だから東京は「機嫌が悪いおじさん」で溢れている…「どこにも逃げ場がない国」日本が抱える深刻な問題
Profile
機嫌よく過ごすために必要なことはなにか。解剖学者の養老孟司さんと精神科医の名越康文さんとの対談を収録した『虫坊主と心坊主が説く 生きる仕組み』(実業之日本社)より、一部を紹介する――。
なぜ東京の人は「怖い顔」をしているのか
――都内に住んでいる人、働いている人の表情を見ていると、怖い顔しているなと思うことないですか?
【名越】思いますよ。だから僕なんか、他人の顔をあんまり見ない。この20年ぐらいかな、他人の顔が怖くなったね。昭和の頃は、かったるいなみたいな感じの人が多くて、その後はしんどそうだったり、面倒くさいなっていうふうな表情だったり振る舞いだったりしたんだけど、最近は不満げな感じ。なかには寄らば切るぞみたいな人もいる。
【養老】それは感じますよ。人が集まりすぎているから機嫌悪いんでしょうね。お互いに気がついちゃうし。講演に行っても、なんでこんな機嫌悪いんだろうと思う人がいるよね。1時間喋ってる間、機嫌の悪いじいさんは何を話しても機嫌悪いまんまなんだよ。そんな顔するぐらいなら寝ててくれないかなとか思うんだけど。
男9割の講演会場は「生き地獄」みたいなもの
【名越】講演に呼ばれて、40代中心とか50代中心の男性ばっかりの講演って、講演者を殺す気かと思うこともありますよね。でも先日、おもしろいことがあったんです。広島の銀行主催の講演会に行ったら、男の人ばっかりなんですよ。ああ、きょうは独り言のような講演をせんといかんと下腹に力を入れて覚悟したんです。会場には200人ぐらい座ってはったんですけど、なんかザワザワしている。よくみると男同士が、おばちゃん同士の会話みたいにワイワイで喋ってるんですよ。
これはやりやすいと思って、10分ぐらい喋って、こう言ったんです。
「皆さんは稀な集団です。僕はもう全国で講演させていただいてますけど、男が9割っていう会場はね、いわば“生き地獄”みたいなものなんですよ。壁に向かって喋っているみたい。壁打ちしてるみたいなもんなんです。ところが皆さんは男ばっかりなのに、こんなににこやかな表情で聞いてくださった。感謝です。こんな講演初めてです」
みんな笑ってましたよ。
日本人の男って、なんでこんなに不機嫌で、なんでこんなに表情が固まったんだろうと考えたとき、すごく病的なものを感じます。とにかく男性主体だととにかく不機嫌ですからね。