELLP(ヘルプ)症候群は、子癇の前兆と同じような頭痛や目がチカチカする症状が見られることもあります。
黄疸や出血がみられる場合もあるので、症状があったりだんだん悪くなってくるときには早めに受診しましょう。
通常、胎盤は胎児が出たあとに子宮から剥がれてきますが、常位胎盤早期剥離になると赤ちゃんがお腹のなかにいる間に胎盤が剥がれてしまいます。
以上のような症状が見られますが、胎盤が剥がれている部分や程度によって症状の感じ方の強さは変わってきます。
常位胎盤早期剥離を疑う症状が少しでも見られたら、すぐに病院に電話をしたり、受診するようにしましょう。
妊娠高血圧症候群になると、お腹の赤ちゃんにはどのような影響があるのでしょうか。
妊娠高血圧症候群の症状が悪化すると血液の流れが悪くなり、子宮や胎盤に十分な栄養や酸素が行き渡らないため、低出生体重児が産まれたり、酸素不足で低酸素状態が続くと脳に影響を与える可能性もあります。
妊娠高血圧症候群の症状で子宮収縮が起こると、血液循環がさらに悪くなり、お腹のなかの赤ちゃんが低酸素状態になる場合があります。
低酸素状態になると、赤ちゃんの心拍や脳に異常が出ることも考えられます。
妊娠高血圧症候群は、血圧の上昇が激しくなく、合併症を伴わない場合には出産して、胎盤が身体の外に出ることで症状がよくなり、治る人がほとんどです。
症状が重症化している場合は産後、高血圧や蛋白尿が出る人もいて、血圧を下げる薬を使ったり、けいれん予防の薬を使うなどの対応が必要になります。
出産後84日以上経っても、高血圧状態や蛋白尿が出続けるときにはほかの病気にかかっている可能性があるため、検査をした方がよいでしょう。
妊婦さんは、妊婦健診などで妊娠高血圧症候群に気をつけましょうといわれることがあるでしょう。
妊娠高血圧症候群の主な症状は、高血圧と蛋白尿ですがそのまま放っておくと、子癇(しかん)やHELLP(ヘルプ)症候群、常位胎盤早期剥離などの合併症につながるかもしれません。
合併症の前兆には頭痛や嘔吐、下腹部痛、不正出血などの症状がみられます。
出産すると、症状が落ち着いて治る人がほとんどですが、妊娠高血圧症候群は悪化すると、母体にも胎児にも影響するため、妊娠高血圧症候群についての知識をつけて、いつもと様子が違うと感じたり、妊娠高血圧症候群を疑う症状が見られたらすぐに医師に相談したり、受診することが大切です。
杉山太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)
信州大学卒医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。
患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。
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