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妊娠糖尿病の症状と診断基準。母体や赤ちゃんへの影響と治療法
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田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
田園調布オリーブレディースクリニック院長/医学博士/東海大学医学部客員講師/日本産科婦人科学会専門医、指導医/母体保護法指定医/女性ヘルスケア専門医/日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡・子宮鏡)/日本内視鏡外科学会技術認定医/がん治療認定医
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。
妊娠中に気を付けたい病気のひとつである妊娠糖尿病。胎児への影響以外にも、なぜ注意が必要か気になる妊婦の方もいるのではないでしょうか。また、万が一妊娠糖尿病になった場合は、どのようなことに気を付けて過ごすとよいのでしょう。今回は、妊娠糖尿病とはどのような病気なのか、診断基準や母体や赤ちゃんへの影響、治療法について解説します。
妊娠糖尿病とはどのような病気なのか
妊娠糖尿病になる母親はおよそ7~9%の確率で起こるといわれているため、珍しい病気ではありません。
そのため、妊娠する際は妊娠糖尿病がどのような病気なのか知り、気を付けることが大切です。そもそも妊娠糖尿病とはどのような病気なのでしょうか。
一般的な糖尿病と妊娠糖尿病との違い
一般的な糖尿病とは、以下の3つに分類されますが、そのなかのおよそ95%は、食べ過ぎ、運動不足、肥満などが原因で起こる2型糖尿病といわれています。
・ウイルス感染等により自己免疫の働きが誤作動をおこし、自分自身でインスリンが分泌できなくなる1型糖尿病
・主に食べすぎや運動不足などの生活習慣の乱れが原因の2型糖尿病
・その他遺伝子の異常や、他の疾患によるもの
それに対して、妊娠糖尿病とは、「妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常」と定義されており、妊娠することによって初めてわかった糖尿病だけでなく、血糖値の代謝異常がある状態のことを指します。
妊婦健診では、初期と中期に血液検査を行って血糖値の異常がないか調べますが、血糖値に異常が見つかった場合は、糖分の液体を飲んで血糖値の変化を測定する検査(ブドウ糖負荷検査)を行い、妊娠糖尿病かどうか判断します。
妊娠糖尿病の診断基準は、一般的な糖尿病に比べて下記の厳しい数値が設定されており、以下の条件のいずれかひとつでも当てはまると確定されます。
・空腹時血糖が92mg/dl以上
・ブドウ糖をとったあと1時間後の血糖が180mg/dl以上
・ブドウ糖をとったあと2時間後の血糖が153mg/dl以上
2010年に診断基準が厳しくなったことを境に、妊娠糖尿病の診断確率は以前より増加傾向にあるといえるでしょう。
妊娠によるホルモンがインスリンの働きを阻害
なぜ、ここまで厳しいブドウ糖の数値が設定され妊娠糖尿病と診断されるのでしょうか。これには、血中のブドウ糖の数値が上昇した場合の胎児への影響が大きく関わっています。
ブドウ糖は人間にとって、非常に大事なエネルギー源ですが、妊娠中に増えすぎると赤ちゃんに必要以上の栄養が届いてしまうという危険があります。
通常ブドウ糖をコントロールするインスリンというホルモンが膵臓から分泌されていますが、妊娠中は、胎盤から血糖値を下げるインスリンへの抵抗力が高いインスリンに対抗するヒト胎盤性ラクトーゲンや、プロゲステロン、プロラクチンなどのホルモンが大量に分泌。
妊娠中は血糖値の上昇が起こりやすく、妊娠糖尿病になる可能性が最も高い状況になっています。
それでも妊婦全員が妊娠糖尿病にならないのは、インスリンがそれに合わせて分泌量を増やし血糖コントロールをするから。そのため、妊娠糖尿病は、もともとインスリンの分泌が少ない方や、胎盤から分泌されるホルモンのインスリン抵抗力の高い方がなりやすいと考えられています。
妊娠糖尿病になりやすい方の特徴には、以下の条件があります。
・家族に糖尿病の方がいる
・肥満
・35歳以上
・巨大児分娩既往
・原因不明の習慣流早産歴や周産期死亡歴
・先天奇形児の分娩歴
その他、尿検査で糖の陽性反応が著しく出たり、2回以上反復して陽性になる場合や、妊娠高血圧症候群や羊水過多症の場合も、妊娠糖尿病になる可能性があるため注意が必要です。
母体と赤ちゃんへの影響
妊娠糖尿病になると、母体と赤ちゃんの両方に合併症をもたらすリスクが高まります。
【母体への合併症】
・帝王切開の上昇
・妊娠高血圧症候群
・流産や早産
・羊水過多
・膀胱炎や腎盂腎炎などの感染症の併発
【赤ちゃんへの合併症】
・巨大児や肩甲難産
・子宮内児死亡
・新生児低血糖
妊娠糖尿病は、赤ちゃんに糖分を送り過ぎてしまうことで、巨大児になりやすいだけでなく、赤ちゃんが将来的に肥満やメタボリックシンドロームになる可能性も指摘されています。
さらに、一度妊娠糖尿病を経験した女性は、出産後に血糖値が正常化した場合でも、出産から5年後に約20%、10年後には約30%の方が糖尿病と診断されたというデータもあります。
また妊娠糖尿病が怖いのは、自覚症状がないことです。一般的な糖尿病に見られるような動悸や息切れ、発熱やむくみなどの目立った症状がないため、早期発見と治療が重要です。
妊娠糖尿病にかかった場合の治療法
食事療法で血糖をコントロール
妊娠糖尿病の治療の基本は食事療法です。食事療法のポイントはふたつ。妊娠継続と胎児の成長に必要な栄養を摂りながら、高血糖を起こさない食べ方を意識することが大切です。
食事療法では、ただ食事制限をするのではなく、食事間隔を均等にし規則正しい食生活を送ること、栄養バランスが整った食事をとることなどが指導されます。
カロリーが気になる場合は、妊娠糖尿病の方の1日の摂取カロリーの目安である1,600~1,800kcalの数値を目安に食事内容を考えるとよいでしょう。
食後の血糖値が上昇してしまう場合は、通常の3回の食事の合間に「捕食」を取り入れ、5回~7回に分けて食事をする「分食」を行い、急激な食後血糖値の上昇をコントロールすることもあります。
体重過多などでカロリーコントロールが必要と判断されたときは、食事療法に加え運動療法として適度な運動が指導されます。
インスリン療法
食事療法や運動療法を行っても血糖値をコントロールできない場合は、インスリン療法という段階へ移行します。この治療は、すい臓から分泌されるインスリンと同じ働きのある薬を、自分で皮下に注射してインスリン不足を補うインスリン注射を行って血糖値をコントロールする方法です。
インスリン療法を行う際は、普段の生活習慣において、急な運動などによって起こる低血糖に注意が必要です。低血糖になると、冷や汗、動悸、意識障害、けいれん、手足の震えなどの症状が現れますが、場合によっては意識を失うこともあるため大変危険です。
低血糖は、すぐに糖分をとることで回復するため、対策としてブドウ糖や砂糖が入った飲み物、飴などを携帯しておくとよいでしょう。
どちらの治療法も、出産したら終わりということではありません。産後はインスリンの働きを阻害するホルモンを分泌していた胎盤が出ることによって、次第に血中の血糖値が正常になっていきますが、完治するまでは定期的に経過観察を行い治療を続けることが重要です。
赤ちゃんのための自己管理が重要
妊娠糖尿病になるべくかからないために、バランスのよい食事や睡眠、適度な運動を取り入れるなど規則正しい生活を送り予防を心がけましょう。
万が一妊娠糖尿病と診断された場合は、基本となる食事療法をしっかり行いながら、医師の指示にしたがって治療を進めていくことが大切です。
妊娠糖尿病は、妊娠高血圧症候群などと違い、安静治療は必要とされていませんが、”ハイリスク妊婦”であることを自覚することも忘れないようにしましょう。
体調によっては難しい場合もあるかもしれませんが、お腹の赤ちゃんのためにも自己管理を心がけることが重要です。
監修:杉山 太朗(田園調布オリーブレディースクリニック)
Profile
杉山太朗
信州大学医学部卒業。東海大学医学部客員講師、日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医。長年、大学病院で婦人科がん治療、腹腔鏡下手術を中心に産婦人科全般を診療。2017年田園調布オリーブレディースクリニック院長に就任。患者さんのニーズに答えられる婦人科医療を目指し、最新の知識や技術を取り入れています。気軽に相談できる優しい診療を心がけています。