なぜ万博の警備員は自ら土下座したのか…日本人が「謝罪=土下座」文化から抜け出せない根深い事情
Profile
大阪・関西万博の会場で、警備員が来場者に土下座する動画が拡散された。ビジネスコンサルタントの新田龍さんは「クレーマーが最大の謝罪の形として土下座を強要する行為が後を絶たない。一方で、従業員側が“自衛”として自ら行うこともある」という――。
国際イベントで起きた騒動の真相
2025年大阪・関西万博が開幕し、連日万博関連のニュースがメディアを賑わしている。そんな中、4月22日にSNS上で突如「万博の警備員」というワードがトレンド入りした。
それは、万博の会場入口付近で、腕を組んで激昂している様子の来場者らしき人物の前で、警備員が土下座をしている動画を紹介するものであった。当該動画は早速民放テレビ局でも報じられ、そのニュース映像が更に拡散されていたのだ。
ネット上では「動画撮影者によると、来場者は警備員さんに《土下座しろ》的な大きな声を発していたようだ」「土下座を強要するなんてカスハラ(カスタマーハラスメント)では?」と波紋を呼ぶこととなった。
本件はその後、日本国際博覧会協会側より「土下座は来場者による強要ではなかった」と正式発表がなされている。経緯としては、警備員が来場者から駐車場の場所を尋ねられたものの、正確な場所を把握していなかったため、当該警備員は会場情報が表示されるデジタルサイネージ(電子看板)へ案内した。しかし、来場者から「なぜわからないのか」と指摘され、詰め寄られたため、警備員は身に危険を感じ、自ら土下座をしたものだという。
また、その場に居合わせて来場者を制止したという人物のSNS投稿によると、件の来場者は確かに「謝れ!」と怒鳴ってはいたものの、「土下座をしろ!」と言ったのではなく、土下座した警備員に対して「土下座をしろなんて言ってない!」と怒っていた、との経緯だったようだ。
極めて日本的な「誠意の表現」
土下座に至った経緯はさておき、この動画をきっかけに、「なぜ今も日本では土下座を強要するような光景が見られるのか?」「土下座強要は罪にならないのか?」「なぜ理不尽な要求に応じて、土下座してしまう人がいるのか?」といった問いが再燃している。
「謝る」という行為は世界中にあるが、「土下座」という形式をとるのは、極めて日本的であるといえよう。そこには歴史的、文化的、社会心理的な背景が絡み合っている。さらには、現代においては人権侵害やハラスメント、違法行為としての側面も色濃く持っているにもかかわらず、依然として「反省の証」「誠意の表現」として受け入れられがちだ。
今回は、「土下座文化」の根源と実態、強要する側・従う側の心理、法的な位置づけ、そしてこの文化をどう克服していくべきかについて、多角的に考察していこう。