ベビーカーのママをみんなが助けてくれる台湾…なのに日本より低い世界最低水準の「出生率0.89」の納得の理由
Profile
台湾の出生率は日本の1.2を大きく下回る、0.89。韓国の0.75やシンガポールの0.97と並ぶ世界最低水準なのはなぜなのか。ジャーナリストの池田和加さんは「『子供もお年寄りも大事』という美しい価値観のウラには、国の制度の整備の遅れや家事・育児に対する意識が男女で大きく異なることなどが隠れている」という――。
台湾の2023年の出生率は0.89と、世界最低水準にまで落ち込んでいる。日本(1.20)よりも低く、韓国(0.75)やシンガポール(0.97)に次ぐ深刻さだ。しかし、台湾は今や半導体製造のハイテク先進国。オードリー・タンなど性的マイノリティ(トランスジェンダー)や女性が政治的リーダーとなり、同性婚も合法化され、男女平等も日本よりずっと進んでいる印象がある。東アジアの優等生というイメージがあるが、なぜ、少子化が日本よりも加速しているのか。
参照:週プレニュー「韓国、シンガポール、台湾、香港は出生率1.0未満!! "絶滅危惧国&地域"で起きていること」
台湾の首都台北に20年以上住み、子育て中の4人の女性、そして、シンクタンクの研究者に取材をし、台湾の子育て問題を探ってみた。
台湾では妊婦や子連れに対する配慮が自然に行われる
台湾は「子どもは宝物」として扱い、赤ちゃんや母親を社会全体で大切にする文化が根付いている。公共の場では妊婦や子連れに対する配慮が自然に行われる。台湾の路上や駅では、「授乳室」や「離乳食を温められる設備」が整えられており、公共施設のトイレには必ずおむつ交換台が設置されている。
台北で子育てをする日本人女性たちは口々に言う。
「ベビーカーを押していると、老若男女に関わらず、すぐにさっとドアを開けてくれるほど誰もが子どもを大切にする」
「台湾から日本に帰国したときに、“子どもが迷惑をかけたらどうしよう”と緊張してしまう」
「赤ちゃんを連れて外食に行ったら、店で働いているおばちゃんだけでなく、若い女の子も“ママはゆっくりご飯を食べて”と赤ちゃんをあやしてくれる」
彼女たちによると、台湾の人々は快く妊婦や子連れ親を助けてくれ、子どもの騒音について他人にとやかく言われたことがないし、会社でもマタハラや「子持ち様」と揶揄されるなど経験したことがないという。
さらに特筆に値するのは、日本にはない「月子中心」と呼ばれる産後ケアセンターの存在だ。価格はまちまちだが、一日6000台湾ドル(約2万6000円)以上から利用でき、ホテルのような部屋でゆったりくつろげて、24時間体制でケアを受けられる。これは中国・韓国・台湾に伝わる「坐月子(ズオユエズ)」という産褥期の養生文化が現代的に進化したものだ。
また、台湾の祖父母は積極的に育児に参加し、予防接種なども家族全員で付き添ったり、子どもの学校に駆けつけたりする。日本では土日に母親だけが子どもを公園に連れていく姿がよく見られるが、一般的には父母が一緒に子どもを連れだし、祖父母も加わった「家族一緒」という考え方が強い。