「コメ農家の時給10円説」はウソである…日本人に高いコメを買わせ続ける農水省・JA農協の"裏の顔"
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「農家を守るために、コメの値段は上がっても仕方ない」という意見がある。本当にそうなのか。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「コメ農家の時給は10円とする農水省の統計があるが、この数字にはカラクリがある。コメの値段が上がっても農水省とJA農協の利益にしかならない」という――。
「時給10円」のカラクリ
コメの騰貴が国民生活を圧迫するなかにあっても、いまの価格を「農家を守るためには仕方がない」と容認する声がある。彼らがそう考えるもととなっているのが、「コメ農家の時給が10円」という統計データの存在だ。
農水省「営農類型別経営統計」によると、2020年181円、21年10円、22年10円、23年97円のようである。これによって、もっと米価を上げろとか農家への補助金を増やせとか主張されている。農業経済学の某東大教授も一緒になって「時給10円は少なすぎるので、もっと農業予算を増やせ」と主張している。
しかし、不思議に思わないだろうか? これだけの低い時給で、どうしてコメ農業を続けるのだろうか? パートに勤めたほうがもっと高い所得を上げられるのに、なぜそうしないのか? 農家は私利私欲を度外視してまで、食料安定供給という崇高な理念に燃えて、国民のためにコメ農業を続けているのだろうか?
この農水省の「営農類型別経営統計」という統計を信じてよいのだろうか?
これには技術的な問題がある。上記の数値の計算に当たっては、分子の所得からは雇った人に対する賃金は引かれているのに、分母の労働時間には雇った人の労働時間も含まれている。これだと、分子を小さく分母を大きくし、時給を低く推計することになる。これは統計がおかしいのではなく、時給を計算した人が統計を理解しないことによる間違いである。これを補正すると時給は大きくなる。
小さい規模では違いは少ないが、かなりの人を雇っている大規模層では、大きな違いとなる。補正した結果、中規模の階層の5~10ヘクタールでは406→470円だが、大規模な30~50ヘクタールでは910→1710円、50ヘクタール以上層では727→2216円と上昇する。