インド人から「サル」と呼ばれて真実に気づいた…海外で必要な英会話にTOEICはまるで役に立たないワケ
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英会話には自信がないが、海外旅行はしたい。行くだけでなく、現地の人とできるだけコミュニケーションを取って満喫したい! 果たしてどうすれば楽しく地球を歩けるのか、あの書籍編集室に聞いてみた──。
旅行前に覚えたトラベル英語の定型文
高校時代、祖母の遺品にあったのが「地球の歩き方 インド」。持ち帰り、大学生になって何げなく開いたことが、その後繰り返した海外旅行のきっかけでした。バックパッカーとして世界中を旅し、のちに「地球の歩き方」編集室に配属。このシリーズは現在、160の国と地域を網羅していますが、私は担当した本が出ると、それを手に自腹でその地域を訪れていました。
ちなみにシリーズでは「地球の歩き方 トラベル会話(1)米語+英語」という英語の書籍を発行していたことも。今回旅の英語の話をしようと2004年発行の号を開いてみると、トラベル英語の定型文を覚えてから海外に出かけた人が多かったことがわかります。今は、アプリなどが英会話を助けてくれるので、海外旅行のハードルも下がっています。定年延長が増え、「引退してから」はいつ来るかわかりません。海外は行きたいときが行くべきとき。スマホをバディに今すぐ旅の準備を。
世界各国を旅した結論
TOEICスコアは不要、単語の羅列で切り抜ける
タージ・マハルの前で世界史の断片に出合う
これまで私が旅してきたのは、世界70カ国以上。学生のときは1回の海外旅行が40~50日間ということもザラで、多くの時間を海外で費やしてきました。とはいえ私の旅の英語を振り返ると、ネイティブのようなかっこいい英語は使っていない。旅先で英語は使っているのですが、出てくるのは短文や単語のことが多かったですね。
チケットを買ったりするだけなら、定型文をいくつか頭に入れつつ、知っている単語を並べればだいたい通じます。世界の人が集まるゲストハウスのようなところでのおしゃべりも、定型文の使い回しで乗り切れることがほとんどでした。「どこから来ました?」とか、「大学で○○を勉強しています」といった簡単なフレーズです。
ちなみに旅の醍醐味とは何かを聞かれたら、私は「世界史の教科書に1行だけ書かれていることが、何倍もの壮大なストーリーを語り出すこと」と答えます。例えばインドのタージ・マハルです。この墓は当時の王が造らせたもの。その後、王の三男が、病に倒れた王を幽閉し王位を奪ったところまでは、参考書で知っていました。そのため三男のイメージは、ひどいヤツ。
ところが、実際にタージ・マハルに行くと、その幽閉の背後にある別のストーリーが見えてきました。王が、国の予算のほとんどすべてをつぎ込んで造った愛妻の墓だったということが、贅を尽くしたその建物からもわかりました。それなら三男が父を幽閉したのも、ただの暴虐とは言えません。三男の国を思う一心からの行動という一面が見えてきたのです。
旅の醍醐味は人それぞれ違いますが、私の場合はタージ・マハルのほかにもエジプトのピラミッドに心奪われるなど、今も残る世界史の断片に出合えることがそのひとつと考えています。そして貴重な情報源となってくれるのが、名所などの前に出ている英語の説明看板。三男のイメージががらりと変わるような詳しい背景を知ったのも、タージ・マハルにあった説明看板を読んでのことでした。
日本人は、英語の聞くと話すが苦手な一方、読み書きはしっかりこなせるという人が多いですよね。私もそのタイプ。文字なら書き留めて、あとで読むこともできる。だから看板にあった英語の説明に好奇心を刺激されたことは多いものの、英語に邪魔されたという記憶はほとんどありません。
初めてのインドで「サル」と呼ばれて
とはいえ私は学校以外で英語学習をしてこなかったわけではありません。むしろ、いろいろな英語学習を経験してきたほうだと思います。それも旅を楽しむためにやった勉強ではないところがポイントです。例えば大学生のときに聴いていたのが、15分間のNHKのラジオ講座です。最初は勉強してきた英語を忘れないように。途中からは、海外に関わる仕事に興味を持ち、その準備として聴いていました。毎日録音して、1時間半かかる通学電車のなかで2回リピート。帰りはラジオ講座のテキストを開いて、翌日の予習をするというルーティンでした。
ところが1年近くラジオ講座を聴いてインド旅行に行ったところ、まったく通用しなかったという苦い経験をしたのです。例えば「グッドモルニング、サル」と挨拶をされ、猿かと思ってギョッとすることも。インドではRを発音することを知り、やっと「グッドモーニング、サー」とわかりました。標準的英語は、世界で使われている英語のごく一部だったことも知りました。
就職対策としてTOEICの点数アップに情熱を燃やしたこともあります。英語学校に通い、スコアは最高760点に。ただし旅で役立ったかというと、はっきり言って効果はゼロ。長文読解など苦労して解いても、ほとんど旅の役には立ちません。結局、社会人として出かけた海外でも、定型文と単語でたいていの場面を切り抜けてきました。
正しい文法や綺麗な発音にこだわる日本人は多いですが、私はすぐに白旗を揚げた。意味がわかる程度の英語でいいから、積極的に発しようという作戦に切り替えたんです。