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高まる不妊治療助成の需要。特定不妊治療助成とはどのような制度か
高額の医療費がかかる不妊治療。経済的負担の軽減を図るため、医療保険適用や、助成制度拡大への期待が高まっていますが、現状で受けられる特定不妊治療費助成とはどのような制度なのでしょうか。制度の概要や申請方法について改めて解説します。
不妊治療を受ける夫婦は急増している
タイミング法や人工受精、体外受精など、不妊の原因に応じて受けられる不妊治療。
その中でも、体外受精・顕微授精不妊治療費は保険適用外のため、クリニックによって治療費が異なるだけでなく、回数を重ねることで高額な治療費が強いられます。
不妊治療の保険適用や助成料金の拡大ついて期待の声が高まる中、現在さまざまな議論が起こっていますが、現状受けられる不妊治療費助成の内容はどのようなものなのでしょうか。
不妊症とは
「不妊症」とは、健康な男女が避妊をせずに性交をしているにもかかわらず、一定期間(1年が一般的)妊娠しないことと、日本産科婦人科学会は定義しています。
女性の卵巣内にある卵子は、新しく作られず加齢に伴い減少し、質も低下していきます。さらに、30歳を超えると自然に妊娠する力は少しずつ低くなり、35歳を過ぎると急激に低下。これには、閉経に向けて卵巣機能が低下していくことが関係しているといわれています。
生殖機能が低下するのは女性だけではありません。男性も同様に、加齢に伴って精子の質や精巣機能は低下していきます。
晩婚化が進む日本では、比例して妊娠・出産を希望する年齢も高くなり、不妊治療を受ける夫婦が増加。都道府県、指定都市、中核市が設置している不妊専門相談センターへの相談件数は年々伸びており、18年度からは2万件を超えています。
増加の背景として、生殖補助医療(体外受精、顕微授精、凍結胚(卵)を用いた治療)が年々進歩を遂げていることが考えられます。日本で実際に治療を経て誕生した子どもは、2015年に51,001人にのぼり、全出生児(1,008,000人)の5.1%に及んでいます。
現状の不妊治療支援
このような状況を受け、平成16年度より、特定不妊治療の助成制度が始まりました。
厚生労働省は、高額な医療費がかかる不妊治療の経済的負担の軽減を図るため、以下の条件が当てはまる場合に、不妊治療の費用を一部助成するとしています。
・法律上の婚姻をしている夫婦で、特定不妊治療以外の治療法によって妊娠の見込みがないか、又は極めて少ないと医師に診断された場合
・治療期間の初日における妻の年齢が43歳未満である夫婦
助成の対象となる治療は、体外受精及び顕微授精です。(以下「特定不妊治療」)といいます)
助成内容は、特定不妊治療に要した費用に対して、1回の治療につき15万円とされていますが、凍結胚移植(採卵を伴わないもの)等については7.5万円まで。また、初回の治療の場合は、凍結胚移植(採卵を伴わないもの)等を除いて30万円まで助成されます。
特定不妊治療のうち、精子を精巣又は精巣上体から採取するための手術を行った場合は、上記の助成ほか、1回の治療につき15万円まで、初回の治療に限り30万円までの助成が得られます。(凍結杯移植(採卵を伴わないもの)は除く)
通算助成回数は、初めて助成を受けた際の治療期間の初日における妻の年齢が40歳未満であるときは6回(40歳以上であるときは通算3回)までとなっており、平成25年度以前から厚生労働省による特定不妊治療の助成を受けている夫婦の場合、平成27年度までに通算5年間助成を受けていると助成しないとされているため注意が必要です。
ただし、これらの特定不妊治療の助成が受けられるのは、夫婦合算ベースで730万円の所得制限以内の世帯とされています。また、助成を受けるためには、事業実施主体(都道府県、指定都市、中核市)において医療機関が指定されており、指定機関以外の場合は助成が受けられないため注意しましょう。
特定不妊治療費助成を受けるには
特定不妊治療費の助成を受けるには、どのような手続きが必要なのでしょうか。ここでは、東京都の場合の流れと手続きついて、東京都保健福祉局の資料をもとにご紹介します。
指定の医療機関を受診
特定不妊治療費の助成を受けるには、指定医療機関を受診する必要があるため、地域の指定医療機関を調べ予約しましょう。
初診では、まず生理周期や生理の状態、妊娠・出産経験の有無や持病などについての問診が行われ、女性・男性共に、性欲や性交能力を含め、内分泌、栄養、免疫機能など、妊娠や出産に必要な機能を全体的に確認します。
女性の場合、経膣超音波検査で画像を見ながら、子宮や卵巣に異常がないかどうか内診を行い、血液検査や子宮卵管造影検査を実施。男性の場合は精液検査などを行い、原因となる不妊因子に対して、さらに精密検査を実施します。女性の検査は、月経周期に合わせて行われるため、一通りの検査を終えるまでに一般的に1〜3カ月ほどかかります。
その後、不妊原因や年齢などを考慮し、基本的には自然妊娠をサポートするタイミング法からスタート。妊娠が得られなければ、より高度な治療にステップアップしていきます。
東京都では、治療のステージによって受けられる助成の金額が異なり、
治療ステージA 20万円(30万円)
治療ステージB 25万円(30万円)
治療ステージC・F 7.5万円
治療ステージD・E 15万円(30万円)
治療1回につき、各ステージで設定されている上限金額まで助成します。(初めて助成を受ける場合は、カッコ内の上限額が適応されます)
複数回の治療を受けた場合、「治療終了日」の早い順番で承認されます。初回(1回目)として助成を受けた治療よりも前に終了していた治療を後から承認することはできないため、初回の助成上限額を受けることを予定している場合には注意が必要です。
また、東京都の場合は、事実婚の夫婦についても、
(1)「1回の治療」の初日から申請日まで夫婦が継続して東京都(八王子市の区域を除く)の同一住所に住民登録があること。
(2)住民票の続柄に夫(未届)、妻(未届)等の記載があり、他に法律上の配偶者がいないこと。
の条件を満たすことで助成を受けることが可能です。
助成を利用するために必要な手続き
助成を受けるためには、まず必要な書類を用意し、郵送で申請します。東京都の申請の場合、以下の(1)から(6)の書類が必要です。
(1)特定不妊治療費助成申請書(原本)
(2)特定不妊治療費助成事業受診等証明書(原本)
(3)住民票の写し(原本)
(4)戸籍全部事項証明(戸籍謄本)(原本)
(5)夫婦両方の所得関係書類(下記のいずれか・コピー可)
・住民税課税(非課税)証明書
・住民税額決定通知書
(6)領収書のコピー(指定医療機関が発行したもの)
申請期限は、助成対象となる「1回の特定不妊治療が終了した日」の属する年度末(3月31日消印有効)で、いかなる理由でも申請期限を過ぎた場合は助成対象となりません。
(例)令和2年8月6日に治療終了の場合 申請期限=令和3年3月31日(消印有効)
申請日は、郵便局の消印日になりますが、特例として、1月から3月までに特定不妊治療が終了したもので、3月31日まで(当該年度内まで)に申請書等が提出できない場合は、4月1日から6月30日(消印)までの期間に限って申請が可能となっています。
(例)令和3年2月14日に治療が終了した場合 申請期限=令和3年6月30日(消印)
ただし、同じ治療でも5月中に申請する場合と、6月中に申請する場合で所得の審査対象年度が変わるので注意が必要です。
審査結果通知は申請後約3~4カ月後に届き、それから約1カ月後に指定口座へ助成金が振り込まれます。
特定不妊治療費以外の助成の活用も
不妊治療の経済的負担を軽減する助成制度は、特定不妊治療費以外にも、さまざまなものがあります。
一般不妊治療といわれる、不妊検査及び薬物療法や人工授精等にかかる費用の一部を助成する制度は、都道府県・各市町村により対象となる治療や給付内容などが異なり、東京都では、保険医療機関にて行った不妊検査及び一般不妊治療に要した費用(保険薬局における調剤を含む)について、5万円を上限に助成しています。
そのほか、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1カ月で決められた上限額を超えた場合、その差額額を受け取ることができる、健康保険の高額療養費制度による還付金や、厚生労働省の助成制度とは別に、都道府県・各市町村が独自に行っている支援もあります。
特定不妊治療費、ほかの助成制度ともに、必要な書類や申請方法は地域によって異なります。不妊治療を検討する際は、自治体のホームページもあわせて確認するとよいでしょう。