「ブルマとヤムチャは邪魔だった」伝説の編集者が明かす『ドラゴンボール』をバトル漫画に変えた奇跡の一手
「君の思いはどうでもいい。直せないならプロじゃない」
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連載当初は冒険物語だった『ドラゴンボール』は、なぜ途中からバトル漫画に変わったのか。担当編集者だった鳥嶋和彦さんは「アンケート順位が下がっていたから、しょうがない。ここで動かなければ、作家が食べていけない。『作家や作品を尊重する』とは、意気地なしが言う言い訳にすぎない」という――。
小学生時代の愛読書は、中央公論の哲学書
【鳥嶋】おいくつですか?
――47歳です。
【鳥嶋】いま、J-WAVE「TOKYO M.A.A.D SPIN」というラジオ番組に月一で出ているんだけど、裏テーマのひとつが「なぜ40代はダメなのか」。
――どういうことですか?
【鳥嶋】頭もいいし、仕事に対する熱意もある。だけど、自分に自信がなくてやたら数字を気にする。無難なものはつくれるけど、新しいものはつくれない。なぜこうなったのか。いろんなジャンル、いろんな人にインタビューするんだけど、最終的に「40代に迫力がない」という結論は一緒なんだよね。どう思う? 反論してほしいんだけどね。
――正直、いま言われたことはグサグサきます。
【鳥嶋】だから、今の漫画は、どれも飲食チェーンみたいだなって。値段がリーズナブルで中身も一定の味がある。でもどこに行っても同じ。そういうのばかりだと、本当に美味いコーヒーか、本当に不味いコーヒーか、両極端を飲みたくなるんだよね。
いま、渋谷とか、六本木とか、再開発の街を見ると分かるけど、全部個人商店が消えてるじゃない? どこに行っても同じ。あんな大手の不動産屋に“街”はつくれないんだよ。なぜなら歴史があって、個人の生活があって、味があって、それぞれの商店街がある。
なぜ40代がダメかということと、再開発の問題とかいろんなことの根っこが全部つながるわけ。
――本づくりだけではなく、社会全体の問題だと。
【鳥嶋】そう。だから、みんなちゃんと自分の頭で考えて、自分が最初に見たときに感じたことをちゃんと大事にしてるかって。みんな外に外にだけ関心が向くわけ。自分に対しての関心がない。なぜかというと、スマホの普及で「待ってれば届く」ということに慣れちゃって、それ以外のところに出ていこうとしないから。
――鳥嶋さんは、そういう「40代」と違って、自信に満ちあふれていますよね。それは新入社員の頃からそうだったんですか?
【鳥嶋】そうだね。
――その根拠は何だったんですか?
【鳥嶋】圧倒的に頭がいいということを知ってるから(笑)。読書量が違うからかな。
――子どもの頃は?
【鳥嶋】小学生のときに中央公論の哲学書を読んでた。人間は何のために生きるのか、人間はどうしてここに存在しているのかということを考え始めたら、そういう本を読まざるを得なくなった。
――クラスメイトと話が合いましたか。
【鳥嶋】クラスのやつと話が合わないというのは最初から分かってるから、相手にしない。そいつらとバカなことをやるんだったら、図書館に行く。友達は中央公論の哲学書とか岩波文庫だね。そこに行けば、周りのバカなやつとバカな話をしたりしなくていいし、いじめとかとも関係ない。合わせようとするから狭い社会の中で何かが起きるんであって、本の中にはものすごい自由な世界があるわけ。自分が好きなところに行ける、好きなものに出会える。想像の翼さえあれば、いろんなところに飛び立てるんだよ。