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朝型/夜型は遺伝子で決まっている。生まれつきの子どもの資質は変えられる?
男性の育休取得が度々話題になり始めてから早数年。男性の育児にまつわる環境や意識は変化しているのでしょうか。今回は「父親育児のススメ」をテーマとして、公立小学校で23年間、それ以降もたくさんの親子に接してきた教育評論家の親野智可等先生に話を聞きました。聞き手は、2023年に1児の父になったお笑い芸人EXITのりんたろー。さん。前編である今回は、りんたろー。さんに、親力診断テストに挑戦していただきました。
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子どもが朝起きられないのは遺伝子で決まっている
ーー今回は父親の子育てにフォーカスしてみたいと思います。現在10カ月のお子さんを持つりんたろー。さんに、親野先生が今回特別に考案された親力診断テストに挑戦していただきます。
りんたろー。:僕はBの「子どもが自立するために、起こさない」ですね。もちろん、起こしてあげるのもいいと思うけど、子どもの成長を考えると、自分で朝起きれるようになってもらいたい。なので親ができることは、カーテンを毎日同じ時間に開けてあげるみたいに、生活リズムを作ってあげることなのかなと思いました。。直接起こすのではなくて、環境を整えてあげたいですね。。
親野:なかなかよい理由ですね。ただ、今回は診断テストなので独断と偏見で点数をつけると……、これは0点です。
りんたろー。:0点ですか(笑)! 起こしてあげるほうがいいんですか?
親野:そうです。りんたろー。さんが言ってくれたように、親が起きる環境を整えてあげることも大切ですが、それでも起きられない子は起きられないんですよ。子どもも大人も同じく、朝型の子もいれば夜型の子がいて、、それは生まれつきなんですね。ちなみにりんたろー。さんは朝型夜型どちらですか?
りんたろー。:僕は朝型夜型というより、とにかく寝なくても大丈夫なタイプです。4時間睡眠で足りるので、現状、育児もそれでなんとかなってると思っています。
親野:実は朝型か夜型を決める遺伝子はすでに特定されていて、アメリカの研究では「クロノタイプ」といって、睡眠や生活リズムは、遺伝子によって4つのパターンに分けることができるとされています。
ショートスリーパーの、りんたろー。さんはイルカ型ですね。
このように遺伝子レベルでタイプが決まっているので、どんなに工夫しても起きられない子はいるんです。起きられるようにいろいろ工夫することは素晴らしいけれど、それでも起きられない子は起こしてあげるのがよいでしょう。
生まれつきの資質は子ども時代には直らない
りんたろー。:これもBですかね。でも、大人になれば直るだろうというより、マイペースって悪いことなのかな?というのが疑問です。それもひとつの個性だし、そもそもマイペースは直らない気がします。
親野:100点です! 学問的な研究で発表されているわけではありませんが、私の経験上、マイペースな性格も生まれつきだと思っています。。性格が親のしつけや環境で変わるとしたら、きょうだい全員が同じにならないとおかしいけれど、私の経験上、全然違いますからね。
同じ家で育ったのに、ひとりはせっかちでテキパキして、もうひとりはのんびりしていることがよくあります。このような生まれつきの資質というのは、子どものうちには直りません。大人になって仕事をするようになって、はじめて直さないといけないというモチベーションが高くなることで、はじめて生まれ持った資質も少しは改善するんです。
子どもの資質を変える工夫を楽しむ
りんたろー。:うーん、Aですかね。ただ、親のしつけというよりは、親の環境づくりが影響するのかなと。たとえば家がごちゃごちゃしていても平気な親もいるけれど、それだと、子どもは「ごちゃごちゃしている状態」でいいと思ってしまう。逆にスッキリしている状態であれば、「片付いている状態」が気持ちがいいと、親自身が教えてあげることができるかと思いました。
親野:素晴らしい。だけど、0点。
りんたろー。:また0点!(笑)
親野:おっしゃることはごもっともで、親が環境をよくしたり、しっかりした生活態度で過ごすことは、少しは子どもに影響があります。しかし私の経験上、片づけがうまい子のほとんどは生まれつきです。
なぜなら、きょうだいでもできる子とできない子がいるからです。環境やしつけで決まるならきょうだいが全員できるか、あるいは全員できないかどちらかのはずですよね。環境をよくすることは大事だけれど、生まれつきの資質を直すのはなかなか簡単なことではないですね。
りんたろー。:片付けられないのは仕方ないと諦めるしかないんですか?
親野:もちろん工夫することはよいことです。だけど、工夫を凝らしたからといって、生まれ持ったものを変えることは難しい。だからこそ、生まれつきの性質だからということを理解したうえで工夫をすることが大切なのです。工夫したからうまくいくだろうと期待してしまうと、うまくいかなかったときに叱りたくなったりするので。工夫自体を楽しむのがよいと思います。
りんたろー。:なるほど、勉強になります!
親野:りんたろー。さんは親力診断テストとしては300点中100点でしたが、でもお話を聞くなかで、育児をしっかりとして、お子さんをよく見ていることが伝わりました。
情報に惑わされずに自分なりの愛情のかけ方を
りんたろー。:TikTokでパパが育児にかかわると色々いいことが起こると見たけど、そんなことはあるんですか?
親野:アメリカやイギリスの有名な研究があり、お父さんが育児にかかわることで、子どもの自己肯定感やコミュニケーション能力が高まったり、前向きな人間になったりすると発表されています。
りんたろー。:エビデンスがあるんですね!
親野:ただ、それは父親だけにかぎらず、おじいちゃんでもおばあちゃんでも、あるいは同性のパートナーでも、育児にかかわる人数が増えればよい結果が出るのは当たり前なようにも思います。
それにこのような研究は平均値に過ぎないです。本当はケースによってデコボコがあるはずだけど、数字をならすとこういう結果になるというだけ。だから、たとえばシングルマザーで子どもを育てる人が「父親がいないからうちはもうダメじゃん」と思う必要はありません。
科学的な根拠は事実として捉えておきながらも、自分は自分のやり方で愛情をかけてあげればよいと思います。実際、私の教え子でもシングルマザーに育てられた子がたくさんいましたが、しっかりすくすく育っていま大活躍している子もたくさんいますから。
りんたろー。:表面的にとらえて落ち込む必要はないということですね。
親がいっしょに大騒ぎすることで子どもの脳が育つ
りんたろー。:うちはいま10カ月の子どもがいるんですが、どのように育児に参加していくのがよいですか?
親野:語りつくせないくらいたくさんありますが、2つご紹介します。1つ目は遊びを大事にすること。じゃれ合って遊んだり、指相撲や風船バレーなど、家の中でできるような遊びでも運動の感覚が鍛えられたり、脳や身体の成長に寄与したりすることがわかっています。
このときに大事なのは、子どもに負けないくらい親が大はしゃぎする姿を見せることです。大騒ぎしながら遊ぶと、脳のなかの偏桃体という部分が活性化します。
大人でも子どもでも大騒ぎした後、必ず落ち着く時間があるかと思います。例えば、食事しようと切り替えるときなど。このとき、脳の前頭前野が偏桃体にブレーキをかけるのですが、実はこの経験が非常に大切なのです。
この経験によって脳の前頭前野が偏桃体にブレーキをかける訓練ができます。すると、ムカッとしたときなどにも感情的にキレるのを抑えられるようになります。なぜなら、ムカッとしたときも大はしゃぎしているときと同じ扁桃体が活性化しているからです。
大はしゃぎをしているときと、ムカッとしたとき、実は脳は同じ働きをしているので、日頃から遊びを通して訓練することができるのです。
りんたろー。:すごい勉強になります! 全力で遊ぶことで、メリハリをちゃんとつけれるようになるんですね。とはいえ、たとえば〇〇ごっことかでも、僕は普段からコントをやっているからできるけど、恥ずかしいパパもいると思うんですよね。それでも、殻をやぶって本気でやったほうがいいんですか?
親野:殻を破るっていい表現ですね。たしかに、子育ては今まで勝手にかぶっていた殻をぶち破るいい機会です。子どものために殻を破れるから。たとえば子どもと一緒に歌ったり踊ったりするのが本当は苦手なパパでも一生懸命やっていたら、それを見ている子どものリミッターも解除されます。
それだけではなく、親自身が人間としてひと回り大きくなれる。脳も鍛えられ、仕事でもプレゼン力や表現力につながったりもするんですよね。だから、子育てを頑張ることは、パパにとってもメリットがあるんですよね。
りんたろー。:ママも引くくらいやっちゃってもいいんですね!
親野:子どもが引くくらいやってもいいですよ(笑)。
悪いことをしたときこそ、徹底的に話を聞くべき
親野:2つ目は、否定的な表現をなるべく使わないこと。「なんでできないの?」「ダメでしょ」と言われ続けると、自己イメージが悪くなるんです。人間は誰でも「私はこういう人だ」という自己イメージを持っていて、自己想像をするときの設計図になっています。
この設計図は親や周りの人の言葉で作られて、その設計図に合うように自然と自分を作っていくのです。いつもダメだと言われていたら、チャレンジもしなくなるし、すぐに諦める子どもになってしまいます。
一方で、肯定的な言葉をかけ続けられた子は、根拠のない自信を持っていて、チャレンジ精神があるし、すぐに諦めずに壁があっても乗り越えられる。子どもの自己肯定感が高くなるように考えて子どもに接していたとしても、「なんでできないの?」「ダメでしょ」といった言葉を使っていたら、もしかしたら台無しにしてしまっているかもしれません。
りんたろー。:なるほど。ただ、そうはいっても、たとえば弟や妹を叩いちゃったとしたら「叩いたらダメだよ」と言ってしまうと思うんですが、否定的な言葉を使わないとしたら何と言ったらいいですか?
親野:そういう状況で親が感情的になるのはよくないです。まず親が深呼吸して冷静になりましょう。それから子どもと同じ目の高さになるように座ってください。上からガンガン言われると子どもは怖いので、心理的バリアを張ってしまい、一切言葉が届かなくなります。
そもそも子どもは、人を叩いたらいけないことくらいわかっています。頭ではわかっているのに「弟がおもちゃ取ったくらいで叩いたらダメだよ」と正論を押し付けられてしまうと悲しいですよね。そうではなく、「おもちゃ取られてイヤだったよね」と共感や代弁しながら徹底的に話を聞いてあげること。
共感することによって、ママやパパは自分をわかってくれると信頼感が上がるので、そこではじめて「これからはどうしようか?」と問いかける。そうすると自分から正解を導き出すことができますよ。叩いたらダメということは本当はもともと知っているのですから。
後編はこちら▽▼▽