地震に弱いマンションも"ビンテージ"として売れてしまう…「家が高すぎる」東京で起きている危機的な事態
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東京のマンションが高い。中古マンションでも一般的な世帯には入手が困難なほどだ。明治大学政治経済学部教授の野澤千絵さんは「耐震診断の結果、大規模な地震で倒壊する危険性が高いとされたにもかかわらず、耐震補強工事をしていない旧耐震基準のマンションまで、東京23区であれば、“ビンテージマンション”などと称して、それなりの価格で売れるようになってしまっている」という――。 ※本稿は、野澤千絵『2030-2040年 日本の土地と住宅』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
「都市化」しきったことによる開発余地の減少
新築マンションの数が少なくなった要因には、「開発余地」が減少していることがあります。つまり、時代を経るとともに都市化しきってしまい、マンション建設に適したまとまった敷地規模が少なくなったということです。
これまでは東京23区などでも、1980年代以降からの産業構造の変化や工場等の相次ぐ海外移転により、大規模な開発のできる跡地が生まれていました。しかし、バブル崩壊で不良債権となった多くの土地の開発も一巡し、大規模な跡地やマンション用地になるような敷地規模の空き地等は開発しつくされ、現在の都市部はいわば都市化しきった状況となっているわけです。特に、インバウンドや円安を背景に、ホテル用地などの需要が増えたことで、住宅以外の用途のための土地取得と競合し、それによりさらに地価が高騰し、マンション用地の確保が難しくなっていることもあります。
古い建物が建っていた土地を活用するケースや、隣り合った土地を共同化して新築マンションを建てるケースもありますが、その場合、古い建物を解体するためのコストや共同化するための合意形成、権利関係の整理に要するコストなどが必要になります。そして、開発余地を生み出すためのこうしたコストがプラスされることも、新築マンションの価格を押し上げる要因の一つとなっています。
都内各地で行われている市街地再開発事業
つまり、手を出しやすい土地が開発しつくされた今は、既存の建物がある土地をターゲットにして開発余地を生み出さざるを得ない時代になったと捉えることができます。
実際に、東京都都市整備局の「東京の土地(土地関係資料集)」によると、東京23区における2000平方メートル以上の土地売買件数は、2007年から2011年の5年間の平均で289件でしたが、2012年から大幅に減少し、ここ5年(2018年から2022年)の平均は72件にまで減少しています。
このように時代とともに開発余地が少なくなっていることもあり、都内各地で市街地再開発事業がさかんに行われるようになりました。そして、そこでは必ずといっていいほど、タワーマンションが建設され、多くの住宅が供給されています。にもかかわらず、住宅の入手困難化・高コスト化は進んでいます。なぜ、このような状況になっているのかは本書の第3章で詳細に述べたいと思います。
ちなみに、これまでマンション建設が首都圏ほど旺盛ではなかった地方都市では、むしろ2021年頃からは微増・維持となっています。これは近年、地方の主要都市でも、1棟建つだけで住宅供給戸数にインパクトがあるタワーマンションが建設されるようになったことも関係しているものと考えられます。