最近、アート系の習い事をしている子どもが多いようです。アートによって心が豊かになるのは理解できるのですが、子どもにとってどのような意味があるのでしょうか。そこで、芸術教育研究の専門家に、子どもとアートについて考えていただきました。
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KIDSNA編集部でも「つい先週、娘の絵画教室の見学に行ってきた」という話をしたばかり。最近、アート系の習い事が増えているような気がします。
子どもにとってアートはどんな可能性があるのでしょうか。そのことについて、上智大学の共同研究員として芸術教育をご専門に研究をされている桐田敬介氏にお伺いしてみました。
今回、KIDSNAさんから幼児期の教育とアートについて、お話を聞かせてくれませんかというお題をいただきました。初等教育が専門のため専門ど真ん中ではないのですが、ぼく自身の知っていることや体験してきたことで、お母さんたちにお役立ちできることがあればと考えてみました。
昨今、アート系の習い事やお稽古事が増えてきたように感じます。定番のピアノ教室などはもちろん、ダンス教室や、造形教室、新しいところでは「デザイン思考」を学ぶ教室という試みも出てきています。
幼児期にとってアートはどんな力を持つのか、そしてどのような環境が子どもたちの創造性を育むのか、世界中の研究者や実践者たちがいまもなお、細かく研究しています。
今回の記事では、ぼくがこれまで美術教育について調べてきたなかで、幼児教育に関連してわかってきたことをお伝えしてみたいと思います。
結論から言うと、幼児期の子どもにとってアート的な活動が重要になる理由のひとつは、アート的な活動が言葉を介したコミュニケーションの素地になるためです。
そしてもうひとつは、アート的な活動が子どもにとって、さまざまな能力を培う「学び」を生み出すと考えられているためです。
幼児期の子どもは、主に身体の振る舞いやものの動きを真似したり、手持ちのもので玩具や道具をつくったり、ものの色や形、想像上のイメージを描いたり、歌を作ったりものを叩いて音を作ったりといった、アート指向の活動を通してこの世界のことを理解したり、自分の感情や思いを表現していると考えられています 。(*1)
そういう意味で、昔から言われるように「子どもはもともとみんなアーティスト」です。
子どもたちは言葉の読み書きを覚える前から、自分なりの表現的な意図を持つサインやジェスチャー、イメージを編み出して、自ら周りの大人や子どもたちとコミュニケーションを取ろうとします。
紙のうえにお絵描きしては、「みてみて!」と周りの大人や子どもに見せる姿。そうした言葉以前の感覚を基礎にしたコミュニケーションをベースとして、言葉によるコミュニケーションがあるといっても過言ではありません。
とはいえ、なぐり描きの絵を描く、音に合わせて踊る、大人や動物の真似をする、積み木でお城をつくる、ものを叩いて音が出るのを楽しむなど、幼児期の子どものアートは大人が親しんでいるような「アート」とは違うものと思われるかもしれません。
しかしそれらは、美術、ダンス、演劇、工芸、建築、音楽など、あらゆるアートがそこから生まれてきたと考えるほかはない、まさに「アート的な遊び」(Artistic Play)です。
子どもたちは、こうしたアート的な遊びのなかで、どうすればさっきの自分よりもうまく創れるようになるか、ほかの子どもたちから認められるような「質」の高いものを創り出せるか、何より、自分が楽しめて誇れるものを創り出せるかに挑戦しています。
たとえば、ぼくはいま学童とプレーパークで勤務していますが、学童で動物の写真集をもとに絵を真剣に描いたり、巨大な秘密基地を作ったり、プレーパークで光る泥団子をつくったりと、子どもたちとアート的な遊びを生み出しています。
そうした活動のなかで、子どもたちは自分の作り上げるものに対して「質」を求めていきます。もっとかっこよくしたい、もっときれいにつくりたい。そのためには、どうすればいいんだろう?と。
遊びに「質」を生み出すやり方があるとわかるところから、遊びという文化の中に埋め込まれている「学び」が始まります。
うまくできる人に教わってみたり、うまいやり方について調べてみたり、もっといいアイデアがないか相談してみたり。
特にアート的な遊びを通して、子どもたちは世界にはいろんな質感のものがあることを知り、いろんな質感を生み出すスキルとそのレパートリーを身につけていきます(*2)。
実際、いまぼくの勤務している学童では、ブロックを使った「独楽」(コマ)を作る遊びが男子の間で流行しています。
コマの回し方や、作りたい大きさ、回したときの安定感に合わせたブロックの選び方、コマのデザインなどについて、子どもたちは試行錯誤を通して複雑なスキルとレパートリーを獲得しています。
自然のものも人工のものも関わりなく、身近な素材での遊び方を知ったとき、子どもたちは目を輝かせて遊び始めます。
近くの草花を絞って色水を作って染物をしてみたり、玄関先の石ころを並べたり崩れないよう積み上げてみたり。
遊ぶなかで素材に触れ、その質感を知り、その質感を変えるスキルとレパートリーを身につけていきます。
身近な素材で遊べることを知っている友だちや大人、その遊びを面白いと感じられる子どもがいないと、実際にはアート的な遊びは始まりません。
アート的な遊びを子どもに体験して欲しいと感じたら、まず子どもがいまどんな「質感」に興味を持てているか、探るところから始めてみるといいかもしれません。音が出るもの、色鮮やかなもの、かっこいいもの、かわいいもの、スリルのあるもの、おかしいもの?
子どものツボに響き、しかも自分が楽しいと思える遊びを子どもといっしょに探してみましょう。
たとえば、玄関先の石積みは危険だからやっちゃだめとなれば遊びは始まりません。
でも河原やお庭、あるいは公園で石積みができる環境を準備できれば、子どももお母さんも安心して遊べますよね。
お母さんの遊びの許容範囲が広がると、自然と子どものアート的な遊びも増えていくと思います。まずは大人が「遊びの引き出し」を増やしみてはどうでしょうか。
なぜって、子どもはもともと、アーティストですから。
(*1) K. Danko-McGhee and R. Slutsky “Preparing Early Childhood Teachers to Use Art in the Classroom” Art Education. Vol. 56, No. 4 (Jul., 2003), pp. 12-18
(*2)E, Pitri “The Role of Artistic Play in Problem Solving” Art Education. Vol. 54, No. 3, Early Childhood & Interdisciplinary Challenge (May, 2001), pp. 46-51
都内の学童保育・プレーパークの職員として勤務しながら、上智大学の共同研究員として芸術教育を研究中。特に図画工作の授業を通して、子どもたちがどんな問題を見つけてどんな風に解決しているのかを分析し、どのような学力や、創造性が身につくかということを探り、考えています。
2017年07月25日
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