「商店街のアイドル」は"小さな漫才師"だった…0円で小学生に漫才を教える「大阪のおっちゃん」(54)の正体
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大阪市西淀川区でスポーツジムを営む小川淳さんは、2011年から子どもに漫才を教える「お笑い道場」を開いている。完全無料で、小学生を中心に20人の子どもたちがここに通っている。小川さんはなぜこの活動を始めたのか。インタビューライターの池田アユリさんが取材した――。
「こどもお笑い道場」に通う子どもたち
2024年11月、「全日本こどもお笑いコンテスト」が行われる大阪市西淀川区の市民ホールへ向かった。
学校の体育館ほどの広さがあるコンテスト会場の一角で、出場者の子どもたちがカレーを食べている。近くにはルーがたっぷり入った大きな鍋が2つと炊飯器が3台。その横にコーンフレークと牛乳、駄菓子が並んでいた。
コンテストの時間が迫ると来場者が増えはじめ、100席ほどある椅子が埋まっていく。この大会は、入場料も飲食代もすべて無料だ。披露する漫才のネタを書いたメモを読み上げる子や、相方と練習を始める子、カレーのおかわりに夢中な子など、それぞれが自由に過ごしていた。
筆者も、カレーをいただいた。ふと、近くにいた少年たちと目が合い、「今日はどこから来たの?」と話しかけると、
「俺? チャリで3分くらいのとこから来てん。こいつはな、チャリでアメリカから3分で来たんやで。な?」
オレンジ色のつなぎを着た少年が答え、相方であろう緑色のつなぎを着た少年に話を振る。
「せやねん。今日は調子がイマイチでな。3分もかかったわ……って、なんでやねん!」
「小さい川やから『ちいかわ』やねん」
即興で漫才のようなやりとりをしている彼らは、大阪市西淀川区にあるフリースクール「こどもお笑い道場」に通っている。
指導に当たるのは、道場を運営する小川淳(54)さん。小川さんはスポーツジムを経営しながら、2011年に子どもたちが芸を磨く場所を作った。
全日本こどもお笑いコンテストは、小川さんの発案で2020年から始まった。今年で5回目を迎えた。これらのすべてをボランティアで行っているという。
先ほどの少年に、「小川さんって、どんな人?」と聞いてみた。
「ちいかわ? あ、小さい川やから『ちいかわ』やねん。見た目は怖いけど、ホンマは優しいよ」
漫才を教えてくれている先生をあだ名で呼んでいることに、思わず笑ってしまう。あだ名とはかけ離れたどっしりとした体つきの小川さんは、この日、裏方として忙しく動き回っていた。
いざ漫才が始まると、小川さんは審査員席に座り、子どもたちの出番を静かに見守る。子どもたちが観客にウケると、たびたび頬を緩ませている。彼の大きな目は、子どもたちをまっすぐ見つめていた。
いったい、この大阪のおっちゃんは何者なのだろうか?