ここまでしないと芸能界から性被害はなくならない?…中居フジ問題で見落とされている業界の構造的な欠落
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中居正広氏の起こした事件で見逃されていることは何か。芸能業界の労働環境やハラスメントの改善に取り組んできた日本芸能従事者協会代表理事の森崎めぐみさんは「ハラスメント被害を受けた人は精神のバランスが崩れ、通常の仕事ができなくなることが少なくない。一方で、テレビ番組の視聴率を背負うような影響力のある芸能人も尋常ではないプレッシャーを抱えている」という――。
アンケートで「ホテルや自室に呼ばれた」という回答が23.7%
――中居正広さんがフジテレビ社員の女性に性加害をしたという事件、3月31日に公表されたフジテレビ第三者委員会の調査報告書を読んで、どう思われましたか?
【森崎】気になったのは、調査期間が約1カ月半と短いこと、第三者委員会が弁護士だけで構成されていたこと。他の立場の人間として芸能界で働く当事者、私が代表を務める日本芸能従事者協会もそうですが、芸能界におけるハラスメントの原因や実態をよく知っていて、相談を受けたり解決に向けて取り組みをしている人が判断していれば、事件発生時に取るべきだった対策、これから取るべき対策が、もう少し具体的で実効性のあるものになったのではないかと思います。
――具体的な再発防止策とは、例えば何がありますか?
【森崎】私たちが取った芸能界でのハラスメントについてのアンケートでは、「ホテルの部屋や自室・酒場に呼ばれた。あるいは見聞きした」という回答が417人中99人で、全体の23.7%。「レイプ(同意のないセックス)をされた。あるいは見聞きした」という回答も46人、11%という結果になりました。
まず、密室での会合を禁止しないと、性加害はなくならない。既に海外の芸能界では禁止している国が多いです(米俳優労組は密室でのミーティング廃止を要請)。芸能の仕事に打ち合わせはどうしても必要なので、プライバシーが守られるように、慣例で場所をホテルや個人の部屋に設定されがちですが、ハラスメントの温床になっている以上は禁止するルールを作るべきです。法制化できればいいですが、その前にテレビ局はもちろん、エンターテインメント業界の団体などが自主的に禁止できるのではないでしょうか。
第三者委員会の報告書には客観的な事実は正しく書いてありますが、なぜこうなってしまったのか、これをどう防ぐのかという記述が少ないように感じました。「誰が悪い、何が悪い」という報告ではなく、これを受けて、もう一度、具体的な提言書を出してもいいのではないかと思います。
フジテレビは外部の意見を聞き、労働環境を変えるべき
――「誰が悪い」で言いますと、フジテレビの社長たちが、性暴力を受けた女性社員への対応について「彼女が笑顔で番組に復帰するまで何もしない」など、楽観的に考えていたのはなぜでしょうか?
【森崎】トップの人たちには、やはり根本的な現場の理解が足りなかったのではないかと思います。性被害の深刻さへの理解や、この問題を放置したら今回のような会社の存続が問われる事態になるということにも理解が足りない気がします。
根本的な解決のためには、組織の何を変えて各個人がどう変わったらいいのかを考えなければ、同じことの繰り返しになりかねません。組織においては透明性と相互監視が必要です。組織を構成するどの部署の方でも全員が「ハラスメントはダメだ」と自然に言える環境にすること。なぜこうなってしまったのかを、せめて外部の人間を入れて真摯な議論をしないと、状況は改善しないと思います。