最後に一度でいいから我が子を抱きしめたい…熊本の看護師が「死産した赤ちゃん」のドレスを作り始めたワケ
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厚生労働省によると、「死産」は年間およそ1万5000件という。死産という言葉の裏には、子供を健康に産んであげられなかった母親たちの自責の念がある。看護師の山本智恵子さんは、本業の傍ら死産した赤ちゃんがまとう服を制作している。そこにはどんな思いがあるのか。ライターの山川徹さんが聞いた――。(2回目/全2回)
赤ちゃんを抱っこできなかった母親たちの悲嘆
――死産した赤ちゃんがまとう「エンジェルドレス」の制作にたずさわる経緯を教えてください。
【山本】きっかけは2017年の夏です。知り合いの助産師さんから、連絡をいただきました。
彼女が勤務する佐賀大学附属病院では、遺伝子疾患などを持つ赤ちゃんを妊娠したお母さんや、妊娠中に癌が見つかった患者さんを受け入れています。なかにはお腹のなかで赤ちゃんが亡くなってしまう患者さんもいます。
それでも赤ちゃんを抱っこしたい――。
出産の際に赤ちゃんが亡くなっていたとしても、ほとんどのお母さんは、そう希望します。
でも、死産の赤ちゃんは、一般の方々が想像する健康に産まれた赤ちゃんとは違います。身体が十分に成長していなかったりしますし、皮膚がしっかり形成されていなくて、脆かったり、血液や滲出液がにじんでいたりして、我が子を抱っこしたいというささやかで当たり前の願いすら実現しないこともあります。
亡くなっていたとしてもお母さんやご家族にとって、大切な赤ちゃんに違いはありません。
私もひとりの母親として、赤ちゃんを抱っこしたいという気持ちは痛いほどわかりました。出産は本当に命がけです。元気な赤ちゃんに会えるという希望があるから、つらいお産にも耐えられた。でも、もしも自分のお腹のなかで、子どもが亡くなっているとわかったら……。想像できないほどつらいし、怖い。
きっとお母さんたちは、健康に産んであげられなかった自責の念に苦しんでいるのだろうな、と感じたのです。
ステンレス製の膿盆に置かれた我が子
そんななか、佐賀大学附属病院では、死産を経験したお母さんへの精神的なケアを模索していました。
昔はガーゼで包んだだけの赤ちゃんの亡骸をステンレス製の膿盆に乗せてお母さんに見せるのが当たり前の時代もありました。いまも、お母さんが希望しない限り赤ちゃんと面会させない病院もあります。
そんなお母さんの絶望を目の当たりにしてきた助産師さんは「赤ちゃんを抱っこしたい」という希望をなんとか叶えてあげたいと考えていました。
のちほどお話ししますが、私は看護師の傍ら障害を持つ人向けの洋服の制作を手がけていたので、それを知った彼女から「たとえ死産だったとしても、我が子に会えて良かったと思ってもらいたい。そのためにも亡くなった赤ちゃん用のドレスをつくれないだろうか」と相談を受けたのです。
――具体的にはどんな要望があったのですか?
死産の赤ちゃんは性別がはっきりしていないケースもあります。火葬までの間に遺体の状態も変わります。それでも、かわいらしく見える色味やデザインにしてほしいとお願いされました。ゆりかごのようなドレスをつくってほしい、と。