来客数「1日120人→250人」創業90年、荒川区の小さな銭湯がサウナを廃止して始めた"超高付加価値サービス"
「地域から銭湯をなくしたくない」4億円超かけた覚悟のリニューアル
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東京の銭湯は減少し続け、現在はピーク時の1割以下となっている。そんな中、リニューアルにより1日の来客数を120人から250人へ倍増させたのが荒川区にある「斉藤湯」だ。いったいどのような取り組みをしたのか。ライターの圓岡志麻さんが取材した――。
銭湯の現状と新しい銭湯
「銭湯」が若い人を中心に、ちょっとしたブームになっている。いわゆる「サ活」人口の増加が直接のきっかけで、その背景にあるのが、浴場としての機能以外に付加価値を備えた「新しい銭湯」の台頭だ。
新しい銭湯では、例えばおしゃれな建築や、ドリンク・フードの充実、企業とのコラボイベントなど、これまでにない銭湯の魅力を発信。若年層まで客層の裾野を広げている。もちろんサ活ブームの中、サウナに力を入れる銭湯もある。
戦後、公衆衛生のために全国につくられた銭湯だが、家庭風呂の普及とともに、1960年代をピークに減少を辿る。例えば東京都では1968年に約1万8000件あった銭湯が、現在は1562件と1割以下になっている(全浴連調べ)。
それに加え、施設の老朽化や後継者不足、燃料費の高騰などが理由で、多くの銭湯が廃業しているのが現状だ。
一見普通のこぢんまりとした町の銭湯
銭湯の経営者にとっては存続の危機である。しかしそれだけでなく、日本ならではの良き文化を未来に伝えていきたいという思いから、今の時代に合った銭湯を模索しているところも多い。
東京都荒川区・日暮里の「斉藤湯」も、そうした新しい銭湯の一つ。
一見は普通のこぢんまりとした町の銭湯だが、お湯を主役に、楽しめる、そして心地の良い空間が作り上げられている。
まず浴室には露天風呂を含めた5つの浴槽があり、22度から44度まで5つの温度帯で管理されている。22度はほとんど水だが、一旦浸かってしまえば、いつまでも入っていたい心持ちになってくる。冷たくても入れるのは、この施設の水が地下水を専用の機械で調整した超軟水で、肌あたりがやわらかいせいもあるだろう。
露天風呂は非常に細かい泡(ナノバブル)を立てた「シルキーバス」。入浴剤は何も入っていないが、ナノバブルによって白濁しているように見え、肌ざわりが滑らかだ。41度とぬるめなので長く入っていられる。
お湯に弱い電流を流し、体をほぐす「電気風呂」もある。