未就学児こそリアルなアナログ体験を 共感力と創造力をはぐくむきっかけを与えよう【小宮山利恵子】

未就学児こそリアルなアナログ体験を 共感力と創造力をはぐくむきっかけを与えよう【小宮山利恵子】

情報にあふれ、変化のめまぐるしい時代。子どもが「好き」を追及し、「個」として生きていくために必要なこととは? リクルートのスタディサプリ教育AI研究所所長・東京学芸大学大学院准教授である小宮山利恵子さんの連載コラム第2回。

小宮山利恵子

AIに真似できない能力「創造力」と「共感力」

ここ数年、セルフレジや問い合わせ先のFAQにチャットボットを導入する店舗や企業が増えています。人工知能(AI)の技術革新によって、社会はこれからますます便利な時代になっていくでしょう。それは同時に、人間が携わってきた仕事が減ることを意味します。

大企業のリストラや倒産もめずらしくなくなった今、子どもの将来を不安に思う子育て世代は少なくありません。

では、AIに真似できない人間の能力とはいったいなんでしょうか?

人にしかできないことでAIはサポート役になる仕事に求められるのは、創造力と共感力です。
仕事における人とAIの付き合い方
提供:小宮山利恵子 スタディサプリ教育AI研究所
AIがどんなに進化してもゼロから新しいモノを生み出すことはできません。
創造力は人間だけが持つ才能です。また、多様性や協働性を重んじるこれからの社会で生きていくためには共感力が不可欠ですが、感情がないAIには共感力がありません。

つまり、AIやロボットに負けない子どもの才能を伸ばすためには、人と関わる体験や、手遊び、外遊び、自然遊びなどをはじめとしたアナログな体験をさせて、共感力と創造力を育んであげたほうがいいのです。
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写真はイメージです(iStock.com/Dushenina)

テクノロジーにはない「無駄」や「失敗」を体験しよう

もうひとつ、テクノロジーには弱点があります。それは、一見無駄に見えることや失敗により、既存の認知の範囲を超えて、より遠くに認知を広げていく「知の探索」です。
両利きの学び
提供:小宮山利恵子 スタディサプリ教育AI研究所
テクノロジーは一定分野の「知」を継続して深掘りしていく「知の深化」は得意なのですが、「知の探索」は効率的にはできません。

社会や企業に新しい変化をもたらすイノベーションは、「知の探索」と「知の深化」の両利きの学びが必要と私自身は考えています。「知の探索」ができるようになるためには、未就学児の頃から知らない世界に触れさせて、無駄や失敗がたくさんあるアナログな体験を積むことが大事なのです。

私がおすすめしたいのは旅行やキャンプです。どちらも、日常とはかけ離れた新しいことをたくさん経験できます。

交通手段や移動経路からはじまって、泊まる場所も、食べるものも、目に映る風景も、行く先々で出会う人たちも遊びも、小さな子どもにとってははじめてのことばかり。親も子も、予定調和とはいかない経験のなかで無駄や失敗から学ぶことが多いのです。
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写真はイメージです(iStock.com/andresr)
キャンプだったら、親子で一緒に火を起こして飯盒でお米を炊いたりすると、その難しさがわかりますし失敗もします。すると、スイッチひとつでガスや電気がつく便利な日常生活とは違った、知恵や工夫が必要な体験ができます。ちなみに私は、キャンプ好きが高じて、キャンプインストラクターの資格までとりました。

私は旅もキャンプも、「どんなことをすると子どもの頭の中にはてなマークが浮かぶだろう?」という意識を持って行動するようにしています。日常の決まりきった「枠を外す」ことを重視している、と言いかえてもいいかもしれません。

たとえば「1+1=2」のような正解がないアナログの経験をすると、自分の中に「?」の疑問符が浮かぶようになります。頭の中に「?」がたくさんあると、いろんな経験を積むうちに疑問が解けたり、自分なりに答えを考える学びにつながっていきます。

「?」が多ければ多いほど、無意識のうちに頭の中で学び続ける習慣が身につくのです。
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写真はイメージです(iStock.com/somethingway)
計算はコンピューターに任せられますが、正解がない問題について考えられるのは人間だけです。そして、正解がない問題の中からイノベーションは生まれるのです。

私自身も、息子が小学校を卒業するまでに日本全国47都道府県を一緒に旅行しました。魚が好きといえば一緒に釣りに行き、温泉が好きといえば、マニアしか行かないような穴場の温泉巡りもしました。

息子はもう中学生になりましたが、たまに「5歳の頃〇〇に行ったよね。ママだけ美味しそうなもの食べてたよね」といった思い出話をします(笑)。言葉にできることもできないことも含めて、断片的に覚えている記憶がいろいろあるようです。

小学生になると、エゴが芽生えてきて好き嫌いを言うようになり、何をするにも選り好みするようになるので、アナログな体験は未就学児のうちに覚えさせるといいでしょう。
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写真はイメージです(iStock.com/Lordn)

子どもが小さいうちにアナログ体験をさせた方がいい理由

これから育っていくデジタルネイティブの子どもたちは、スマホもタブレットも自分で勝手に使いこなすようになっていきます。まだ自分で使えない未就学児のうちからスマホやタブレットで動画を見せているご家庭も多いと思いますが、うちの子も同じだったのでまったく否定はしません。

ただ、数年前に話題になった『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』(藤井保文、尾原 和啓/共著 日経BP)という本にも書かれているように、リアルな社会はますますデジタル世界に包含されていきます。普通に生活しているだけで、誰もがデジタル世界を生きることになるのです。
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写真はイメージです(iStock.com/vovan13)
それだけに、幼少期のうちのアナログ経験が貴重になるのです。世界はデジタルだけで成り立っているわけではなく、むしろアナログ世界から進化してきたことを学ばせて、デジタルとアナログのバランスを教えることが重要なのです。

2018年に、ICT先進国のフィンランドの学校を視察したとき、低学年でも一人一台タブレットを使いこなすテクノロジー教育がとても進んでいました。

しかしそれと同じくらい重視しているのは、手先を用いた図画工作をはじめとした五感を使う授業で、創造力は五感を使ったアナログな体験からしか生まれないと現地の先生が話されていました。
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写真はイメージです(iStock.com/Elena Abrosimova)
子どもに、物作りや手遊びなどをさせる際、わからないことがあればYouTubeで解説動画を見て参考にしてもいいのです。オンラインの世界で役立つものがあれば積極的に活用しながら、アナログ体験も積んでいく。

デジタルにもアナログにもそれぞれメリットがあるので、うまく使い分けて子育てに役立てていきましょう。
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小宮山利恵子

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スタディサプリ教育AI研究所所長。東京学芸大学大学院准教授。「教育におけるICT利活用をめざす議員連盟」有識者アドバイザー。早稲田大学大学院修了後、衆議院、ベネッセを経て2015年株式会社リクルート入社。同年12月より現職。
著書に『教育AIが変える21世紀の学び』(共訳、北大路出版、2020年)、『レア力で生きる 「競争のない世界」を楽しむための学びの習慣』(KADOKAWA、2019年)、『新時代の学び戦略』(共著、産経新聞出版、2019年)など。

Twitter:@RiekoKomiyama

2022年01月28日

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