仕事が覚えられない原因は「やる気」ではなかった…「部下が発達障害」そのとき産業医が上司に伝えていること
チームを率いる立場になって診断を受ける場合もある
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発達障害の診断を受けている部下に、上司はどんな接し方をすればいいのか。大手外資系企業を中心に年間1000件以上の面談を行っている産業医の武神健之さんは「発達障害を打ち明けられることや、発達障害の部下にどう接するといいのかといった相談をされる機会が10年前よりも増えていると感じる」という――。
発達障害と打ち明けられることが増えた
こんにちは。産業医の武神です。産業医の現場では、「実は私、発達障害なんです」と打ち明けられることがたまにあります。発達障害(正式には神経発達症)という言葉が普及してきたこともあり、10年前よりもこのような機会は増えていると感じます。同時に、彼・彼女らの上司とも、発達障害の部下にどう接するといいのかといった、相談を受ける機会も増えてきました。
そこで今月は、部下に発達障害の方がいたときに、どのように向き合えばいいのか。実際に私が経験した症例とともにお話しさせていただこうと思います。
最初は営業部に新卒入社した男性社員Aさんの話です。入社4カ月目頃、仕事がなかなか覚えられない、電話の内容を先輩に伝えたり、複数の訪問予定を管理するような基本的なことすら覚えられないと、過重労働面談で教えてくれました。涙目になっており、かなり精神的に追い詰められているようで、さらに聞いてみると睡眠障害の他に、出社がつらいとも教えてくれました。産業医として彼には、メンタルクリニックの受診を勧め、翌月にも産業医面談をしました。
部署異動により活躍できたAさん
Aさんは精神科を受診したところ、適応障害と診断されたのですが、その後の検査で発達障害であることが判明しました。彼の抱えていた困りごとはまさに、マルチタスクの苦手さ、コミュニケーションの苦手さという、彼の“特性”に起因すると思われました。
主治医の勧めもあり休職となりましたが、休職中に主治医や産業医と面談を重ねるうちに、与えられた課題を深掘りすることや集中力に強みがありそうなことが見えてきました。
Aさんは、休職という“間”をとれたこと、主治医や産業医との対話を通じて、自分の得意不得意を把握できたこと、それを会社に伝えることができたことなどが功を奏しました。会社側が、Aさんの“得意(強み)”に合わせて復職時に部署異動をしてくれたのです。
私のクライエントの多くの外資系企業では、社員はその部署で働くことを前提として雇われており、労働契約にはどのような業務(Job Description)をやるかが明記されています。従って、簡単に部署移動はできないのです。なので、Aさんはとても幸運だったと思います。そして、Aさんは現在、その才能を存分に発揮し、活躍しています。