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【子どものミライ】一家に一台、ボタンを押したら食べ物が目の前に!食革命の実現を目指すOPEN MEALS
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2020年を間近に迎えた近年、さまざまなテクノロジーの進化で世の中が大きく変わろうとしている。私たちの子どもが大人になる頃にはどのような時代になっているのか。今の当たり前が当たり前ではなくなっているだろう。KIDSNA編集部の新連載企画『子どものミライ』#01では、食の当たり前を変えるべく開発を進めるオープンミールズ・プロジェクト発案者の榊良祐氏にインタビュー。食をデータ化して転送し世界中でシェアできる、新しい食スタイル。その構想から見えてくるミライについて考える。
私たちの身の回りの物事は日々、時代の流れや進化と共に変化を続けている。現に、スマートフォンや電気自動車など今や日常品となったアイテムは、一昔前の時代には存在していなかった。
進化する物事の中でも人間にとって必要不可欠なもの、そのうちのひとつが食文化といえるだろう。冷蔵庫やオーブン、自動調理器具など、食生活はより便利になり、インターネットの普及により世界中から食べたい商品のお取り寄せも可能になった。
その歩みは止まることなく、常に新しいテクノロジーにより前に進んでいる。では私たちの子どもたちが大人になった時、今の当たり前はどのような進化を遂げているのだろうか。
テレビアニメの世界で観ていたような、機械のボタンを押すと食べたい料理が目の前に出てくる、しかも自分の健康状態に最適化された栄養素で構成されるという、なんとも夢のようなマシンが開発されているという。そのマシンは2040年、今の子どもたちが成人をむかえたころに一家一台、食を中心としたウェルネスライフ全体を支えるパートナーとなるべくプロジェクトが進められている。
ミライの新しい食スタイルを提案するオープンミールズ・プロジェクトについて、プロジェクトの発起人である電通 榊良祐氏に話を聞いた。
オープンミールズ・プロジェクトとは
「食のテレポーテーション」と謳われる新しい食スタイルを提案するこのプロジェクトは、既に研究と開発が進められ、世界でも高い支持を得ている。まずはその全貌について聞いた。
食をテレポーテーションで提供
ーー「食のテレポーテーション」はどのように可能となるのか、まずはその仕組みから教えてください。
「世界中のあらゆる食をデータ化し"Food Base"というデジタル・プラットフォームに集約して、そこから好きな料理を選び、ピクセル型フードプリンターで出力します。
このフードプリンターのプロトタイプは、2018年3月にアメリカで開催されたテクノロジーの祭典"SXSW2018(サウス・バイ・サウスウエスト)"で、"スシ・テレポーテーション"として発表しています」
ーー世界に向けて発表済みだと、現実味が増しますね。現在はどのような活動を行っているのですか?
「食感が再現できるプリンターの開発を進めています。食感は食べ物を食べる上でとても重要ですが、この再現はとてもハードルが高い。"スシ・テレポーテーション"でいえば、生魚やお米などの生鮮食品を加工して"Food Base"にある食を再現する、というアプローチは、将来的には実現したいものの現段階では非常に難しいのです。
なので、今ある食の再現、というよりも、ニューフードとして誕生する可能性が高いですね」
ニューフードとして食データをシェア
ーー人類が食べたことのない食べ物になる、ということですか?
「そうです。".CUBE(ドットキューブ)"というデータ食のデジタル・フォーマットを発表しているのですが、そのフォーマットを使って食データを出力すると、人間には作ることのできない食感を作り出すことができます。
例えば、スポンジ状のものに出汁を染み込ませるバランス、食材と酵素の組み合わせバランスによって、食べたことのない食感を生み出します。そこに香りを加えると、味わったことのない食べ物になる。
その食べ物のデータをパソコンでプログラミングして、世界中のフードクリエイターたちが競い合うように新しい料理を開発するようになれば、料理数に応じてカートリッジの種類も増える。食データが"Food Base"に蓄積されればされるほど、新たな料理がどんどん誕生すると考えています。
"Food Base"は食のインターネット百科事典のような存在になり、開発した料理をインターネット上で発表しSNSなどでシェアされていけば、とても面白い食文化が誕生すると思います」
誰もが食べられる供給持続可能な原料
「さらに、将来的に一家に一台のフードプリンターと考えると、その大きさも重要です。例えば100種類の料理が再現できるフードプリンターには1000個のカートリッジが必要となると、機械が大きすぎて現実的ではなくなりますよね。
最低限の原材料をどのように加工すると、どのような料理ができるか。実現可能な方法を探っているところです」
ーー最低限の原材料とは、具体的にはどういったものになりますか?
「未来の食なので、原材料のベースは地球温暖化や気候変動やでも生産可能なもの、さらには食の多様化も進んでいるため、誰もが食べられるものを考えています。具体的には、米や豆、海藻、昆虫ですね」
ーー昆虫食は、最近話題になっていますね。
「昆虫は将来的に優良な食材と言われています。ヨーロッパでは既に昆虫を食材として流通していますし、WHOでもタンパク質が豊富なコオロギなどは有望視されているようです。
コオロギと聞くと抵抗がある人も多いと思いますが、美味しいのですよ。味としては煮干しに近く、よい出汁が出ます(笑)。調理するときも粉末状にして使う場合が多いので、混ざっていることに気づかず食べることができます」
オープンミールズ・プロジェクトが実現すれば、世界中の料理を食べたいときに食べることができる。しかし使われる原材料は、本来の調理原料とは異なるようだ。そこには、食を楽しむ以外の役割も担う、ミライの食の在り方があるようだ。
個人に最適化されるミライの食事情
本来の調理原料ではなく、誰もが食べられる栄養価も考慮した原材料を使用するのは、フードプリンターのサイズ問題だけではない。人間の健康状態を食を通じてサポートする、ミライの食の在り方について聞いた。
パーソナライズした食提供を可能に
ーー原材料として現在考えられているものは、どれもヘルシーな印象ですね。
「誰もが食べられるもの、というのは、食が細い人や生活習慣病などで栄養管理が必要な人、ベジタリアンやヴィーガンの人でも食べられるもの、ということになります。
欧米で既に話題になっている"ヴィーガンステーキ"と同じように、原材料に大豆や寒天を使い、プロの料理人のステーキデータをプログラミングすれば、病気療養中やもちろんヴィーガンの人も美味しいステーキを食べることができる。
さらには、よりパーソナライズな食の提供を可能にしていきたいですね。オープンミールズの出力機で、"Food Base"から食べたい料理を選ぶと、その日の自分のヘルスデータとマッチングした、自分に最適化された料理が出てくる。
完全なる食の再現も目指していきたい目標ではありますが、個人に必要な栄養を補うためのパーソナライズな食の提供こそ、世間のニーズに応える技術であり、このプロジェクトの最終的なビジョンでもあります」
ヘルスデータを自己管理するミライ
「データビジネスの中で最も重要になるのが、個人の健康状態を知るヘルスデータだと考えています。今ではDNA検査を個人で手軽に依頼できるようになりましたが、結果を見て終わり、という人も少なくないと思います。
大切なのは、必要な栄養素と体質的なデータなどをクロスさせ、自分に必要な次のアクションを知ることです。オープンミールズでは、そのアクションを食の提供という形で提案します」
ーー自分のヘルスデータに基づいて一本化した提案をしてくれる、ということですね。
「その通りです。将来的に、自分のヘルスデータは自分で管理したり、最適な情報を得るために売り買いをする時代がくると考えています。そんな時代になれば、『今のあなたに必要な食事はコレです』と機械が提案してくるのも、当たり前になるのではないでしょうか。
子どものためにお父さんやお母さんが料理を作っていても、栄養面では子どもの成長に必要な栄養素を補えているかというと、足りていない可能性もあるわけです。でもヘルスデータとオープンミールズの仕組みを使えば、子どもの食べたい料理で栄養素も最適化される。
これが普及すると、この仕組みからはもう抜け出せなくなると思います」
自分のヘルスデータを自己管理する。現代の感覚だとまだ抵抗感があるかもしれないが、世の中の当たり前は時代の流れとともに変化するものだ。この変化により自分や家族の健康を手軽に保てるのなら、人類にとってなくてはならい新しい食文化となるだろう。
発想も仲間集めも、"面白そう"が原点
画期的で夢と希望のあるオープンミールズ構想はどのような発想から生まれ、どのような過程をたどり現実的な形へと進めてきたのだろうか。
「本職でアートディレクターを務めていますが、ポスターを作る時などプロセスカラーを4色に色分解し、データ化してからプリントアウトする流れは食に使えるのでは?と思ったことが最初のきっかけです。
試しにフードプリンターを購入して、カートリッジに醤油やお酢などを入れ、イラストソフトで色を調合し、大豆でできた食べられる紙にプリントアウトしてみました。色の調合配分を変えることで味が変わることを発見し、これは食の転送を何かしらの形でできる、と思ったことが、具体的な行動に移すきっかけになりました」
"食"をハックし世の中を動かす
ーーそもそも、なぜ"食"に目をつけたのでしょうか?
「せっかく新しいことをするのであれば、すべての人に関係することをやりたい。では人が最も驚くことは何だろうと考えた時に、人間にとって切り離すことのできない"食"をハックすることが、人々の価値観を根底からひっくり返し、世の中を大きく動かすきっかけになるのではと考えました。
ただこれは表向きな動機であって、発想時点ではそこまで深い理由はなかったかもしれませんね(笑)。ただ自分は食べることも料理を作ることも好きで、当たり前に存在しているものに変革を加えアップデートするのは面白いかなと思った。それが一番の原点かもしれません」
技術と知識が集まれば不可能も可能になる
ーー構想を考えたとき、実現できる、という確信はあったのですか?
「実現できると思っていたのは、自分ひとりしかいませんでしたね(笑)。実際に"スシ・テレポーテション"も、構想はあるが技術はほとんどないタイミングで発表しています。そこから、興味を持ってくれる仲間が増え、今では夢を共有して一緒に作ってくれる人たちと共に実現に向けて動き出しています」
ーー実現に向かってある程度の確信が見えないと動けない人も多いと思いますが、不安はなかったのですか?
「自分の中では、最低限ここまではできるだろう、というのはありました。ただ、このような全く新しいプロジェクトは、できるかどうかは本当に未知ですよね。だからといって動かないと、何もできない。
今はベンチャー企業が増えましたが、彼らの構想は本当に成功するのかわからない。9割が失敗すると言われていて、成功者は1割。その1割になるために、構想を語り人と資金を集める。こうした仕事の進め方はこれからの時代、常識となってくるのではないでしょうか」
人は「面白そう」と感じることに集まるものだ。オープンミールズ構想も、SXSW2018で発表した当初のスシは、美味しいと言えるものではなかったという。それでも仲間が集ったのは、構想自体の将来性はもとより、ワクワクする期待感が人々を魅了したのではないだろうか。
新しい食スタイルと社会問題
オープンミールズ構想が実現すれば便利になる一方で、避けられない社会問題も出てくるだろう。それらに対する榊良祐氏の考察を聞いた。
丁度良い便利さを浸透させるために
ーーオープンミールズ構想は確かに理想的ですが、料理不要な世の中となることに抵抗のある人、特に料理好きなママは複雑な心境になりそうです。
「議論されている問題ですね。全自動化の一番の壁は、主婦の罪悪感と言われています。
以前にアメリカで、"混ぜればできるパンケーキ"を販売したとき、画期的な商品に一瞬沸き、すぐに売れなくなったそうです。ですが、『卵を一個加えて混ぜる』という工程をプラスした商品に改良したところ、とても売れたそうです。この差は、『私は家族に愛情を使えていない』という主婦の方の罪悪感を取り払ったことにあります。
結局のところ、オープンミールズのフードプリンターも、100%完成したものを出力するのではなく、人が料理をしていて楽しいと感じる工程を残さないと、人々に浸透していかないと思っています」
ーー自動調理器具などが続々発売されていても、代々受け継がれている先入観は根強いですね。
「食データとAI、フードプリンターと人が、良い関係になることが大切ですね。便利すぎると『テクノロジーは敵だ』と感じられてしまいがちですが、そうではなく、人間が使い方を誤ってしまうからそう感じるケースが多いのが現状です。
どんなに画期的な商品も、誕生してから何年か経ち、いろいろな使い方をさまざまな角度から試し続けた後に、便利な物と位置付けられるものです。人間とテクノロジーが丁度良い関係になるには時間が必要ですね」
外食産業やスーパーとの共存
ーーテクノロジーが進化する一方で、衰退してしまう産業もありますよね。オープンミールズの場合、外食産業やスーパーなどの食品小売り業が打撃を受けそうですが?
「自分は、オープンミールズ構想とリアルな外食は、うまく共存すると思っています。
オープンミールズ構想にはパーソナライズという価値が加わる分、外食や手作り料理とは別ジャンルの食として確立する可能性もあります。そうなると食に対するモチベーションや存在意義の価値観が変わってくるかもしれない。
こうなった時、人々が食に求めるのは"体験"になってくると考えます。わざわざ外食しなくても栄養状態は完璧。だけど、お金を払ってでも本来の原材料、お店で食べるその場の雰囲気、手作り料理ならではの味わいなどを体験しよう、という行動に移るのではないかと考えています。
フードプリンターである程度まで仕込み、出力後に調理するレストランなども出てくるかもしれませんね。食の当たり前が根底から変わると受け止めると、早いかもしれません」
食育も時代とともに変化する
ーー食の価値観が変わると、子どもにも食のありがたみを伝える食育も変化する必要がありそうですね。
「変わるでしょうね。『豚さんから命をいただいているのだよ』という教えが正義なのか。あるいは『命あるものを殺さずにいただける細胞培養という手段ができたのだよ』という教えが、新たな正義になるかもしれませんよね。
教育する側の常識は一世代前の常識で考えているので、時代の流れに沿っているか、という疑問も生まれます。今の子どもたちが大人になったとき、食に対する正義やテクノロジーの進化によって、常識の基盤自体が変わっているかもしれません」
今の食の常識から理解しようとすると、疑問や懸念点が出てしまうのは当然かもしれない。当たり前だと思っているものが徐々に形を変えていく中で、常識や価値観の変化を自然と受け入れるようになり、まだ見たことのないミライはそうやって作られていくのかもしれない。
榊良祐氏が考えるこれからのミライ
最後に、榊良祐氏が考えるこれからのミライについて聞いた。
ーー今の子どもたちが大人になり社会人として活躍する頃には、オープンミールズ構想もかなり進んでいるでしょう。その頃の社会を生き抜くために、どのような意識が必要と考えますか?
「既に始まりつつありますが、個人がいろいろな物事、例えば企業や組織、住む場所などに縛られない社会になっているでしょうね。ヘルスデータを自己管理することも含め、自分のあらゆる情報を自分で管理する時代になると思います。
仕事のやり方も変わるでしょう。既に情報を発信できるツールが豊富に存在し、情報も技術も均一化されつつある中で、自分が持っている構想や技術をパワーのある企業が先に始めてしまったら意味がなくなってしまう。
だからこそ、自分の持っているものを公開して、それに賛同し一緒に作り上げてくれる人たちが集まる"オープンイノベーション"のやり方が今よりもさらに進むと思います。
こうした社会では、自分で考え選び取り行動する力が必要となります。子どもたちが柔軟にミライを生きるためにも、この能力は身につけさせていきたいですね」
ーーちなみに、榊さんが幼い頃に思い描いたミライと今は、相違ないですか?
「自分は幼い頃、今でいうレトロフューチャーにワクワクする、どちらかと言うと空想しがちな子どもでした。テクノロジーによって人間が快適に過ごせる世界に進化しているという点においては、昔のワクワクしていた期待感と現在は、そう外れてはいないと思います」
編集後記
「食のテレポーテーション」の話を初めて耳にしたときは、何と近未来的な企画だろうと不思議な感覚を抱いたが、話を聞けば聞くほど、「瞬間移動する最適化された食」が日常化されるミライはそう遠くないかもしれない、と感じられた。
榊良祐氏は本職でコミュニケーション・デザイナーを担っていたこともあり、発想のそこかしこにエンターテインメントの要素を感じ、話を聞いているだけでワクワクする。オープンミールズ・プロジェクトに期待を込めて見守る私たちができることは、応援し支持することはもちろん、彼らの夢を持ち積極的に前進を続ける姿から、自らの夢や希望に向き合うことの大切さを自分だけでなく子どもたちへ伝えていくことなのだろう。
KIDSNA編集部
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